社債とCDSの類似性:CDSを用いた債券(仕組債)の組成

今回は、前回のメモをベースに、CDSと社債の類似性について整理します。
CDSについてにメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

CDSと社債の類似性

前回と同じように、CDSのプレミアムが2.5%とします。想定元本を100円とすれば、プロテクションの売り手は、毎年下記のように2.5円をうけとります。CDSでは金利スワップのように当初の受払がない点に注意してください。

図1:CDSのプレミアムのキャッシュフロー

プロテクションの売り手(私)は上記のプレミアムを5年にわたり受け取るのですが、これはあくまでデフォルトをしないなど、クレジット・イベントがなかった場合です。仮にCDSのクレジット・イベントにヒットしたら、(これも前回書いたことですが)私は読者に対して、①A社の社債を受け取り、100円を渡すか(現物決済)、②100円-社債の価値(現金決済)、を渡すことになります。

なお、このCDSの取引の現在価値(PV)はゼロということに注意してください。このCDSに関し、私はプロテクションを売っており、読者はプロテクションを買っているわけですが、このデリバティブ取引がフェアであるとすれば等価交換になるからです。厳密には、我々が証券会社などと取引する場合は、手数料があるのでPVはゼロにはならないのですが、それを除けばPVは0であるという点に注意してください(通常の金融のテキストでも想定される設定ですし、私が記載した「金利スワップ入門」などでもこの点は記載しました)。

それではここから社債と同じキャッシュフローを複製してみましょう。その補助線を引くために、国債のキャッシュフローを考えます。ここではシンプルにするため、金利は捨象してゼロとします(YCCの下の円金利ではそこまで強い仮定ではないかもしれませんが、ここではクレジットリスクを考えたいための想定です)。したがって、国債への投資とは、下記の図のとおり、現在、100円投資して、期中に金利をうけとらず(金利はゼロ)、期末に100円戻ってくる投資になります。金利がないため、今の100円と5年後の100円が同じ価値になっているのですが、これもPVは0である点に注意してください。

図2:国債のキャッシュフロー

したがって、図1と図2を単純に足し上げると、下記の図3のように、当初100円を支払い、毎年2.5円の金利を受け取り、最後に100円が戻ってくるというキャッシュフローがうまれ、これはまさに社債そのものだ、ということがわかります。これはPVがゼロである二つのキャッシュフローを足し上げたため、下記の図のPVもゼロである点に注意してください。これは私が①(年限5年の)CDSのプロテクションを売ると同時に、②5年国債を買っている状況です。

図3 CDSと国債の合成により社債に類似したキャッシュフロー

このようにCDSと国債を使って社債と同じキャッシュフローをつくることができました。この場合、CDSのクレジットイベントにヒットした場合はどうでしょうか。例えば、前回と同様、社債の価値が1円に低下したとすれば、CDSのみに注目すると、プロテクションの売り手である私は99円を読者に渡すので、99円の損失を被ります。もっとも、私は国債も保有しているため、ちょうど5年後ぎりぎりでこのイベントが来たとすれば、私は国債の償還で100円受け取ります。99円の保証金を読者に支払い、国債の償還から100円を受け取るので、私は1円のプラスのキャッシュフローということになります。これは私が100円の社債に投資して、デフォルトしたら社債の価値が1円になった、というキャッシュフローと同じです。

このように、CDSと社債は類似的な取引といえます。CDSとは、社債から国債部分を控除しているとみることもできます(CDSに国債を加えると社債になります)。ただ、注意してほしい点は、CDSにはクレジットイベントとしてリストラクチャリングというものが含まれたり、流動性はもちろん違うし、デリバティブを直接取引した場合、規制や会計上の効果も違います。そのためギリギリいえば、そのリスクに違いが少なくない点には注意が必要です。私の「金利スワップ入門」でも国債と金利スワップを類似した商品として説明しましたが、あくまでそう考えると分かりやすいからであり、違いがありうる点にはご理解ください。

仕組債の組成

上述のとおり、CDSと社債は本質的に似通っているため、社債とCDSの間で裁定取引が活発になされています。この裁定取引は、例えば、仕組債の形で取引がなされています。すなわち、CDSと国債で社債を合成して、この仕組債の金利が社債より高ければ、銀行がこの債券を投資するなどという形で裁定取引がなされています。

最後に、証券会社の立場になってこの仕組債の組成を考えます。まず、読者はSPC(特別目的会社)というハコを作って、そのハコが利率2.5%の5年債を発行します。ある投資家がこれを買って、読者は100円調達したとします。

読者は、投資家に社債に類似したキャッシュフローを支払うため、投資家から得た100円を使って、5年国債を買ってきます。一方、CDSのプロテクション・ショートをして、年間2.5円の金利を確保します。下記がそのイメージですが、この5年債の購入とプロテクション・ショートをSPCを通じて実施します。

5年間クレジットイベントがなければ、SPCは毎年、CDSのプロテクションショートから得られる2.5円を投資家に支払います。5年後に国債が償還を迎え、SPCは100円を得るので、それを投資家に100円に返済すれば、投資家からすれば、当初100円を支払い、期中2.5円を貰い、最後に100円をもらうというキャッシュ・フローになります。

この債券はデリバティブを内包しているので仕組債ですが(金融業界ではクレジットリンク債といわれますが)、ちなみに、このような仕組債の組成業務を金融業界ではストラクチャリングといいます。厳密にいうと、金利の支払いのタイミングが違ったり、市場で取引されている国債が100円から乖離しているなど、色々な問題があるのですが、上述のプロセスをみれば、仕組債の組成のイメージが感じとれるとおもいます。

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