2023年10月の歌 テーマ(空港、駅)
ハワイへと嫁ぎゆく吾(あ)を見送りて母は声上げ泣きぬと聞きたり
高台の病院に並ぶ窓灯りそれぞれの窓にそれぞれの訳
鵜川登旨
「孫の手」の用途を説明する夫に笑いをこらえる保安検査員
ケンカする訳は色々あるけれど口がなければ「喧嘩」にならない
大室やよい
乗り換えのゲートを見つけて腰下ろし案じて待ちいる娘にラインす にわとりは網戸の外に猫は内に向かい合い眠るけだるい三時
岡まなみ
丸三つ満月街灯ホームの灯車窓に並ぶ どこに着いたか
満月は雲に隠れて現れてあわれゆかしい中秋の雅
小野貴子
空港で またねと言いしが最後にてまたねの時は再びは来ず
悲しみは日々に深まる親よりも先に逝きたる子を持ちしこと
近藤秀子
ランナーの背中でゆれるタスキ見ゆ箱根駅伝往路の坂道
八人の客を降ろし鈍行は月夜の空へ吸い込まれ行く
関本なつ
人生の終着駅はいつまでもしあわせの駅たどり着くまで
空港で待ち合わせの日特別でドキドキしてる貴方が来るの
田中えり
線路わきの畑にバラの咲き乱れ鉢にリンゴの実る駅過ぐ
小雨降る旅路の午後のひとときをパブの暖炉の前に過ごしぬ
筒井みさ子
38階窓よりながむ茜雲赤き雲間に機影みえたり
グーグルを開けばクリミア燃えるよに丘一面に赤き芥子咲く
原 葉
シャッターに閉ざされてゆく駅前に老舗の蕎麦屋の暖簾はためく
千切れたる羽はためかせ蝶々はただひたすらに花へと向かう
藤代敏江
トロフィーをめでたく手にしたミスフラの優雅さ愛嬌輝く若さ
ヒロの町スポットライトの輝きに眩しさ嬉しいアロハスピリット
三浦アンナ
夏の陽に戸惑ってるだろ彼岸花時を忘れず畦を染めたり
若者と外人行き交う京都駅ではぐれぬようにとシニアの二人
森田郁代
帰省せし子を迎へては送り出す嬉し寂しの年月巡る
唐突に蝋燭のごときつぼみだし暦違へず彼岸花咲く
山下ふみ子
空港は広い空へと羽広げ未来へ飛んだ我のふるさと
君を追い駅まで駆けた若い日の記憶は褪せず脚は老いたり
小島夢子
「ご自由に」と籠にあふるるトウモロコシふと降り立ちし田舎の駅に
見上ぐれば夕焼け空に三日月の凛々しき横顔ツンとすまして
楽満眞美
老母(はは)に会うそのためだけに雲の上三泊五日の忙(せわ)しき社畜
想い出とお土産たっぷり呑み込んだスーツケースがゴロゴロ走る
六甲もこ
降り立てばプルメリア匂うこの場所は亡夫(つま)と出逢った
第二のふるさと
秋となり陽射しも風も爽やかに庭の草木は緑濃くなり
伊藤美枝子
孤を画く水平線を残照はくっきり見せて徐々に昏れ行く
「カサブランカ」時の流れはセピア色カメラ捉えし明日は何色
今森貞夫
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