バーゼル規制(銀行規制)を勉強したい人向けのガイダンス

下記の内容は以下のアップデイト版を用意しているため、こちらもご参照ください。
バーゼル規制(銀行規制)を勉強したい人向けのガイダンス(アップデイト版)|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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銀行の破綻のケースが出てきて、銀行規制について知りたいというニーズが増えてきたように思います。我が国における銀行規制は、国際的に活動をする銀行(国際統一基準行)についてはバーゼル規制が課されており、国内で活動をする銀行(国内基準行)に対しては、バーゼル規制と整合的であるものの若干緩い規制が課されています。そのため、銀行規制を知りたい人は、まずはバーゼル規制を勉強することが一案だとおもいます。

もっとも、バーゼル規制が勉強したいと思って書店に行くと、基本的には金融庁の告示ベースの分厚いテキストがあり、私の印象に過ぎないかもしれませんが、頭から読んで面白いと思う書籍は少ないというのが実感です。最終的には、金融庁の告示やその分厚いテキストを参照しながら、実際のケースを考えないと身につかないのですが、私は政策担当者などを読者として想定し、一連の金融規制入門シリーズでその概要について説明してきました。そのため、私の記載した一連の入門シリーズを読むことで、その概要がつかめるとおもいます。

既存のテキストに比べて、私が記載した文章の特徴は、基本的に前提知識がなくても理解できる点だと考えています(基本的には学生に読んでもらっており、大学生が読んでも分かるレベルにしています)。また、経済学者(服部)が記載しているので、俯瞰的な議論がなされていることや、学術的な議論もカバーしているという点も大きな特徴です。手前みそですが、独自視点があって、実務家や経済学者にもわかりやすいといってもらえることも少なくないと感じています。どの原稿もその道でかなり実績がある専門家のレビューを受けており、正確性も高いと考えています(一つ一つ時間をかけて書いています)。

まず、バーゼル規制の全体像や自己資本比率規制については、私が記載した「バーゼル規制入門」をご覧ください。バーゼル規制を勉強するうえでの問題は、バーゼル規制が2008年の金融危機を経て複雑化する点です。その改正の全体像は下記の図の通りですが、このように左上にある自己資本比率に対する規制に加え、金融危機を経て、様々な面で追加的な規制が導入されています。

私の入門シリーズでは、これらについて概ね説明しています。まず、図表1の左上に「資本水準の引き上げ」や「資本の質の向上」が指摘されていますが、これについては私が記載した「バーゼル規制入門」の後半に加え、「AT1債および新型劣後債入門」をご覧ください。

図1をみると、「プロシクリカリティの緩和」および「システム上重要な銀行への追加措置」もあります。これは景気循環に伴う副作用や「大きすぎて潰せない問題(TBTF)」へ対処する規制なのですが、その詳細は「資本保全バッファーおよびカウンターシクリカル・バッファー入門」および「システム上重要な銀行入門」をご覧ください。さらに、図表1の右上に流動性規制の導入がありますが、金融危機時に問題となったMMF規制とセットで「MMF規制入門」で説明しています(今取り付けが話題だとおもいますが、2008年の金融危機時にはMMFで取り付けが起こりました)。

バーゼル規制は、第一の柱から第三の柱で構成されており、自己資本比率規制は第一の柱です。ただ、第二の柱も重要であり、特に重要な規制は金利リスク規制です(ちなみに、第三の柱はディスクロージャーの規制です)。金利リスク規制については「銀行勘定の金利リスク規制入門」で説明していますが、SVBが金利リスクを取り過ぎていたという議論がなされているため、今後、金利リスク規制については話題が増えるかもしれません。

金融危機において重要であったのは、いわゆるカウンターパーティリスクの問題です。すなわち、リーマンブラザーズが破綻することで、その取引の相手となる金融機関に損失が伝播するということが起こりました。これについて特に重要なのがOTCデリバティブ規制および証拠金規制です。具体的には、標準的なデリバティブ(金利スワップなど)は中央清算義務を課すとともに、中央清算されないデリバティブについては証拠金規制(マージン規制)が課されることで、デリバティブにかかるカウンターパーティリスクを軽減する規制が導入されました。これらの規制については、「OTCデリバティブ規制入門」と「証拠金規制入門」で説明しています。

重要な銀行規制の概要は既に大部分説明していると考えていますが、例えばカウンター・パーティリスクの資本賦課やレバレッジ比率規制、市場リスク規制やそもそも信用リスクアセットの計測など、まだ十分には説明しきれていません。これらはいずれカバーしようと思っていますが、上記の内容を大幅にアップデイトしてどこかで書籍にしようと思っており、そのタイミングでカバーするという形にするかもしれません。

なお、4月から新学期が始まりますが、私が東大で金融論について講義をする予定であり、金融規制についてもカバーします(S1S2セメスターです)。関心がある東大生は履修していただければと思います。

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