補完当座預金制度(付利制度)のメモ②:大規模購入を維持しながら利上げするための措置

昨日、当座預金付利制度(補完当座預金制度)について白川本をベースに議論をしましたが、本日もその続きです。今年の春に利上げが見込まれていますが、それまで二層構造にするか、一層構造にするかなどの議論はしばらく続くと思います(今後、報道など出てくると予測します)。
当座預金付利制度(補完当座預金制度)についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

まず、かつての制度主旨を理解することが基本なので、再び、当座預金付利制度(補完当座預金制度)の導入経緯を議論します。当時の経緯を知ることができる重要な文献として、副総裁であった中曽さんの書籍があります。

中曽本では、p.311にその記載があります。

「補完当座預金制度の導入」
日銀は、2008年10月31日の政策金利の0.3%ヘの引き下げにあわせて、当座預金のうちの超過準備に対して日銀が金利を支払うという「補完当座預金制度」を新たに導入した。これは、金融システムの安定性を確保する観点から潤沢な流動性を供給する一方で、マクロ経済情勢を踏まえた金利水準を金融政策の必要性に基づいて設定できるようになったという意味で、日銀にとって重要な制度改正だった。本制度の導入は、同時期に米国でFRBによる超過準備への付利が認められたことが契機となった(p.311)。

中曽 宏「最後の防衛線 危機と日本銀行」

白川本と同様、FRBの影響が大きかったということです。また、下記のような指摘もなされています。

金融危機が表面化してから日銀金融市場局の調整デスクは、オペを通じて潤沢な資金供給を行ってきた。これによって金融システムの安定は確保することができたが、無担保コールレート(翌日物)に強い低下圧力がかかり、誘導目標から大きく下方に乖離する可能性に常に直面していた。これを回避するために、デスクは、それまでには売りオペなどの資金供給手段を用いながら苦労して市場金利を制御してきた(p.312)。

中曽 宏「最後の防衛線 危機と日本銀行」

この点はFRBでも企図されていたことなのですが、米国ではFFレートが下限にならず(それは付利の対象外に大きなプレイヤーがいるからですが)、FFレートが付利金利を下回って推移したことは有名ですが、これは私が記載した「フェデラル・ファンド(FF)市場 およびFFレート(FF金利)入門」を参照してください(下記のリンクより読めます)。
202205d.pdf (mof.go.jp)

さらに面白いのは、補完当座預金制度の趣旨として、下記のような指摘をしています。

デスクにとっては、金融調整の微調整に追われる負担から解放される手段だった。さらに、長い目でみると、金融緩和政策からの将来の「出口」または正常化の過程において、付利金利を引き上げることによって、量の縮小を必ずしも伴うことなく市場金利の上昇を誘導することとする手段でもあった。こうした点で、補完当座預金制度は、多くの中央銀行が長年慣れ親しんできた、積み期間と所要準備を柱とする伝統的な金融調整手法を抜本的に変革するゲームチェンジャーだった(p.312)。

中曽 宏「最後の防衛線 危機と日本銀行」

というわけで、白川本と同様、やはりこの制度は、出口戦略を意識して導入された側面もあるということです。

今のように大規模な資産購入を維持しながら利上げが可能になるのは、白川総裁時代に、補完当座預金制度を入れておいたから、とみることができます。その意味で、この春に利上げが見込まれるこの局面にて、白川総裁が導入した政策の効果がはっきりとみえるということで、まさにこの時の制度主旨を改めて議論すべきタイミングだとおもいます。

なお、中曽本では、「市場金利は、無担保コールレートの誘導目標を中心として、補完当座預金制度の適用金利を下限、補完貸付制度の適用金利を上限とする「回廊(corridor)」の範囲で変動することになる」(p.313)としていますが、この時にコリドー方式が取られていたことが知られています。例えば、慶応の白塚先生の金融政策の書籍では下記のように記載しています。

わが国では、2008年10月末に補完当座預金制度が導入され、超過準備に対する付利が開始された。その後、12月にコールレートの目標水準が1%に引き下げられ、付利金利と同一水準となるまでの間、ごくわずかの期間であるが、コリドー方式が運営された(p.170)

白塚 重典「金融政策 理論と実践」

白塚本では、図表なども用いて説明しているため、関心がある人はそちらも参照してください。

ちなみに、白塚先生の金融政策の書籍も、円金利市場や金融政策を理解するうえで、手元に置いておく価値がある一冊だと思います。今回のように頭から通読せずとも、一つの概念を別の書籍で横から読んでいくことで、別の解釈に触れることが可能になり、より深い理解へとつながると感じています。

本日はここまでですが、必要に応じて加筆・修正します。

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