2023年9月の歌 題詠 線
電線に掛かりて朝の月淡し「昨夜(ゆうべ)はごめん」と
夫にメールす
添加物のたっぷり入ったドレッシングにまみれてサラダは
妖しく光る
鵜川登旨
巨大なる線香花火の火の玉が水平線にぶよっと沈む
「気をつけて」車道の我に言いながら目の前の棒にぶつかる夫
大室やよい
手を触れればブルーベリーはホロホロと落ちてバケツの
重みを増し行く
摘み取ったベリーを茶碗に山と盛り紫の粒をパクパク頬張る
岡まなみ
どこまでか 境界線を探りつつ子との会話を笑顔で進めん
おそろいのアロハウェアで手をつなぎワイキキ歩く二人に幸あれ
小野貴子
「ごはーん」と呼ぶ声のする夕まぐれ道に線引き一日遊んだ
昭和の子白墨一つあれば良し道に線引き遊び呆けぬ
小島夢子
大空を真白くほそき線となりのぼりゆきたり飛行機雲は
蔓さきに目のあるごとく絡みつつ塀に咲きたる鉄線の花
近藤秀子
黒焦げのバンヤンの木の声がする泣いてたまるか再び芽吹くさ
前線が南の海をかけて来る白波高く黒雲逆巻く
関本なつ
線と点つながるように繰り広げ次元を越えて世界を越えて
しあわせの極地に至る瞬間の今この時が頂点になる
田中えり
客足を新幹線に奪われて長崎本線ほそぼそ走る
リアーナの歌にあわせて曲げる腰がぎしぎしと鳴るズンバ体操
筒井みさ子
火事あらしマウイの古都を焼きつくし後後(のちのち)
のこるかなしみふかき
ホームかけ見送りくれし六才児上気した顔にわれもうるうる
原 葉
この島に戻り来たりコレア鳥冬羽コーデでクールに闊歩
アサガオの葉を食べ尽くし丸々と太りし芋虫隣の鉢へ
藤代敏江
四年ぶりの世界に名高いフラ祭りチケット完売ヒロは賑わう 生涯をフラに捧げしクムフラへの賛辞を踊りで表す生徒ら
三浦アンナ
輝きて赤いしずくの落ちるまで線香花火を見つめし遠き日
秋風を待ちきれぬのか虫の声熱気の冷めぬ夜の庭より
森田郁代
訪問日を暦に線入れ待ちし母そそくさと去る我に手をふりし
盆過ぎて庭木や簾に空蝉残し酷暑の終わりを待ち望むなり
山下ふみ子
礼状の一筆書きの文字線に浮かび来る友のしなやかな指
百寿者を明るく生きし母常にわくわくごとを見つけ笑えり
楽満眞美
忘れまい焦土と化したラハイナで生きながらえるバニヤンの樹を
待ち侘びたスカイラインが始動した白い線路はずんずん延びる
注:スカイラインとはオアフ島の鉄道の名称
六甲もこ
果てしなく一直線の水平線まるい地球の大きさは如何に
耕せば出て来た虫を一瞬にパクリと食べたヤモリに手が止まる
伊藤美枝子
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