ハニカムウォーカー、また夜を往く(ボイスドラマ版)パート8
暴力が間違った方法だと言うなら、間違った方法の方が効率がいいっていうのは、おかしいと思うんだよ。間違った力に頼って発展した文化は、一度、その力が存在しなかった頃まで戻らなければならないんだろうか。
たとえば君たちエルフは、魔法で火を起こす。それ自体を否定するものではないよ。でも、今の時代にはフリントだって存在するし、千年熾だってある。ナパームだって、高価だけど手に入れられないわけじゃない。
その時代にあってさ、鉄と火薬は「間違った文化」だって言われても、はあ、そうですか、ってところだと思うんだよね。間違っているといえばそうなのかもしれないけど、でも、まあ、もうこれなしに世界は動かないようになっているしなあ、って。
そこに来て暴力だ。
わたしたちは、古来から狩りをして食べるものを調達していた。これだって一つの暴力だ。狩られる方だってただ食べられたんじゃ面白くないから抵抗する。ふたつの暴力がぶつかって、勝った方だけが生き残る。これは、生き残った方が「より間違っている」ってことかな。
別のクランからカチコミをかけられたら反撃して自分たちの家族を守る。これも暴力だ。間違ったものに対して、身を守るための暴力なら許されるって言うんならさ、世界がわたしを殺しに来ているとしたら、わたしのすることは「なんだって許される」ってことになっちゃわないか?
今だってそうさ。
わたしが君の拘束を解くと、君はわたしを殺そうとするだろ。その場合、全くの善意から君を自由の身にしようとした「わたしが悪い」のか?
いやまあ、わかってるよ。そんな顔しないでほしい。
そうだよ。この場合、その原因をわたしが作ったのがそもそもの原因だ。でもさ。
じゃあ、たとえば「君を拘束したのがわたしではない誰か」で、わたしはたまたま通りがかった殺人鬼だとしよう。わたしはまだ何もしていない。ただこうやって、爪を見せびらかしておしゃべりをしているだけ。確かに君のことは殺すつもりでいるけど、「まだ何もしていない」。
今、ロイヤルガードが飛び込んできて戦術魔法でわたしを黒焦げにしたら確かに君は「助かる」。
けど、わたしはどうなるんだ?「まだ」何にもやってないのに。
まだ起きていない罪でわたしに罰を与えるのは、正しいことで許される「暴力」なんだろうか。仮にわたしが、本当の善意から君の拘束を解こうと手を伸ばしたこの手を、君たちが振り払うだけでなく焼き尽くそうとするとしたら、それは。
ああ、そう。
仮定の話さ。
わたしが言いたいのはね、手段は手段でしかないってことなんだ。どんな時も目的によって手段が正当化されたりはしない。
同じように、手段によって目的が非難されたりするべきじゃないってこと。暴力は暴力。ただそこにあるだけで、いいものでも悪いものでもないんだってことさ。
「ハニカムウォーカー、また夜を往く」より
定期的に更新してます。第一話、「ルールとマナー」は全編ノーカットの音声化です。全11回です。
作者が一番好きなくだりです。これ、別に感慨なく、するっと書いたんですがこの部分が後々割と効いてくるというのは不思議な感覚でした。
ちなみに有料1000円ですがDLもできる全部載せ版もあります。
これ、毎週楽しみに聴いてもらえるのもうれしいんですが、没入してマジで通して聴いてほしいんですよ。すごいエモいんですよ。
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