投資銀行とは何か②:グラス・スティーガル法

 数日前に、「投資銀行とは何か」という簡単なメモを記載しましたが、あの文章は私の実感に基づくメモでした。その内容は下記でみられますが、スタンダードな金融論のテキストではどういう風に説明されるかが気になり、本日、Mishkinのテキストをみてみました。下記は追記的なメモです(必要に応じて随時修正します)。
投資銀行とは何か|服部孝洋(東京大学)|note

まず、やはりMishkinのテキストでも、投資銀行はグラス・スティーガル法によって生まれたという説明をしています(22章を参照)。そもそもグラス・スティーガル法とは、1930年代の世界恐慌前後に多くの銀行が倒産したことの反省から生まれました。

この法律がいわゆる商業銀行と投資銀行を分けたわけですが、Mishkinの説明では、その目的は商業銀行が有するリスクと投資銀行が有するリスクを分断するという、というものです。商業銀行は貸出にかかるリスクをとるビジネスと考えられますが、株式や債券の引き受けには、例えば株式を在庫として引き受けて販売するなど、別のリスクを有しています。また、ある銀行が株式の引き受けと貸出が同時にできてしまうと、例えば、引き受けた株式が売れない場合に、顧客にローンを付けて、それで株式を購入させるということができてしまいます(これは株価が下がった場合に特に大きな問題をもたらします)。

上述のリスクを遮断するために生まれた規制が1930年代に成立したグラス・スティーガル法というわけです。Mishkinのテキストでは、グラス・スティーガル法によりinvestment banking services(selling new securities to the public)とbrokerage services(selling existing securities to the public)という新しいビジネスがうまれたと説明します。この意味では、彼のテキストでは、投資銀行ビジネスをプライマリー・ビジネス(発行市場の業務)という点を強調した説明になっています。

投資銀行ビジネスというと、学生の中にはM&Aビジネスだ、と思う人も少なくない印象です。証券会社のM&Aビジネスとは、買収や合併にかかるアドバイスを証券会社がすることであり、実際のところ、証券会社の投資銀行部門の中には典型的にM&Aアドバイザリーを担うセクションが存在します。

この点についてもMishkinのテキストに則り説明すると、1960年代に米国ではM&Aビジネスが活発化されますが、M&Aビジネスとは会社の売買になることから、会社の株式の売買を伴います。そのため、このビジネスは証券会社の事業と関連性が高かったことから、証券会社の中にM&Aをサポートする機能が生まれました。大型の買収をするときには大規模な資金調達が必要になりえるという意味でも、証券会社のビジネスとの整合性があるともいえます。私の理解では、日本ではおおよそ1980年代から90年代にこの流れがきて、多くの証券会社がM&Aアドバイザリーの機能を有することになりました(この点は必要に応じて補足します)。

このように、歴史的には、投資銀行ビジネスは株式や債券の引き受けから始まったといえますが、M&Aアドバイザリーも歴史あるビジネスといえます。もっとも、M&Aのリーグテーブルなどをみればわかりますが、M&Aのアドバイスは証券会社ではなくても実施している企業があり、証券会社の専売特許ではないことも事実です(逆に、株式や債券の引き受けは証券会社の専売特許です)。証券会社においてM&Aは、投資銀行業務と相性のよいコンサルサービスという位置づけでみるのがよいかもしれません。

なお、グラス・スティーガル法は成立後衰退していくのですが、その展開もMishkinのテキストでは言及がなされています。その一因として、まず1980年代に商業銀行により投資銀行が買収されることで、商業銀行が投資銀行ビジネスを担うことになります。また、1999年に、グラム・リーチ・ブライリー法が成立することで、事実上、グラス・スティーガル法が無効化されます(Mishkinの表現ではmostly repealed)。もっとも、この点は少し大きな話になるので、ここでは立ち入らないことにします(この点は別の機会に必要に応じて記載します)。

追記:続編を下記に記載しました。

投資銀行とは何か③:狭義の投資銀行と広義の投資銀行|服部孝洋(東京大学)|note

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