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昔の彼を検索してしまった話

著者:杏ワイルダー

高校生の娘が先日、本屋で面白いものを買ってきた。


「My Mother’s Life」「My Father’s Life」という本、というよりノートに近いかな…ページを開くと幼少期から大人まで、お母さんとお父さんがどういう風に過ごしてきたかを知るために、いろいろな質問が用意してある。その下にメモ欄があって、答えが書けるようになっている。

最近娘は暇を見つけては、その本を片手に「あのさ〜高校生の頃、どんな洋服を着ていた?」とか、質問してくる。


そして昨夜の質問は、私の「元カレ」に関する質問だった。


話は2年ほど前に遡る…

高校の同窓会のお誘いを受けたのは、まだ「コロナ」という言葉さえ知らなかった頃のこと。卒業以来、同窓会に1度も参加したことのない私は、「今度はぜったい行くから!」と返事した。老けてみんなに気付かれなくなる前に行かなきゃ…だわさ。


せっかく行く気満々だったのに、コロナが大流行中の昨秋開催予定だった同窓会は延期された。


延期が決まったと、かつての級友たちがLINEのビデオ通話で連絡してきた。もうひっさしぶりの再会だったけど、(外見以外)あの頃とちっとも変わっていなくて、相変わらず憎たらしくて、いいヤツで、泣きそうになった。

その晩、思い出す限り、旧友の名前をフェースブックやGoogle検索で調べてみた。建設会社の社長になっていたり、乳がんサバイバーとして活動していたりと、みんな頑張っていた。

ふと思った。「アイツはどうしているかな」


10代後半の頃にバイト先で知り合った、唯一真剣に付き合っていた昔の彼だ。


彼が今何をしているか、これまで1度も調べたことはなかった。あまりに真剣に付き合っていたから、調べたら夫に失礼なような気がしたからだ。


でもあの日、級友たちと久しぶりに再会し、気分が高揚し、つい調べてしまった。

いつかパン屋をオープンするという夢を熱く語っていた彼は、なぜか関西という遠地で小さなレストランを経営していた。著名人が来店したり、テレビ番組や雑誌で紹介されたりと、地元では話題のお店だった。

雑誌に掲載された「シェフ紹介」の小さな写真を、老眼鏡をかけて必死で見たら、昔と同じ彼だった。面影が全く残っていないことを望んでいた。昔とあまりに変わらない彼の姿に、夫への罪悪感が募った。でも、可愛らしい奥さんが店を切り盛りしていて、なぜかホッとした。

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そして昨夜のこと…


実はね、と付き合っていた彼がいたことや、1年ほど前に昔の彼を検索して調べたことを娘に話した。白状すれば、いまだ消えない罪悪感が薄れる気がしたからだ。


「お父さんには決して言わない」「このノートにも書かない」と約束させて。

娘はどんな人か見たいというので、例の「シェフ紹介」の小さい顔写真を見せてあげると、「ふ〜ん」と薄笑いを浮かべた。そして「ま、いろいろあるさ」と私の肩を叩いたのだった。


む、娘よ、何様のつもりだ!

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