今月に入ってから、利上げに伴う三層構造がどうなるか、ということが話題になり始めた気がします。特に、内田副総裁の講演において下記のように言及されたことがあります。
「仮に」とはいえ、マイナス金利導入前に戻すという言及があったことから、マクロ加算残高を含む二層構造ではなくて、YCCの前(一層構造)に戻るのではという議論が活発になされている印象です。ちなみに、以前議論されていた二層構造については下記の記事などを参照してください。
アングル:マイナス金利、撤廃なら当預は2層か 短期市場への影響不透明 | ロイター (reuters.com)
そこで、今回は、そもそも付利が付されるようになった「当座預金付利金利制度」導入の背景を整理しておきます。
経緯としては、2008年の金融危機時に景気が悪化し、日銀が利下げの必要性に迫られました。当時は、かつてのゼロ金利政策や量的緩和政策と同様、ゼロ金利という政策もあったところ、2008年10月31日の利下げのタイミングで、0.1%の付利を支払う「当座預金付利制度」(補完当座預金制度)が導入されました。
その経緯については、やはり基本書ということで白川さんの書籍(「中央銀行」)をソースに整理します(ここでは白川さんの書籍に記載されている当座預金付利制度という表現を使います)。
まず、白川本では、付利制度の目的を下記のように整理しています。
白川本では、付利制度が入った背景に、米国で同じ制度が導入されたことも指摘しています。米国の制度は2006年に導入決定、2011年に実施となりますが、これについては私が記載した「フェデラル・ファンド(FF)市場 およびFFレート(FF金利)入門」でかなり細かく説明しているので、関心がある方は下記のリンクを参照してください。
202205d.pdf (mof.go.jp)
白川本では、当座預金付利制度が必要であった理由を二つ言及しています。
この点はよく指摘される点で、当座預金付利制度はインターバンクの流動性等に配慮された政策だという整理がなされます。マイナス金利政策が実施される中で、三層構造を導入されることで、インターバンクの流動性が向上したとされます。この状態から、YCCの前に戻してもよいという判断の背後には、当座預金付利制度が維持されれば一定の流動性が維持されるという判断があると推測されます。内田副総裁の講演では「マイナス金利の導入前には、日本銀行の当座預金取引先の超過準備に0.1%の金利を付利し、取引先でない金融機関との裁定取引が行われる結果」というメカニズムが指摘されていました。
白川本を読んで面白かったのは、対外的に説明されない第二の理由について言及があった点です。ここは少し長いですが、興味深いので引用しておきます。
今回は白川本をベースに、当座預金付利制度を導入意図を整理しました。最後の部分は少し長めに引用しましたが、全体的には省略した部分も多いため、同書の8章を通読することを強くお勧めしたいと思います。今回はここまでにしますが必要に応じて加筆修正します。