なりを潜めるAdobe Senseiとクリエイティブの民主化
Adobe MAX 2018がロサンゼルスで開催され、1日目の基調講演では最新のアップデートに関連する様々なデモが披露された。2日目の夜にはAdobeの開発者が開発中の機能をデモするSNEAKSが開催され、話題を呼んだ。
Adobeツールのデモではかつてこんなキーワードが飛び交っていた。
Adobe Magic
手品のように処理が行われるそのバックグラウンドでは、膨大なデータ処理の結果得られたものを活用して作られる強力なアルゴリズムがあった。Adobeはこれを更に強化し、学習を自動化したSenseiを生み出した。MAX2016ではこのSenseiが話題になったのはまだ記憶に新しい。
Adobeが掲げるのはクリエイティブの民主化
Adobeがすごいツールを発表するたび、メディアは同じような言葉で騒ぎ立てる。「クリエイターの仕事がなくなる(ぐらいすごい)!」。しかし実際はクリエイターの仕事はなくなるばかりか、クライアントの要望はとどまるところを知らず、以前よりも増えていると感じられる。ツールが便利になればなるほど、クリエイターの処理能力が増え、結果クライアントの要望も増えているのだろう。
それに、クリエイターの仕事がなくなって困るのはAdobeの方だ。前のnoteにも書いたけど、Adobeは仕事を奪うようなことはしていない。MAXでも度々触れられる重要なテーマとしてAdobeは「クリエイティブの民主化」を掲げているからだ。
AIと聞くと自我に目覚めて自分を発展させるために核ミサイルを打ち込んだり(デデンデンデデン)、人間を栽培したり(MATRIX)とそういうイメージが先行してしまってるせいもあり、ネガティブ方向に作用してしまうんだろうなと思う。
MAX2018でなりを潜めたSensei
さて、MAX2018はどうだっただろうか。個人的にはSenseiという単語があまり聞かれなかったなあと思った。機械学習はなりを潜めたのだろうか?実はそうじゃない。機械学習という単語はすでに人の興味を引きつけるものではなくなってきているらしい。なので、これをメインに置いてしまうと「なんだまたSenseiか」と顧客はため息を付いてしまう。
Senseiは完全にバックグラウンドに統合され、その存在を認めるのが困難なほど自然にクリエイターを支援し、目がさめるようなAdobe Magicが展開される。これこそがAdobeツールの、Adobe Senseiの本質だ。
もちろん、説明が必要な場面ではSenseiの単語が使われている。名が知れているので複雑な言葉を用いなくても「Senseiのおかげでこれができるようになった」と表現できる利点があるからだ。
様々なハンディキャップをサポートするMAXの姿勢
今回のMAXではこれまでにないものが見られた。セッションで字幕が表示されていたのだ。テレビでも音声を消したりしたときに内容がわかるよう、字幕表示機能があることはご存知の通り。英語にはなまりがあって、ネイティブでも理解できない発音をする地方も存在すると聞いたことがあるし、寸劇のようにものすごいスピードで言葉が飛び出してくるシチュエーションもある。
プレゼンテーションの言葉がその場で目で追えるテキストに変換されることで、耳が聞こえない人はもちろん、我々のような非英語圏の人にとっても、聞き間違いや聞き逃しを回避する機会が与えられ、セッションの理解度がかなり増したのだ。まあ、アメリカンジョークは未だ理解できないのだけど。
僕が見たセッションではなかったのだけど、手話通訳されたセッションもあったらしい。
会場では車椅子クリエイターの姿も多数見られた。イベントとして言葉、身体のハンディキャップなどへの支援が充実していることがわかる。これも一つの民主化と言えるのではないだろうか。
マルチデバイス化の試金石、PhotoshopがついにiOSへ
かなり話題になったのは iPad 版Photoshopの発表だ。すでに、ラップトップコンピュータを持たない人たちがクリエイティブ作業を行う例はかなり増えてきている。液タブを持たず、iPadで漫画を書いている人もいる。写真編集アプリのLightroomは早い段階でiOSやAndroidをサポートしている。PhotoshopやIllustratorは携帯端末に適した操作性と機能を限定したバージョンが既に出ているが、ここへきてフルバージョンPhotoshopがついにiPadに来る。
おそらくこれは近日リリースが噂されている新iPadに最適化されていると考えられるのだが、リリースされればこれまでPhotoshopを使ってなかった層やPhotoshopが使えなかったシチュエーションの利用が進むだろう。
これもまた、民主化の一環だろうと思っている。
Adobeはさらに民主化を進めていく
基調講演で示されたThe Creativity Platform For All
字幕表示が画面中央下にある
Adobeは安価なタブレットや中古端末でも十分なクリエイティブができるような環境づくりを今後も進めていくと考えられる。特に、ラップトップが持てないような環境にいる低所得者や若い人たちにも、Adobeの強力なツールを使える機会を多く提供し、才能を伸ばす手助けをしていくだろう。
Senseiのパワーは素人的に「これできればいいのに」と思いつくけどプロ的に「いや、これやるのめちゃ面倒だから他の手段かあるいは予算マシマシで…」となる部分にすごく活用されていくのだろうなとSNEAKを見ていて思った。
なぜなら、Senseiが活用されるシーンというのは恵まれない素材であり、そういう素材はこれからAdobeがターゲットしていくユーザーが手にする可能性が高いからだ。
でも結局仕事奪うことにならない?
クリエイティブの民主化が進んだ結果、仕事の単価が下がったりして結局仕事奪われることにならないのか?って心配はあると思う。しかしよーく考えてみてほしい。
他の人にマネされるレベルの仕事はAI関与なしでも奪われるリスクが高い。
特に何もしないでいると新興勢力にマーケット持って行かれる可能性はある。
増えたクリエイター全員が仕事するとは限らない。趣味レベルの人も結構な数に登るとおもう。
我々がこれまでそうしてきたように、トレンドを追いつつSenseiパワーを味方につけてワークスタイルを最適化しているなら、気にする必要は特にないかと考えている。
僕はさっきやっとロスから自宅に戻ってきたところで、時差ボケに任せてさっさと出社したら最新のAdobeアプリをいろいろいじってみようと思っている。(現地ではダウンロードに一晩とかかかってしまったのだ)
11月に横浜で開催されるAdobe MAX JAPANにも参加予定なので、現地でお会いしましょう!
よろしければサポートをお願いします。得られたお金は社で飲むコーヒー豆や撮影機材の購入費用に充てようと思っています。