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破片をかき集めて

パソコンのデスクトップ。
購入してから一度も変更していない、名前も知らない鳥の画像の上に、乱雑にファイルが並んでいる。
『エントリーシート』『履歴書』『〇〇社提出用』
wordだったりPDFだったりメモ帳だったり、ここ四カ月程でそんな名前が並ぶようになった。
そのなかに、『破片』と銘打ったファイルがある。
そこはなんというか、ごみ箱みたいな、墓場みたいな。

体積して、体積して
いつかそれが培養土になる日を、私は待っていたりする。

身体は二重構造だと思う。
内と外。内殻と外殻。
しっとりしてて柔らかい部分と、かさついていて固い部分。
この四カ月ほど、その外側の部分で外部と触れていた。現実とか、お金とか、成長とか、勝ち組とか、負け組とか、そういうもの。

簡単に言えば、就活である。

別に就活についてのあれこれを話すつもりはなくて、そういうのって世の中にごまんとあふれていて、今更私がこのがさ付いた荒野の空気に晒された話をしてもしょうがないと思うから。

しわしわになった心の柔らかい部分に水をやるように、部屋にある観葉植物に水を遣って、なんとか正気を保ってる。私の思う正気というのは、日中空を眺めてぼんやりしたり、梅雨の晴れ間のからっとした風を浴びながら昼寝をしたり、朝一番の河川敷を歩いてアジサイをめでたるすることなんだけど、これはきっと社会に出たら正気じゃないんだろうなとも思う。

この四カ月で部屋に観葉植物が増えた。心のうるおいを取り戻すために、緑を無意識に求めている。先日百十円でシノブを入手した。庭の苔で苔玉仕立てて、毎朝ぼんやり眺めては、時々霧吹きで水を遣る。

緑に朝日が透けて見えて、静かに光っている。
苔とか、山野草とか、そういうものに生まれたかったとか、馬鹿なことを考える。

私は文章を書く時、なにか心の柔らかくて瑞々しい部分から、材料を取り出すイメージをする。小学生がみるもの全部に瞳を輝かせるような、そういう気持ちに戻る。

四カ月、そういう気持ちを奥底に押し込めて、精一杯「大人」を演じて面接をして、山のようなお祈りメールを前にして落ち込んだりしていた。

社会人になるって、こういう皮を一生かぶる事なんだろうか。なったことないからわかんないけど、そうじゃないといいなって、ひそかに願ってる。

なんとかかんとか、ひと段落して。まだ終わってないけど、とりあえず一息付ける段階になって、『破片』なんて名前のファイルが目に入った。

そこには、夜中に書きなぐった文字や、とりあえず書き始めてしまった小説や、あるいは自分のことだったり、そういうものが、地層のように積み重なって、分解されて土になって、いずれ芽を出すのを待っている。

深く深くに押し込めてた、柔らかくて瑞々しくて、すぐ泣くけどすぐ笑う、もう一人の私がそこにいた。

身体は二重構造だと思う。
内と外。内殻と外殻。

文章は、いつだって私の内側を、さらけ出し、それから強く守ってくれている。

そういう破片をかき集めて、誰かの心臓を打ち抜くものを、書けるように。

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