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雨駆ける

「前線は緩やかなペースで北上しており…」 
 腰に付けたラジオから気象予報士の心配そうな声が聞こえる。「まずいな」と男は思った。彼は今、雲の中を走っていた。雨雲を運ぶのが彼の役目だった。
 だが近年は気温が上昇し、幾重にも膨らんだ雲に足を取られる選手も多い。だが、それではいけないのだ。前線を停滞させてしまえば、地上に大きな被害が出てしまう。

「なんで梅雨っていうんですか?」
 ラジオでは幼い視聴者からのお便りが読み上げられていた。男はポケットから梅干しを取り出して口に含む。あまりの酸っぱさに、ピカッと雷を落としてしまったが、それで目が覚めた。

「雨脚がグングンと強まっております!」
 日本中が列島を駆ける雨の行方を追っていた。しかし空に晴れ間だけを残して、太平洋まで走り抜けた雲は天気図から姿を消してしまう。
 だが人々は見るのだ。天架ける虹を渡って、夏の季節とともに戻ってくる彼の姿を。

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