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ゼミで行う「研究紹介プレゼンテーション」の方法とメリット

みなさんこんにちは。青山学院大学 経営学部 服部ゼミでは、毎回の2名の学生さんが自分で選んだ論文を10分ほどの時間で発表するという「研究紹介プレゼン」というものを行っています。

このエントリでは、この「研究紹介プレゼン」をゼミで実施する方法やそのメリットなどについて、備忘録の目的も兼ねて記します。社会科学系の学部のゼミ運営をされている方に、何かお役に立てることがあるかもしれません。

「研究紹介プレゼン」とは

その(捻りのない)企画名の通り、ゼミの時間に、自分で選んだ研究論文について、学生さんが(単独で)パワポなどを使って解説・議論する企画です。基本的なルールは以下の通りです。

■ 取り上げる論文はできるだけ [英語で書かれ] [学術雑誌に掲載され] [それを紹介することでゼミでの研究にプラスになる] 研究論文であること(事前に担当教員のチェックあり)
■ 1報告 8 ~ 15分(議論の時間を含む)
■ 報告の構成
1. 研究背景(Backgrounds):この研究が必要な理由 や これまでにどこまでわかっているか(先行研究)など
2.リサーチクエスチョン(Research Questions):この研究が明らかにしたい「問い」や「仮説」(メインの問いと付随するサブの問い)
3. 方法(Methods)
実験:実験参加者は誰で、どのような処置や聞き取りをしたのか
実証:どのようなデータを用い何を・どのような方法で分析するのか
理論:どのような仮定に基づき、どのような理論モデルを考えているのか
4. 結果(Results):どのような結果が得られたのかを簡単に
5. 議論(Discussion):取り上げた研究の [面白いところ]・[問題がありそうなところ]・[今後こんな発展させたら良いね] について担当者の独自の意見を記載する

選定する論文については、学生さん自身が選び(選び方については本エントリの「面白い論文の探し方」をご覧ください)、自らの発表日の1週間前には担当教員(私)の承認を得ることを求めています。その際に、[学生さんの現状の知識水準では読みこなすことが難しそう] であったり [紹介してもゼミで行う研究には関連が薄いもの] であったりした場合には、似たような・相応しいテーマでの(担当教員が知っている)良い論文 を推薦します。

また、どうしても自分で研究論文を見つけられない学生さんがいた場合には、担当教員がストックしている [教育的にも内容的にも面白い論文たち] フォルダを見せてあげて、そこから選んでもらいます。そうすることで、質の高い研究が報告・議論される条件を整えます。

研究紹介プレゼンの見本

イメージを掴むために、見本として一つの「研究紹介プレゼン例」を紹介します。ここで紹介するものは、一部で話題になっていたこちらの研究です。

Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140-154.

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このぐらいのザクっとした紹介だと、ちょうど10分くらいにまとまると思います。私のゼミでは、研究を紹介するときには、研究論文のタイトルや著者名(たまに 「XX大学の研究では〜」といった謎の紹介もありますね)ではなく、報告者が論文を読んで「このワンフレーズでこの研究はまとめられる」というものを、報告のタイトルにするように指導しています。また、論文中に出てくる表やグラフなどは切り取って貼り付けて紹介しても良い、としています。

「研究紹介プレゼン」を行うことのメリット

研究紹介プレゼンを行うことのメリットは非常にたくさんあります。

1. 様々な側面から 研究の「面白さ」を 知ることができるようになる
学生さんは自分だけでなく他の学生さんの研究紹介を聞き、教員と先輩が議論している様子を見るだけで、どんどん「研究を見る目」が養われていきます。研究の「面白さ」というのは、研究の結果がどんなものか?というだけでなく、分析や実験のやり方に関する新しい着眼点や工夫というような点にも感じることができるのですが、この「面白さ」は研究論文に親しみが深くないと味わうことができません。研究結果だけ聞いて「へーだから何?」となってしまっていた学生さんが、半年くらいで「このやり方めっちゃ工夫されてて面白いね」なんて言い出す様を見ることができるのは教員としても嬉しいものです。

2. 身につけた「技術」のありがたみを知り、身に付けなければいけない「技術」に気が付く
学生さんは自分で論文を読む中で、「わからないこと」にたくさん出会います。私のゼミでも、基礎的な統計学の知識はゼミ前半でレクチャーするのですが、自らが選んだ論文にはそこで学んだ知識が出てきます。「○が□より有意に高かった(t(45)=5.2, p<.05, d=0.7)」を見て、「あ、このt値とかp値とか効果量とか、ゼミで最初にやったやつだ!わかる!」のような経験を学生さん自身がすることで、身につけた技術のありがたみを知ることができます。

また、当然のことですが、「わからない部分」も出てきます。「こんな検定方法知らないな、、」「ブートストラップって何それ?」「DIDって何?」というようにわからないことが出てくるでしょう。この時、「この後これを自分がプレゼンしなきゃいけない」というプレッシャーが、これらを学ぶ意欲をもたらしてくれるでしょう。私のゼミでも、ゼミの3日前くらいには「先生、この意味がわからないので教えてください」とよく相談が持ちかけられます(私もわからないことも多いのですが)。

3. 英語論文を読むことへの抵抗が薄くなる
ほとんどの学生さんが DeepL や Google 翻訳などにかけて読んでいるようですが、それでも(むしろその方が?)良いと思っています。英語で書かれている文献や情報にアレルギーを持たずに、「翻訳しちゃえばいいんじゃね?」くらいの気持ちでどんどん触れていく姿勢はとても重要だと思います。

4. プレゼン技術(特にデザイン面)が向上する
 「(自分が取り上げた)研究内容が難しく、なかなかうまくまとめることができないな」と感じた学生さんが、プレゼンをなんとか成功させるためにやろうとすることは何でしょうか。これは副次的な恩恵なのですが、それは「見栄えぐらいは良くしておこう」です。私が学生の頃は、「中身が薄いのに、見栄えばかり凝っているプレゼン」をすると指導教官からひどく怒られたものですが、これだけ情報発信が容易い時代になると、やはり「見栄え=デザイン」のスキルも重要なものであるように思います。私は、学生さんの発表内容が薄くても、デザインが良かった場合には、そこをちゃんと褒めるようにしています(ダサい場合も指摘します)。ゼミの学生さんは、毎週2名の研究紹介プレゼンを見ていく過程で、デザイン力も向上することが期待できます。

面白い研究の探し方

おそらくこの企画を実施する上で、一番学生さんが頭を悩ませるのが、このテーマだと思います。これについては、以下のような方法をアドバイスしています。

1. 一般向け学術書から得る
一般向け学術書とは、様々な研究の成果をまとめてわかりやすく発信しているような書籍です(それに対して研究論文とは、誰もやったことのないオリジナルな新しいもの、という位置付けになっています)。本屋に行くと、それっぽい本がたくさんあるのを目にしますが、学生さんには以下の基準で「一般向け学術書」のクオリティを見極めるように指導しています。
 
(a) 「参考文献」欄のない一般向け学術書は避けてください
→「嘘」や「根拠のない著者の妄想」が書いてあっても読者にはわかりません。

(b) 「参考文献」欄があっても、そこに掲載されている文献が「一般向け学術書」ばかりであるものは避けてください
→ このような書籍のほとんどは、自らで研究を生み出したことがない人の「読書感想文」「まとめ」になってしまうことが多い印象です。さらには、紹介されている研究の原論文が引用されていなければ、このような本を読む中で「この研究論文を読みたい」と思っても、また別の「一般向け学術書」に当たらなければならない羽目になります。

(c) 「論文の発表がない」人が著者である一般向け学術書も避けてください
→ 今や Google Scholar や著者の所属組織のサイトなどに行くと、著者の研究をみることができます。研究をしたことがない人には、研究を適切に紹介することは難しいと思われます(素人のプロ野球解説を聞くようなものです)。

2. インターネット経由で探す
最近ではWebsiteやTwitterなどで、面白い研究を紹介してくださる有益な情報発信者がたくさんいらっしゃいます。例えば Twitter であるならば、 Ethan Mollick (@emollick) さん(Business や Management 関連の研究が中心ですが、幅広い文献紹介や関連研究の紹介までされている素晴らしいアカウント)や Yuuko Morimoto (@myuuko) さん(心理学系の研究を中心に面白い研究がものすごくたくさん紹介されている貴重なアカウント)など、面白い研究の概要や要約を紹介してくださる方々がいます。他にも、興味のある論文が一つ見つかったら、その論文が載っている雑誌のTwitterアカウントをフォローしてみるのも良いでしょう。

また、これらよりはもう少し軽いものになりますが、GIGAZINEWired.jp 、または Harvard Business Review などにも、研究紹介のパートがあります。他にも学生さんにも有名な TED などからも、自分の興味のある研究がみつかるかもしれません。

3. 大学の講義・教員から得る
意外と学生さんたちは気づいていませんが、実はこれが一番王道のやり方なのです。大学の「講義」の中で出会った面白い概念・事実・教訓などは、必ず「それを裏付けるデータや理論」つまり「誰かの研究」に基づいているものです。講義を担当している教員は、「それらをたくさん知っている」「自らもそれらを生み出している」プロ、であることがほとんどです。教員に「これに関する関連研究、もしくは参照できるテキストなどを教えてください」で教えてくれます。

また、教員の研究室に足を運ぶのも良い方法です。多くの教員の研究室には一般向け学術書に相当するものや、面白い研究論文などが山積みされています。しかも、おそらく図書館よりも厳しい目でのセレクションがなされています(部屋が狭いから)。ですので、図書館に行くより手っ取り早く「面白い研究」に出会え、なんなら(余計な?)解説も教員からたっぷり聞けるかもしれません。

おわりに

このエントリでは、ゼミにて「研究紹介プレゼン」を実施することの方法やメリット、学生さんへのアドバイスなどについて記しました。みなさんのゼミや研究室で同様の取り組みを行なっている教員や学生さんで、何かアドバイスや質問などがあれば、コメントいただければ嬉しいです。

実際にどのような研究が学生さんに選ばれているのかについては、以下のエントリをご覧いただければと思います。


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