デリバティブを勉強したい人向けのガイダンス

今、大学で講義している金融論がようやく債券理論に入りつつあり、折り返し地点に入るところです。講義の回数に制約があるため、基礎から中級レベルのデリバティブ知識を求める方向けに簡単なメモを買いておこうとおもいます。

デリバティブとは金融派生商品であり、先物・フォワード・スワップ・オプションで構成されます。私が大学院生のころはオプションばかり勉強していたのですが、実際の実務経験を経て、学生時代はバランスよく勉強したほうが良いと感じました。

先物・フォワードについて
デリバティブの中でも、特に、先物は市場参加者はほぼ毎日見るものであり、その仕組みを理解しておくことが非常に重要です。先物を勉強する上ではまずは下記をよんでほしいです。
なぜ先物で予約という仕組みがとられているか|服部孝洋(東京大学) (note.com)

そのうえで、「日本国債先物:基礎編」→「日本国債先物入門―日本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」→「日本国債先物入門-先渡と先物価格の乖離を生む要因-」という流れで読むと、なぜ予約取引をとっているのか、その上でどのような制度的な工夫をしているかが理解できるとおもいます。これらは私としてはかなりよみやすく記載しているつもりですが、水準としてはジョン・ハルのテキストと同じくらいのレベルになっています。私の論文の問題点は、債券先物のみであり、株式の先物を知りたい場合は、ジョン・ハルのテキストやJPXのウェブサイトを参照していただければと思います。

スワップについて
スワップについては、「金利スワップ入門」と「ドル調達コストの高まりとカバー付き金利平価」の論文を読んでもらいたいです。前者は金利スワップ、後者は為替スワップ・通貨スワップを説明しています(特に金利スワップについては、リリース後1年くらい、財務総研のアクセスランキングに常に1-2位に位置するなどかなり広く読まれました)。しかし、これらの内容はLIBORの公表停止前の情報なので、もしそれを踏まえたアップデイト版を読みたい方は「日本国債入門」の11章(金利スワップ)、12章(為替スワップと通貨スワップ)をよんでほしいです。

為替スワップと通貨スワップは、為替ヘッジを考える上で非常に重要なのですが、実は、ジョンハルのテキストにもあまり記載されていません。結果的に私の記載したものを結構広くよんでもらえた、という印象があります。スワップには、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)がありますが、私はまだこれについては記載しておらず、「ビッグバン後のクレジット・デリバティブ」などがおすすめです。

オプションについて
オプションについては、まずはネットで読めるものとして「国債先物オプション入門 」を参照してください。オプションの基本的な商品性や、プット・コール・パリティ、その具体的な使い方、さらに、ガンマトレードなどもかなり具体的に説明しました。

もっとも、これまでオプションについては私が記載してきたものはかなり少ないです。というのも、オプションについてはすでに大量に書籍があるため差別化がむずかしく、私が記載する必要がないかな、とおもっていました。個人的には「国債先物オプション入門 」を読んだ後、「実務家のためのオプション取引入門」などを読むの良いのではと思います。

あと、オプションの場合、もっと数学をしっかり学習することができるのですが、最初の一冊として、バクスター・レニーの「デリバティブ価格理論入門」をお勧めしたいです(私は学生時代によく読みました)。また、「マルチンゲールアプローチ入門」もわかりやすいということで私の周りでは評判が高いです。

評判が良い書籍としてシュリーブの「ファイナンスのための確率解析」がありますが、実務レベルではここまで求められることはかなり少ないという印象です。実は私が新人のとき、クオンツ同期はシュリーブの輪読をしていました。というのも彼らは理論物理や数学の修士号・博士号取得者というのが典型であり、その一方、ファイナンスについてはそれほど知識がないことから、まずはジョンハルのテキストを読んだ後、シュリーブを読むということをしていました(今考えると、リーマンショック前に余裕があったからこそこういうことが起こっていたのかもしれませんが)。もっとも、実務レベルでシュリーブ・レベルの数学が必要であるというのは稀、あるいは、一部の人だというのは、私の周りが感じていたことでした(逆に、修士論文以上を書く場合、シュリーブでは足らないということになってしまいますし、また、シュリーブレベルの知識が必要な人はその知識では足らず、典型的には数学が強いことから、どんどん修士レベル以上の書籍や論文を読んでいくということになると思います)。

本当はそのプロダクトの商品性を知るだけでなくて、例えば、どのようにヘッジとして使われているかや、仕組債の組成などプロダクトの組成でどのように使われているかなど、実際の使われ方を知ることが重要なのですが、この辺りは書籍などでは書かれていない部分だとおもいます。実際色々取引されているのを見る中で、様々な使い方を体験していくのですが、デリバティブも多面的に使ってみないと理解が深まらないのだとおもいます。スポーツなどでも解説書だけでは理解が高まらず、実際にやってみて、様々な体験をして、書籍や動画などで知識を蓄積・確認して、というプロセスが必要になるとおもいます。書籍に比べ、講義であると、もう少し立体的に伝えることができる気がします。

以上は雑感ですが、必要に応じてアップデイトします。なお、デリバティブの書籍としてジョン・ハル「Options, Futures and Other Derivatives」があり、それについては下記に記載したため、同書については下記を参照してください(下記に記載しているため、ハルのテキストについては上記で記載していません)。
デリバティブ教育:なぜジョン・ハルのデリバティブの書籍が薦められるか|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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