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思い出のかげぼうし。

ひさしぶりに散歩に出かけた。
買い出しやら通院やらで外出自体は頻繁にしていたが、ひとりで意味もなく歩くということは、随分と久しぶりに感じる。

ちかくの神社まで、十分もかからない短い短い散歩道。
夕方の町は少しだけにぎやかで、帰宅する中学生の自転車とすれ違うたび、なにかを忘れているような気持ちになる。
なにを忘れているのかはわからなくて、きっと思い出というものの影だけを無意識に心が追いかけているのだろうな。
近くの植え込みから、ほのかに金木犀の香りがした。

  〇

ここしばらく、調子が悪かった。
なんて書くといつもは調子がいいみたいだけれど、そういうわけでもない。だが、特にこの半月ほどは調子が悪かったようだった。

理由は単純で、復学に際しての気持ちの落ち込みや、姉と喧嘩してしまったことや、PMS。あるいは急激な温度差なんかも遠因に数えられるだろう。

私は過度なストレスがかかると、自閉する傾向にある。防衛本能のようなものだと思うのだが、一日中編み物をしたり、あるいは布団からほとんど出なかったり。これが度を超すと三週間籠城の末に休学なんてことが起こるので恐ろしい。

『書けなくなる』ことがある。
この数週間は、だいぶ書けなかった。感情が散り散りになって、それぞれ違う方向へ向かって歩き出すような、そういう気持ちだ。なににも集中できなくて、何を書けばいいのかわからなくなる。
鬱々としたことや、あるいは後ろ向きな言葉ばかりを綴りそうで、恐ろしくなる。
言葉にできない感情なのか、言葉にするのを恐れているのか。その両方かもしれない。そこにいるのは酷く情けない自分で、虚栄心や、見栄や、なんだかそういうものの存在を浮き上がらせるから。

書けなくなる時が、すごく怖い。
言葉だけは自分の味方でいてくれると、意味もなく信じているからかもしれない。それを裏切られるのが怖い。裏切りなんて表現、まちがっているんだろうけれど。

  〇

散歩に出かけた。
片道十分をあちらこちらに寄り道しながら二十分かけて。
百日草に、コスモス。稲穂は頭を垂れている。
金木犀の植え込みを、三つみつけた。この秋は、あといくつ見つけられるだろう。

日が落ちるのが早くなった。
目の前を、スイミングスクールの送迎バスが走る。赤と白の、あのバスの形と色。私が小学生の頃から、あのバスの形は変わってない。
白いヘルメットをかぶった自転車の中学生が、競い合うように自転車で通り過ぎていった。

ふと、文章が書きたくなった。
金木犀の香りと、秋の風と、夕暮れをたゆたう街のこと。

不思議と思い出のかげぼうしを追いかける、そんな一瞬の事。
それを、文章にしたくなった。

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