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【小説】シャボン玉ガール(仮)

快晴。あまりこの時間帯の空をそう呼ぶことはしないが、それはきっと漢字のせいで、この空は快晴だ。ゆるりとした風がきもちいい。なんだかすき焼きが食べたくなる。けれども今日は唐揚げだろう。あたしは昨日鶏肉を買って帰ったし、唐揚げが食べたいんだと少し大げさに主張した。ちくしょうめ、失敗したな、今は完全にすき焼きが食べたいぞ。
「ママ見てー。」
前を歩いていた子供が空を見上げて指をさす。その声につられてあたしも同じ方を向くと、ゆらゆらとシャボン玉が舞っていた。出所を目で追うと、くしゃくしゃ頭でTシャツの男が緑のプラスチックをくわえながらシャボン玉を吹いていた。彼はあたしが見ているのに気づくと、手を振りながらニコッと笑った。少し恥ずかしいけれど、あたしも手を振ってこたえた。あそこはあたしの帰る家で、あの人があたしの帰る場所。いい歳しながらシャボン玉を吹いちゃうようなところに、あたしはホレたんだと思う。

「ただいま。」
部屋に入ると、そのまま彼のいるベランダへと向かった。
「うい、おかえり、みゆきちゃん。」
「久々に見た、シャボン玉吹いてるとこ。」
「んー、天気も気分もいいからね。みゆきちゃんもやる?」
そういって、彼はあたしに緑のプラスチックを渡した。自分はビールの缶を手に取る。ちょっと酒臭い筒を吹く。彼は隣で空を見てた。
「僕ちょっとトイレ。あ、晩御飯唐揚げじゃなくてもいい?」
「ん?何にしたの?」
「すき焼き。」
仕方ないなあと答えると、彼はすまんねと言いながらトイレに行った。こういうところすごいなといつも思う。とても居心地がいい。男の子ってなんでトイレに行くって言うんだろうなとか考えながら、あたしはシャボン玉を楽しんだ。

「ほいよ、みゆきちゃんの分。」
戻ってきた彼はビールを二缶持っていた。
「ありがと。」
「なんか急にすき焼き食べたくなっちゃってさ。帰りに買ってきちゃった。あ、部屋着そこに置いておいたからね。」
「お、ありがと。相変わらず気が利きますな。」
「至れり尽くせりでしょ?」
「ほんとね。」
そう言って乾杯をする。普通のビールの普通の味がした。

「今日ねー、実はすき焼き食べたかったさ。」
着替えながら料理中の彼に言った。換気扇の音がぶぅーんとうるさい。
「あら、そうなの?唐揚げじゃなくて怒られたらどうしようかと思ってたよ。」
そう笑いながら彼はネギを切っている。
「あたしそんなに怒りっぽいかな?」
隣に立って彼に問う。
「んー、わりとすぐムッとするしょ。」
ふふっと笑う彼が可愛くて、あたしは肩にキスをした。包丁持つ手を止めたから、顔を触ってキスをした。
「危ないしょ、包丁持ってるのに。」
「ムッとするとか言うからでしょ?」
「そういう顔も好きよって意味よ。」

#小説 #短編小説 #中途半端

※2017年の作品です。もう少し先まで書いてた気がするけれどここまでしかログが無かったです。
シャボン玉をテーマに1本書こうと決めて書きました。

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