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制作会社なのにURLがとても短いコーヒーショップを作りました。開店準備から運用までを紹介します。

僕の会社はWebをはじめとして、アプリのUIを作ったり改善したり、その結果としてUXを改善したりといったオンスクリーンのデザインと実装を得意としています。

そんな制作会社なのに長野に引っ越してコーヒーショップを作りました。今日はなんでコーヒーショップなのか、準備や運用はどうやってるのかといったお話をしてみようと思います。

喫茶店はそもそもあまり儲からない

会社を作ったとき、いつかは自分たちでコーヒーショップをやろうという計画がありました。そのため、会社の定款には創業時から喫茶店の経営という業務が加えられていました。出張などでは必ずカフェホッピングといって、カフェ巡りをしていました。ロースターへ立ち寄ったらブレンドの豆を買ったりして、豆の重量がありすぎて飛行機で荷物を預けられないなんてこともありました(米国便では重量オーバーはすべて拒否されました)。

それなりに着々と下地を作り続けていてコロナ禍によって「えいや」とお店を作りました。「えいや」の部分はちょっとネガティブなお金の問題などもあるので割愛させてください。ざっくり申し上げると、事業の柱をもう1本用意しなければならなかった。ということです。

わかっていたことですが、喫茶店はあまり儲かりません。原価率は一般的な30%だとしても、飲食店に比べると客単価は低く、回転率も低いです。スターバックスのように内装にこだわって顧客体験を向上することで単価を上げつつ、公園やオフィス街、駅前への出店でテイクアウト需要をとりこんで…と結構タフに攻めないといけません。
しかも、僕の会社は長野に引っ越ししました。普通の喫茶店で利益を得られるようなトラフィックが全く期待できません

長野の村なので古い土地や古民家などがあるかと言われると「思ったよりない」のが現状で(これについては別の機会にお話しします)、執筆時点でも店舗用はもちろんのこと、焙煎作業をするような場所さえ確保できていません。

そこで、理想的な物件を見つけるまでは豆と器具を売る通販を運営することにしました。山ほどあるコーヒー通販ショップを肩を並べて商売できるだけの確信が我々にはあったのです。

なぜコーヒーなのか

コーヒー豆は原価がとても安く、焙煎方法によっては利益率を大きく取ることができる商材です。ある程度のブランディングができれば、コーヒー豆でそこそこの利益を得られるようになるのではと判断しました。器具販売については、様々なコーヒースタイルを提案することで他店との差別化を図っていくつもりです。場所柄キャンプやアウトドア関連の施設が多くあるので、東京などでは物撮りに困難を極めるキャンプ撮影もその辺でサクッと行える地理的なメリットがありました。

コーヒー豆はスペシャルティコーヒーを扱うことにしました。スペシャルティコーヒーは仕入れがやりやすいのがポイントです。多くても豆は1単位が60~70kgです。一方でコモディティと呼ばれるタイプのコーヒー豆は、それこそトン単位で取引されるので単価こそ安いですがそれなりの倉庫を持っていないと無理です。

あとは自分たちがコーヒー好きだからというのもあります。

制作会社なのでクリエイティブがほぼ内製できる

ECをやる上ですごく大切な写真撮影やバナー制作、そしてECのカートシステムのデザインや場合によってはコーディングなど、弊社にはそのすべてのスキルが備わっていました。もちろん、テンプレートをぱぱっとえらべば無料でお店が持てるサービスはあることはあるんですが、それなりにスケールすることを念頭に置いているのでECプラットフォームはShopify一択でした。

これが通常の会社さんだと内製はかなり厳しく、何百万何千万といった予算を組んで外部のパートナーと伴走するという形になると思います。

バナー制作においても売りたい商品や広告の出稿タイミングなど、結構タイトだったりする制作を内製できるのはかなりメリットが大きいです。ラフをFigmaなどで作成してSlackやAsanaで「これいい感じに調整しておくれ」とお願いすると、たちまちにラフがブラッシュアップされて制作物が送られてきます。外注でこのスピード感はなかなか得られません。(もちろん、我々が受注する側だと、お客様のスケジュールにできるだけ合わせられるよう精一杯努力いたします。そしてそんなお手伝いをやるサービスを展開しています→デザインコンシェルジュ

Web系の会社なのでWebマーケティングやSEOもできる

Web制作をやっているとマーケティングのお手伝いをする機会に恵まれます。このノウハウをそのまま自分たちのECに持ってくることが可能で、すくなくとも、広告運用に関して外部の会社さんを必要としません。

アクセスの解析や売り上げの分析結果から、サイトを細かく改善していくサイクルを自社の余ったリソースを振り分けることでほぼほぼ完全内製を実現しました。

本来であればここにも結構な予算と時間が割かれます。我々は開店前にすでにこれらのスキルを持っていたので、スタートダッシュでいい感じのポジションを取れるんでは?と思っていました。

もちろんWebマーケティングやSEOを専門とする会社さんに依頼することでさらなる効果を狙うことができると思っています。しかし、この界隈はめちゃくちゃ怪しくてめちゃくちゃなことをやってしまう会社さんも結構あるので、ほぼ同業界の僕ですら依頼をためらうレベルであることも現状だったりします(いい会社はホントにありますが、やたらに営業してくる会社は上場していてもヤバいと思っています)。

toCの商売は完全に素人

商売の基本は、商品を仕入れて売る。これだけです。売る商品が決まっているなら関連する仕入れ先を探して、取引したい旨を伝えて、取引条件に従ってやりとりして…となります。
なんとなく常識的に「こうやればいいんだろうな」というのはあったので、メーカーさんの問い合わせ窓口に「うちの店で仕入れたいのですが、問屋さんを紹介してくれませんか」と言った質問をフォームから投げ込み、商習慣的な空気感をなんとかつかんで行きました。

そしてここではかなり苦労しました。というのもどの問屋さんもメーカーも、EC専業には言葉にできないレベルの不信感を持たれており、さらには開店前というのも拍車をかけて、取引を拒否されることもかなりありました

100%聞かれるのは「楽天やAmazonなどのモール系へ出店する計画はあるか」「上代を守っていただけるか(セール販売しないか)」でした。そのため、問い合わせする際に開店するお店のプロフィールをしっかり書くようにしました。今は開店後なので、お店のURLと、どういった商品を扱おうとしているのか、どういったコンセプトで商品をえらんでいるのかを詳しくお話しています
しかし取引条件で「上代(販売価格のこと)厳守」と言いながら自社ECで半額セールとかされてるとさすがに「えぇー…」ってなりますね。法的には上代厳守に拘束力はないはずなので、勝手にいろいろやっても多分大丈夫とは思うのですが…。

正直なところ、この辺はコンサルやアドバイザー的な方に手伝ってもらった方が全然よかったんじゃないかと思いますが、幸い何社かの問屋さんにたどり着いて、今はいい感じに取引させてもらっています。

しかしまだまだ足りないので、新しい商材や仕入れ先の開拓は今も継続中で、海外にも手を伸ばしています。

仕入れはなんとかなりました。売れるかどうかはさておき、次はお客様へ商品をいかにして届けるか、です。

発送業務の75%を完全外注する

EC最大の悩みの種は、売れれば売れるほど発送業務が爆発する点です。仮に100点売れたとしても発送業務に忙殺される未来が見えてきます。そのため、開店前からここを完全外注しようと決めていました。ただし、コーヒー豆はオーダー製品なので自社発送となります。外注するのは器具類です。

Shopify対応している点とメルカリなどの連携で知られているOPEN LOGIさんに問い合わせしました。我々は物流に関しても完全に素人なので、担当営業の方やサポートの方のお力を存分にお借りして、今は無事に在庫が売れれば何もしなくても発送・発送メールもお客様に届くといったフローが確立されています。つまり、外注部分は本当に何もしなくても商品が発送されていきます。

当初はこの外注の割合を9割程度に持って行くつもりでいたのですが、日本の送料計算は重量だけではなくパッケージの3辺合計サイズでも行われるため、一部商品で送料が多かったり少なかったりする状態になることがわかりました。そこで、クリックポストや宅急便コンパクト、レターパックなどで対応できるものについては自社発送にして、送料負担の軽減を狙ってみています

さあ、お膳立ては完璧です。いよいよお店を開くタイミングになりました。ところが、まだ決まっていないものもありました。店名と、URLです!

お店の名前とURLは相当に揉めた

お店の名前は COFFEE LAB by hatte 八ヶ岳珈琲研究所 と長ったらしいものなのですが、hatte って誰も知らないだろうし、口頭や文面でQRコードを用いなくても伝えやすくしようと言うことで、クソ高いドメイン(年額5万円)を購入しました。

h.coffee です。

むしろこれが店名になるのでは?とまで思えるインパクトの高いURLを入手できたと思っています。

本来の店名は、制作会社の中で珈琲の研究をしているのは事実だったので、LABという名前をどうしても入れたかったけど、COFFEE LABだと名前かぶりが発生します。そこで、最後に by hatte と社名を入れ「誰?」と思われるような形に落ち着きました。しかしこれではどんなお店か全くわかりません。URLが特徴的なのでそれなりにやばい感はあるんですが、ググラビリティ(検索のしやすさ)が全くありません。

そこで我々のラボが位置する八ヶ岳の名前を借り、LABを日本語に訳した言葉である研究所をつなげました。

COFFEE LAB by hatte 八ヶ岳珈琲研究所

なるほど、hatteって人が八ヶ岳で珈琲を研究しているんだな?そしてURLがクソ短い。これはどういうことだとアクセスしてくれるといいなって思います。

地名+コーヒー で検索されても表示される可能性が高まりました。

さあ、今度こそ準備万端でお店を開店させられました。この後我々は何をすべきでしょうか。売れた商品を発送するのはもちろんですが、売り上げをどんどん向上させ、黒字化し、事業としてしっかり成長させなければなりません。

広告を活用してWeb立地の条件をよくする

とりあえず開店したら友達などに紹介してきてもらうようにしました。しかしそれも最初のうちで、リピートしてくれる人はあまりいません
開店したばかりで詐欺サイトだと思われる可能性もありますし、まずは商品をしっかり発送して、実績を積んでいく必要があると感じました。

そのため、まずお店とGoogle マーチャントを接続。商品そのものの広告を出せるように準備を進めました。次にInstagramのフォロワーを知人に依頼して増やしました(Instagram上で商品を売るには、ある程度のフォロワー数が必要と言われています。そのため、まずは身近な方にフォローをお願いするんです)。

登記上の所在地にGoogleのマイビジネスを表示(渋谷から引っ越し)しました。そして業務用の電話番号を取得しました。固定電話はほとんど営業電話しかかかってこないので解約して、特商法上必要な番号を「開示申請があれば即時開示します」という形で運用しています。リアルに存在する会社であることを簡単に検索できるようにして、信頼性を高めました。

ShopifyはGoogleやInstagramの連携はほとんど追加のコードなど必要なく行えます。アクセス解析に必要なGTMやAnalyticsの設定も済ませます。

広告経由で来たお客様が実際に購買に結びつくのか、だとすればいくらくらいのコストに対していくら買ってくれるのか?みたいなのを計測するための準備です。

そして広告は下記の3つを回すようにしました。

  1. サイトへの通常のアクセス

  2. ショッピング検索のアクセス

  3. Instagram経由で映え写真を短期決戦で

Web立地をよくするには、オーガニック検索が期待できない状況では広告がものを言います。そこで、広告をブランディング、売れ筋商品、売りたい商品の3つの軸で評価していこうと決めました。広告予算は月額で数万円以内とかなり少なめにしています。おそらく厚めの広告の方が評価もやりやすいのですが、まだその時ではないという判断です。

アクセス解析から競争力のある商品を見つけ出す

お店を運用していると、注目されている商品があるよーという通知を受け始めます。Analyticsでも注目キーワードとして表示されはじめ、shopifyも注目商品だという表示がされます。

少なくともその商品が、競争力のある商品となります。そこで、当該商品についてお客様がどのような行動をとっているのかの分析をすることにしました。そして、本当に注目されているのかをより詳しく知るために、カゴ落ち検出のコードを走らせることにしました。カゴ落ちとは、商品をカゴに入れたけど、何らかの形で決済までたどり着かなかったことを指す言葉です。

カゴ落ちが発生すると、一定条件を満たしたときにShopifyはお客様にリマインドメールを送ります。

すると、競争力のある商品に関して、カゴ落ちが度々発生しており、カゴ落ちリマインドメールについてもお客様が再度アクセスすることがないということがわかりました。商品の競争力はあるのに、店の競争力がないんです。

考えられる原因は2つ。
ひとつは、本当に商品が送られてくるか不安という点でしょう。開店直後なので仕方がないのですが、運営の実態をわかりやすくするように、ブログを書いたりInstaを更新したりしました。

もう一つは送料が高い点でしょう。我々のような小規模店舗は、送料自体もばかにならないためお客様に支払っていただくようになっているのが通常です。Shopifyは商品をカゴに入れた時点で送料がわからないため、決済画面まで進む必要があります。決済直前の合計額が思ったより高かったから帰っちゃったのかな?と、カゴ落ちメールに工夫をすることにしました。

「もし、送料が高いと感じられたのなら、初回限定クーポンの利用を検討してくださいね」

という一文を入れました。そして初回限定クーポンをトップページのわかりやすい位置に配置して、利用の促進をしました。結果としてこれがうまく働き、初回限定クーポンはそこそこ利用されるようになりました。

競争力のある商品の特徴は、どこで買っても価格が同じというものでした。そのため、総額ができるだけ安く、できるだけ早く発送してくれるお店がえらばれるのではと、日祝以外は午前注文で当日発送することをわかりやすくバナーにして掲示しています。

その商品に競争力があることがわかっているので、Instagramの広告を入れ始めました。ただし、こちらは出しっぱなしではなく、月末月初や給料日前後、週末前後などの消費が増える時を狙った短期決戦型の広告として運用しています。

在庫の状況も監視しておき、広告を出す前には在庫を潤沢にするようにしました。広告のタイミングと問屋さんの納品のタイミングの調整が結構大変で、かなり余裕を持ったスケジュールで行動する必要があります。

サイト内回遊の自由度を上げて、広告経由ユーザーの離脱を極力減らす

これは現在もやっている施策です。離脱の原因はほしい商品ではなかったとか、利用シーンが想像できなかったとかがあると考えられるため、利用シーンをわかりやすく訴求するページやブログを用意して、商品ページに関連コンテンツとしてリンクするという改善を現在行っています。

商品についても関連商品を出すのはもちろんのこと、サイズ違いやあわせ買いに適した商品の提案ができるようにしています。
Shopifyでは関連商品は自動リコメンドされるんですが、これが必ずしもよいかというとそうではないため、手動でこれを行えるようにします。

ポイントは各商品に関連する商品のリストをメタフィールドで持たせて、適宜展開して表示するというものです。
あとは、当該製品のレビュー記事にリンクして、購買を後押しするようなものも準備しています(フォトヨドバシみたいなやつです)。

ECノウハウの販売をする

我々はWeb制作会社なので、ここで得たECの知見をこれからECを始める方たちに向けて販売することを検討しています。素早く立ち上げるにはどうするべきか、広告の運用をどうするべきかなど、考えること決めることがあまりにも多く、お手伝いできるところがいろいろあるのでは?と思っています。

割と驚かれるのですが、ECの運営は僕が一人でやっています。制作は社内のデザイナーの稼働が発生していますが、EC専門で稼働していません。立ち上げ当初から事業の一つとして見つつも、フル稼働するメンバーは1名だけと決めていました。そういったノウハウも提供できるのではないかと思っています。

Shopifyからは、同時期に開設されたショップ全体の中で、顧客流入の数が上位で11%になるとお褒めの言葉をいただいています。上位5%くらいまで攻め込んでみるつもりです。

これからの施策

まだまだアイデアがてんこ盛りで、随時実装を進めているところです。Shopify以外の部分でもパッケージのアップデートや、ラベルのセミオーダーシステム、フルオーダーオプション、上代厳守商品の実質値引き販売を可能にするクーポン戦略、現状の販売が器具に偏っているので、豆の拡販をするための広告戦略…と挙げればきりがありません。

9月は広告予算をGoogleの勧めるがママに設定するテストをやってみます。結果はまた来月お話しできればと思います。

もし、これを読んで相談してみたいなと思った方は是非、Shingo.Okamoto@hatte.co.jp 
まで「ECの件」的なお題でコンタクトしてください。立ち上げ、運用、広告戦略はもちろん、デザインの相談も可能です。

あと、お店にも是非お越しください。コーヒー豆は僕が一つ一つ心を込めて焙煎しています。無料の試飲豆(送料も無料で届きます。)や自家焙煎される方向けの生豆小売り、厳選された器具類もございます。キャンペーンやセール情報はInstagramで流しますので、こちらも是非フォローしてください。


よろしければサポートをお願いします。得られたお金は社で飲むコーヒー豆や撮影機材の購入費用に充てようと思っています。