2024年2月の歌 題:歌
シアトルの美術館で浮世絵展を見て
歌麿の描く女の髪の艶 時を越えても色香は消えず
浪しぶき小舟呑み込む音のする櫂こぐ漁師と白き富士山
関本なつ
聖堂のステンドグラスに入り日映え夕べの祈りの歌始まりぬ
聖歌隊のカウンターテナーの声透き通り旅路の胸の奥深く沁む
筒井みさ子
香港の初船旅の遠き日よひときわ明るき「味の素」ネオン
注:返還前の香港
中国の影すら見えぬ香港にイギリス領の街なみのあり
原 葉
万智さんを真似て作ったそのひとつパーマ記念日いつだったっけ
ぐいぐいと猫は頭を押し付けて撫でろと要求「かしこまりました」
藤代敏江
しみじみと心にしみる「舟唄」を聞かせくれたる人の今は亡く
小さくなった袋菓子にダイエット向きと苦笑いする
森田郁代
会ふ度に母と歌った「浜千鳥」反すうしながら一人の散歩
雪の舞ふ奈良公園に親子鹿か細き足で寒風に立つ
山下ふみ子
「あいたい」と繰り返し歌うシンガーの声に重ねて亡き母想う
注:「あいたい」=林部智史が歌う
葉陰よりピンク覗かす寒椿のつぼみの束を陽当りに置く
楽満眞美
マーシャルの年越しの歌高らかに空満たしつつ迎える日の出
注:マーシャルとはマーシャル諸島のこと
不機嫌な顔は見せかけデコポンは甘〜く優しい可憐な果実
六甲もこ
わらべ歌聞けば懐かしミヨちゃんと手遊びしていた思い出遠し
年重ねソファに登れぬ姫君は「クァーンクァーン」と美声で歌う
伊藤美枝子
風呂場から夫の鼻歌聞こえ来て夕餉の支度に手の弾みたり
ワイキキのパラソルのカフェに席を占め道行く人を犬と眺める
鵜川登旨
コーラスグループの慰問
老婦人の「さくさくら」と声合わせ歌いくれたり介護棟にて
停電後に息吹き返しし湯沸かしと水槽の呟き静寂破る
岡まなみ
KZOOのコマーシャルから流れ来る夫の歌声「たんたんめーん」
かるた会のあとに泳げば荒波が我と一緒にはしゃいで撥ねる
大室やよい
築七十年古屋の柱を切りまわしモダンなキッチンに亡き父母顕(た)ちくる
歌詠え 心のうちをみつめれば喜怒哀楽は鎮まりゆくや
小野貴子
歌の海二月の波にAIが知恵の帆張りて未来へ進む
歌紡ぐAIの指冴え冴えと無限の可能と夢を追いかけ
小島夢子
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