化石燃料に応じた賦課金:GX経済移行債に関するメモ⑨

今回も前回と同じ、GX経済移行債についてです。前回のメモでは、GX債の償還財源は①化石燃料に応じた賦課金と②特定事業者負担金であるとし、その概要やスケジュールを説明しました。前回は、排出権取引について議論したので、今回は「化石燃料に応じた賦課金」について議論します。

「化石燃料に応じた賦課金」は「炭素に対する賦課金」とも称されますが、その「炭素に対する賦課金」については下記の図の通り、対象者を「化石燃料の輸入事業者等」をベースとして、2028年度から導入を目指します。負担については最初は低くし、徐々に引き上げるとしています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_follow_up/pdf/2023_001_05_00.pdf

繰り返し記載しているとおり、GX経済移行債は、①化石燃料に応じた賦課金と②特定事業者負担金を償還原資とするのですが、この資金はエネルギー対策特別会計(エネルギー特会)へ繰り入れます。エネルギー特会は、財務省の資料だと、「行政改革推進法に基づき、平成 19年度に、石油及びエネルギ ー需給構造高度化対策特別会計と電源開発促進対策特別会計を統合し、エネルギー対策に関す る経理を明確にするために設置された特別会計であり、エネルギー需給勘定、電源開発促進勘定及び原子力損害賠償支援勘定に区分経理されています」と説明しています。この特別会計は、経産省と環境省が所管している特別会計になります。

下記がエネルギー特会の概要ですが、3つの流れがあることがわかります。一つは「石油石炭税⇒一般会計⇒エネルギー需要勘定」という流れ(左図)、二つ目は「電源開発促進税⇒一般会計⇒電源開発促進勘定」という流れ(中図)、三つ目は「一般会計⇒原子力損害賠償支援勘定」という流れです。一度、一般会計に入る流れであることが特徴です(この特会についてはまた別の機会で深堀します)。①化石燃料に応じた賦課金と②特定事業者負担金は、税でないということを踏まえれば、一般会計に入らない(特別会計に直入される)可能性もあり、その意味で下記の図においてもう一つのストリームが生まれるのではないかと予測しています(ここはいずれ役所の資料がでるため、解釈が間違っている可能性があり、その際は修正します)。


ここから「化石燃料に応じた賦課金」に焦点をあてていきますが、前の投稿にも記載しましたが、GX債の償還財源である「化石燃料に応じた賦課金」と石油石炭税は類似した仕組みとも言えます。下記は以前説明した図ですが、現在の石油石炭税の負担が減少していき、「化石燃料に応じた賦課金」が増加していくということが読み取れる図になっています。

「化石燃料に応じた賦課金」はその名称上、税金ではないものの、税に類似するものです(講学上、カーボンタックスに相当すると考えられます)。現時点で、その概要は固まっていませんが、下記のように既存資料だと、その対象者が「化石燃料の輸入事業者等」とされているため、輸入時に負担を求めることが予想されます。石油石炭税についても、主な対象者として輸入事業者等がいますから、追加的に負担が求められることになるだろうと解されます。

ちなみに、下記のとおり、石油石炭税以外に、地球温暖化対策税も現在あります。「地球温暖化対策税は、全化石燃料を課税ベースとする現行の石油石炭税の徴税スキームを活用し、石油石炭税に上記の税率を上乗せする形で課税されます」と説明されており、化石燃料に応じた賦課金は税ではないものの、これに類似したスキームになるのではないかと想像されます。

https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html


GX債の財源である化石燃料に応じた賦課金
財源という観点でいえば、私個人は、有償オークションより化石燃料に応じた賦課金を現在重視しています。そもそも、米国ではレベニュー債という地方債がありますが、この債券は特定の財源に立脚して発行する地方債であり、その財源が調達コストを考える上で大切です。レベニュー債と同様、GX債についても特定の財源に立脚しているという特徴があるため、その財源の特徴については議論されるべきです。

これまで強調してきたとおり、GX債の償還財源は①化石燃料に応じた賦課金と②特定事業者負担金(有償オークション)の2つの軸となっていますが、②の有償オークションについては、GXリーグはあるものの、その内容は決まっていない部分が太宗といえます(これに付随してマーケットで価格がどのようになるかという不確実性もあります)。一方、この化石燃料に応じた賦課金については、資料には詳しい制度設計は記載されていないものの、石油石炭税に類似したものが、輸入業者などに追加的に課されると想像されます。したがって、これまで1だけ負担をもとめていたものを2だけ負担を求めるという形にできますし、税関レベルで捕捉可能であり、実務的にも安定しています。

下記の図にあるとおり、負担が現在より増えないと想定されており、負担を増加させるわけではない点に注意が必要です。もっとも、このことはエネルギー対策特別会計に入ってくる歳入は増えない、ということも意味しています。

なお、有償オークションでは、海外の事例がふんだんに含められていますが、経済産業省の資料においては、化石燃料に応じた賦課金についての海外の事例はあまりでてきません。前述のとおり、これはいわばカーボンタックスとも解釈できますが、カーボンタックスについては環境省が多く資料を出してあり、例えば、下記のリンクのような資料があります。カーボンタックスはつまるところ事業者に負担を求めることになりますから、事業者をケアする傾向がある経済産業省と、その点について中立である環境省のスタンスの違いが透けて見えます。
intro_situation.pdf (env.go.jp)

今回はここまでですが、まだGXの話題はしばらく続けます。なお、これまで記載した概要については下記を参照してください。
クライメート・トランジション利付国債 (GX経済移行債)に関するメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
クライメート・トランジション利付国債に関するメモ②:クライメート・トランジションとは|服部孝洋(東京大学) (note.com)
クライメート・トランジション利付国債に関するメモ③:CT国債の償還財源|服部孝洋(東京大学) (note.com)
150兆円のGX投資の根拠:CT国債(GX経済移行債)に関するメモ④|服部孝洋(東京大学) (note.com)
2023年12月15日のGX実行会議資料:GX経済移行債に関するメモ⑤|服部孝洋(東京大学) (note.com)
令和5年度国債発行計画におけるGX経済移行債と借換債:経済移行債に関するメモ⑥|服部孝洋(東京大学) (note.com)
化石燃料に応じた賦課金と特定事業者負担金:GX経済移行債に関するメモ⑦|服部孝洋(東京大学) (note.com)
有償オークションに向けた排出権取引と海外の事例:GX経済移行債に関するメモ⑧|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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