師事のこと(2016年1月12日採集)

生まれてこのかた、ひとに師事したことがない。

師を求めて彷徨い歩いたが、誰も弟子をとってはいなかったし、こちらも、その人に並んでみたかっただけで、その人になってみたかったわけではなかった。

人を教える、ということは少し怖いと思う。ふとすると自分の劣化コピーを作るだけになってしまう。芸事なんかは特にそうだ。

弟子に己を超えてほしいと願うのは勝手だが、そもそもか超える気のない弟子ならどうだ、と思う。それは僕らの手に負えるものか。

贋作師は、本物を目指さぬという。

真作を目指して作っては上手くなく、真作の作者が目指したものを見据えて作って、ようやく贋作と呼べるものに仕上がるという。

芸事の稽古は、悪い所を徹底的に打ち直すことという。長所は放っても伸びるし、伸ばすやりかたなど本人以外にはわからぬという。

叩き、削り、すりつぶしてよいものだけを残すという。

敵わない相手から、徹底的にけっちょんけちょんにされたい、といつも思う。師事したことがないから、師というものに寄せる期待が膨れ上がりすぎて、空想上の生物になってしまったのかもしれない。

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