熊を素手で殺す方法の話

くまと言えば、儂の故郷の成人の儀式では、素手で羆を殺さねばならんでな。

じさまが丁寧にやり方は教えてくれるんじゃが、なかなか上手くできんでな。この歳になるのにまだ成年しとらんのじゃ。

まず、羆を怒らせるんじゃ。けっこう初手からハードル高いじゃろ。

ともあれ、怒ると羆は立ち上がるでの。

立ち上がった瞬間に懐に入るんじゃ。

熊の骨格というのは、ベアハッグとか言うてはおるが、胸ぴったりにくっつくと爪は届かん、抱きしめる力も入らんな。苦し紛れに背中を幾らかは引っかかれるじゃろうが、そこは我慢できる範疇での。

おまけに野生動物は、どんな動物でもそうじゃが、どうしても背中から倒れることができん。怖いんじゃろうな。

じゃけえ、わしが懐に入っとる限り、羆は儂を押しつぶそうと、前へ前へ体重を掛けるしか手がのうなるんじゃ。ここをぐっと堪えにゃあいかん。堪えんと潰されるだけでの。

この時に、片手で喉の下を喉輪の要領でおしあげるのを忘れると頭ぁ齧られるで注意が必要じゃが、喉さえ押さえてしまえば、羆は倒れるにもいかん、潰すもいかん、齧るもいかんで、どうしようもなくなるんじゃな。

あとは、反対の手が空いちょるじゃろ。

その手で羆の喉の脇を探してみい。あるじゃろ。

頸動脈。

こりこりしたのがわかるけえ、あとは、ゆっくりそれを、ぎゅっ、て。

話だけ聞くとできそうな気になるじゃろ。むずいでな。自己責任じゃで。

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