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山男と白馬駅のラーメン

白馬登山のために夜行列車にのって新宿から白馬駅に行った時代があった。夜行列車用の弁当を新宿駅で買いに行って乗り遅れて翌朝始発で向かった事もあった。ホームから見た車窓に流れる友人達のウソだろ?という顔を今だに思いだす。全員分の弁当はホームに取り残しにあった自分が持っているし、なんならクソ重い冬山用荷物は友人と一緒に電車の中だ。白馬方面にスキーに行く若者も夜行にぎっしり乗っていた。今はもう夜行なんかないしラーメンを売っていた白馬駅の二階の定食屋さんも長野オリンピック騒ぎで駅を改装してしまったからとうにない。そんな感じをもうわかる人が何人いるかわからないが、真冬の朝まだ暗い頃に着き白馬駅で肉味噌ラーメンなるものを食べるのが自分の一つの楽しみだった。 よくタンメンなんかに入っている脂身と肉が半々くらいの豚を炒めたコマ肉と、たっぷりの野菜がなんとも言えないくらい旨い味噌のスープに入って寒い真っ白な雪国の景色に幸せいっぱいの湯気をたてていた。味噌スープの中にわからないくらいの隠し味の豆板醤とニンニクのようなものが溶けていて、唐辛子の優しい辛みが身体に温かい。毎回の登山前の至福の時間だった。安曇野方面で場所すらもうわからないし、そこもとうにないだろうが鴨南蛮を手打ちの蕎麦で食べさせてくれる店があった。炭だったのだろうか、蕎麦に載せたらジュウジュウいいそうなくらいカリカリに鴨の皮を焼いて、その皮を焼いた時に滴り落ちるローストの匂いが染みた鴨のオイルで、3センチくらいの長さに切ったネギを半分に縦切りにしたのをサクッと表面だけ焼いて、熱々のダシと醤油ベースの蕎麦に載せて出してくれた。カリカリに焼いた鴨やネギから汁の中にジュウっとじわじわ広がる香り、うまかった。そんな場所がたくさんあった。今の時代はとても便利でそんな郷愁だけで昔に戻る事は考えられないけど、そんな店が普通に経営して生きていきづらい時代になってしまったね。コンビニおにぎり片手に山登りしても山はとってもいいんだけど、装備も格段にに良くなってるし。ただ今の若い人にもそんな楽しみがある店が生き残っていける時代になるといいなと思う。そんなふと心が癒される場所がみんなにできますようにと。



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