カバーなし金利平価で今の円安を説明できるか

昨日、カバー付き金利平価とカバーなし金利平価について説明しましたが、その簡単な続きです。
フォワードによる理論価格とカバーなし金利平価のメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

たまに、今の円安をカバーなし金利平価で説明する人がいますが、個人的には困難であると思っています。まず、多くの国際金融のテキストでは、カバーなし金利平価は成立していないと説明されます。例えば、手元にある教科書だと、橋本・小川・熊本(2019)は、「カバーなし金利平価式が成立していない」(p.101)と指摘していますし、永易・江阪・吉田(2015)は「UIPは成立しているのか、成立していなのか定かではない(どちらかというと否定的)」(p.81)としています。これは一例ですが、国際金融のテキストではカバーなし金利平価に関し、否定的な説明がされることが多いとおもいます。国際金融のテキストは、これまでの研究の蓄積に則っており、ひとまず、カバーなし金利平価は成立しにくいという印象をもって問題ないと思います。

カバーなし金利平価を用いて、金利差の拡大が円安になることを説明する一つの解釈としては、スポットの動きが短期的に円安に振れるというものです。例えば、米金利が上がることで金利差が拡大した場合、フォワード価格は円高になりますが、カバーなし金利平価によれば、将来、円高になることが期待されます。その際、将来の円高の期待が生まれるために、今、スポットで大幅に円安に進むという反応があり得ます。今、円安に急速に進めば、そこから進む円高も多くなりえるわけです(これはカバーなし金利平価が成立する場合、あり得るパスです)。

もっとも、今の為替の動きをみると、将来円高になるために、今スポットで大きく円安になる、というタイプの動き方に思われません。2022年くらいから円安が急速に進んでいますが、もう2年以上経過しており、円高は進んでいません。また、多くの投資家のサーベイを見ても、投資家間で、大幅な円高の予測が生まれているという結果もないように感じます。これまでの実証研究がカバーなし金利平価を支持しない傾向があることを踏まえれば、今の為替の動きをカバーなし金利平価で説明するというのは厳しいのではと思っています。

今回はコラムのような内容になりましたが、これは周りと議論した結果の私の現在の考えの一つです。上記は備忘録のような形ですが、将来、必要に応じて加筆・修正します。

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