同僚だったおっさんのこと 6
うーん、と思う、キャンさんのこと。
キャンさんはかわいそうな人だと思う。癌になったし、仕事もクビになりそうだし、あからさまにバカ扱いされてるし。
彼をいじめることには不賛成だが、正当な土俵に乗せて評価すると、それは犬扱いに近くなってしまう。仕方ないことだ。正直、こんなに素質がないのに営業してる人見たことない。
キャンさんを見るとき、僕の目は多分曇っている。普通の人に対してなら「おまえふざけんなよ」って普通に言えるレベルの手抜きをしているのに、キャンさんに対しては、アレがアレだから言わんとこ、と引っ込めてしまう。
キャンさんの殺しやすさは、殺すつもりのない僕の手を止める。キャンさんは、殺しやすすぎて、一切の攻撃を受けにくくなっている。文化的な身の守られ方だな、と思う。もうちょっとブルータルな文化圏なら、たぶんキャンさんはもう原型をとどめていない。
今日はっきりしたのだけど、キャンさん、会議資料に嘘書いてる。
嘘の引き合いを見込みとして報告して、もらってもない見積もりしてる。
せっかくもらった見積もりも、よくわかんないしどうせ決まらないからって言って適当に出してる。しかも値段も同僚に聞いて2割くらい乗っけて出してる。
会社の人にバラすとキャンさん即死するからこの辺で愚痴るけど、キャンさんの引き継ぎほんとひどい。
殺せるし殺すべきなんだろうなと思うものを殺さないでおくストレスがハンパない。殺したことによる後味の悪さがブレーキだから尚更ストレスフル。
あたし一体どうしたらいいの。
問題は、キャンさんにはっきりとした悪意があること。
身を守るためであれば欺いていいってわけじゃないのよねー。
ちなみに、これはキャンさんが通常の営業から外される直前の話。
具体的に言うと、一度行っただけの会社から引き合いがドバドバ来ているという嘘を書いたりしていたのだ。なんでそんな嘘つくんすか、と聞くと「仕事持ってそうだなあと思ってたんですよね」という目を覆う理由。
一応、と思って引き継ぎを理由に(引き継ぎすることなにもなかったけど)挨拶に行ったら普通に仕事が出てきた。
キャンさん!
キャンさんの引き継ぎ、どうだ?って聞かれなかったから答えなかった、という義理を果たしたつもりだったが、そこからの割と大きめの仕事を決めて僕の会議資料に載せ直したところ、僕不在の会議の場で「あの新規開拓はもともとぼくの得意先だったんですけどね」って言ったとか言わなかったとか。
ぐうの音も出ないほどの畜生、本領発揮。
ちなみにキャンさんは、実在する40代後半(当時)男性、小学生の子供ありです。実在します。
この後のボーナストラックは「社長、キャンさんのことを語る」の話。
課金するかメンバーシップに加入すると読めます。キャンさんのシリーズは全9回予定です。
続く
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