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スポーツ熱中症対策は、まず水を掛けろ!

長距離スポーツとは、酷暑に最も不向きな人間活動の1つ、大会に向けガチでトレーニングするとはその最たる愚行ともいえよう。しかし愚者には愚者なりの対応もあり、その基本を整理したのが前回note:

結論を先に書くと、酷暑下スポーツの基本は、体に水を掛けること。そして空気に当てて気化熱を奪うこと。トップの画像のようにバシャーとかけなくたって、濡れタオルでもいい。「水分補給+汗」のセットよりよっぽど効果高い。むしろ気をつけるべきは、流れる落ちるほどの汗では気化熱を利用しきれていないということ、ム・ダ・な・の・death!😅

知ってさえいれば大幅に軽減可能。でも知らないで根性我慢で乗り切ろうとしての失敗はあとを絶たない。なぜそんな不合理が日本社会に蔓延しているのか? このnoteでは5つの理由から考察しよう。

※ここで「熱中症対策」とは、症状が出ないようにする事前対策・予防のために、アスリート個人ができることを指します。少しでも症状が出たら当noteでは手に負えませんので注意。(旧タイトル『スポーツ熱中症対策に「水を掛けろ」と言わない不思議』2020/09更新)

「水分補給」だけでは足りない理由

水が体表にあれば、気化熱が奪われ、「筋肉温度」の上昇を遅らせれば、パフォーマンス低下を抑えられるし、熱中症につながる危険な「深層体温」上昇も抑制できる。

「水分補給だけでは足りない理由」は、これを裏返せばいい。水を掛けないと普通に汗が出て、同様に気化熱を奪ってくれる。しかし、
① 汗の温度=体温=ぬるま湯を浴びているようなもの
② 体内の水分もミネラル分も失ってしまうので、汗が流出するほど危険
③ かといって、ガブガブ飲むとお腹壊すこともあるし
④ スポーツドリンクだと痩せない
と色々ややこしい。

さらに、塩分濃度が不十分な水分の場合、「低ナトリウム血症」のリスクもある。

※低ナトリウム血症については、2015年7月ブログ「真夏の耐久スポーツ3 【一発ビジュアル理解!】 低Na・脱水・熱中症の関係」参照

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1. 塩分ぬきに水分だけ飲むと、
2. 体内のナトリウム(=塩)比率が低下し、
3. 水/塩の比率維持のため水分が排出され(=大量の汗)
4. 水も塩もたりない二重苦に陥り(=この時点で競技不能)
5. 体温調節力が弱まり、熱中症リスクが高まってしまう(=死のリスク)

これがスポーツによる「低ナトリウム血症」です。

逆にいえば、掛水とは、より効果的に体温を下げながら、体内の水系資源を保持し、急性症状も防止できるのだ。

実行は超簡単。空きペットボトルをポケットに突っ込み、公園の水道で入れて、走りながらジャブジャブすればいいだけだ。(僕は買い物の都度、保冷氷をビニールに詰めて冷蔵庫に入れておき、溶けたのを持って走ったりする)

大会なら、エイドには十分な水があって、贅沢に水を掛け続けることができる。トライアスロン大会は真夏にも多いのに、熱中症が意外と少ない大きな理由だと思う。ただ、ウェアに白く塩が浮いた選手もわりと見る。水を掛けずに走り続けているということだ。(※上位でゴールする選手ではまず見ない=情報力は競技力に差をつける)トライアスリートですら水を掛けないとは、日本全体ではどれだけその習慣が無いのか?と残念な気持ちもある。

その原理は「濡れタオル+団扇」と同じ。運動しないで座って見てるだけの=たとえばTOKYO2021の観客にも応用できる。今なら首かけ扇風機もある。(これ使う人は濡れタオルとセットで使おう)(間違って濡れマスク作って窒息しないようにしましょう)

しかし。

たとえば熱中症対策 スポーツとGoogle検索すると、2020年8月時点で順に①大塚製薬、②スポーツ庁、③日本スポーツ協会(JOCから独立した公益社団法人)、④日本気象協会系、⑤環境庁系、と、信頼性最高級の団体による専用サイトが並ぶ(初稿の2019夏から少し変動はあるが傾向ほぼ同じ)。上位をざっと目を通したけど、事前対策として挙げられるのは水分補給くらい。「水を掛けろ」とはほぼ触れられない。対策を「予防」に変えてもほぼ同じ(あたりまえか笑)

1〜2位に入る日本スポーツ協会の「熱中症を防ごう」特集ページでいわれる「スポーツ活動中の熱中症予防5ヶ条」は

1 暑いとき、無理な運動は事故のもと
2 急な暑さに要注意
3 失われる水と塩分を取り戻そう
4 薄着スタイルでさわやかに
5 体調不良は事故のもと

と、「暑ければ運動するな」と言ってるようにも読める。このうち事前対策は4つめ、「薄着スタイル」として「軽装・通気性のよいもの・帽子」がよびかけられているだけ。まあ、お役所の責任回避策としては理解できる面もあり(世間はいろいろうるさいからね)、ランナーやサイクリストにとってまったく現実性がない。

追記:2020年6月に情報が追加され、動画「【スポーツ活動中の熱中症予防】ch.3 身体冷却法 -予防編-」で2分55秒ごろ、身体に水を掛ける方法がごく短時間だけ紹介されている。が、ガイドブックのレベルでは記載されていない。

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この動画も視聴数は2ヶ月半で3,000だけ、影響力はほぼゼロといっていい。ウェブサイト側の文字情報では見つけられななかった。

権威と影響力ある組織がことごとくそう発信し、Google様1ページめを占めるということは、つまりほとんどの日本人は情報弱者どころか情報から阻害されているということだ。なぜそうなのか?

理由1. 「水分補給」という科学(風味の)商法

大きな理由は、大手企業が研究スポンサーだから。

念のため、批判をしているのではない。ビジネスとはそういうものだと思う。特に大塚製薬さんは僕は普通に好きな会社で、ポカリ、OS-1と、ゼロから市場を創造して日本の熱中症対策を進めてきた貢献は多大であり、社会貢献と利益とが一体になった事業を展開してきたと思う。「このまま砂糖水を売り続けるか、それとも世界を変えるか?」という有名な二択問題を弁証法的に解決した的な。

ただ、「水分補給」というマーケティングがあまりにも成功し、そこだけ拡まってしまった。日本に限った話ではなく、半世紀前のアメリカに始まることを、スポーツと疲労についての最新の良書、『Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実』(クリスティー・アシュワンデン, 2019)で説明されている。

第二章「水分補給」で、スポーツドリンクの科学的イメージが作られてきた歴史がわかる。さらに砂糖水(人工甘味料水か)をMBA持ちグローバルエリートさんが高度なマーケティング手法を駆使して売りまくる巨大企業などが追従。これら資金力により関連研究も充実する。メディアにとってもイベント開催においても、経営を左右するレベルで大口な超重要広告主だ。たとえば、上述の日本スポーツ協会のOFFICIAL PARTNER企業にもなっている。

結果、世の中全体がそんな雰囲気になっていく。

もちろん大学とかの研究者さんがたも、スポーツドリンク以外の熱中症対策研究を独自に進めて、その成果もいろいろ発表されている。東京2020でも注目される「アイススライリー」(=ようするにシャーベット)もその1つだ。こちら去年のJTU研究会メモ↓

問題があるとすれば、「水を掛ける」という強力な手法はあまりにも単純すぎて、そこにおカネの流れが発生しないこと。商品にはならない。当然メディアも広告が入らない。大学の先生も研究業績にならないから文科省に補助金をカットされちゃう。前回noteにもこんな反応あった↓

理由2. お行儀問題

おカネの問題ぬきに考えると、日本のスポーツ文化の多くは学校の部活を通じて醸成されてきた歴史がある。価値観が形成される中学高校という年齢、世界的にも異様に高い参加率、と影響力が大きい。終身雇用で資格必要な学校教師が主体なので、指導法は基本、保守的なものとなりがち。すると、水をバシャバシャ掛けるのは、明治以来の学校文化とは、ちょっと相性が悪い気がする。そんな話はマスメディアも伝えたがらない。クレーム電話とかFAXとかきそうだし。

個人の立場からもそうで、僕自身、ランニング習慣ある(大会には出ない)女性と

ハッタ「水かければ夏でも走れるよ」
女性「人前でそれはちょっと・・・」

という会話したことある。もちろん美意識は自由なんだけど、現実に酷暑下で身体活動をする際に、選択肢はあるほどよいわけで。

理由3. ゲーム形式スポーツとの差

スポーツを「ゲーム」と「レース」に大別した場合に、ゲーム形式の野球・サッカー・テニス・バスケ等々は、試合中に自由に水を取ることができない。休憩中でも、冷水を掛けている間は熱が移動するが、流れ終わったら効果終了。また日本の夏は湿度が高くて風も弱い中で、競技中の身体の移動量も少ないから、気化熱を利用しずらい。場合によっては蒸れるだけ、ということもある。

一方で、ランニングや自転車なら、常時移動しているから常に気流があり、湿度が高くても気化熱が機能しやすい。レース中も練習中も水を取りやすいから、常時ウェアを湿らせておくこともできる。(※この目的で長袖アームカバーお勧め。紫外線ストレスも軽減できるし。今は白色使ってます)

とはいえ多湿環境では、自転車ならよいけど(わりと乾くから)、ランでは効果が薄れる。この場合、水(や氷)の冷たさによって冷やす必要性が高くなり、レースならエイド側の対応次第ともなる。

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(写真は2013長良川トライアスロン、撮影増田和幸さん)(ちなみに私↑足腰の筋肉多いねと言われるんですが165cm62kgで女子ゴルフ全英優勝の澁野日向子プロと同じ。彼女可愛い顔してどれだけフィジカル鍛えてるのかよくわかります!)

そして世の中的に注目度が高いるのは前者。甲子園をクーラー効いた部屋で見て、連投がどうのとかSNSで熱く語るけど、その時に外を走ってる奇行種のことは同じニンゲンとしては見てないことだろう。笑

でもさすがに夏の甲子園レベルは、野手は氷を砕いてポケットに入る容器に詰めて、プレー間に頭・首に掛けるくらいしたほうがいい。ジップロックでいいから。するとお行儀クレームが必至だから、結局、上記のお行儀問題が大きいんだろう。

理由4. 酷暑下アスリート=奇行種問題

これが最大要因か😁

熱中症による重篤事故の多くは高齢者、ついで幼児。環境では屋内での発生が多い。彼らは完全な病人であり、医学的処置は明確。それが「医師の見解」としてメディアに紹介される。これはこれで正しい。

状況も、目的も、違うのだ。

38℃で走るようなのは超希少種であって、そのほとんどは、疲弊困憊はしても、熱中症までは起こさないものだ。このnoteを熱心に読んでいるアナタの関心は、その疲弊度を軽くして、真夏の間にも実力を上げて、酷暑レースで実力を出し切りたい、ということだろう。アナタの周りはそんな人ばかり集まっているのかもしれないけど、日本全体でそれは超希少種なのであります。そんなマイノリティのための情報がマスメディアに乗ることを期待してはいけない。

でもどんなに希少で奇行だろうと、現実に今、長距離のパフォーマンスを上げたい以上、僕らにはそのための現実的な武器が必要なのだ。

理由5. 知らない

以上、いろいろと事情はあって、それぞれの合理性もなくはない。ただ、僕はこんな話は旧ブログから何度か紹介してきて、感謝の声も直接間接にいただく中で、単に知らない方が多いのだなあ、と思うことが多い。

(「耐久スポーツの暑さ対策」カテゴリ記事などご参照↓)

・・・

いろいろ書いてきたけど、一番大きのは1つめ、

「水分補給」はカネになるが、「水を掛ける」のではカネが動かない

な気がする。

もちろん、必要な水分補給はあり、水分補給をする以上は、ただの水では「低ナトリウム血症」のリスクもあって、適切な選択が必要。そしてこの分野の大スポンサーである大塚製薬のOS-1は、スポーツ大会の現場担当医も最高に評価されている。

大事なのは、場面ごとの使い分けだ。

うまくいったかどうかは、前後での体重の減少幅をみればいい。1−2時間の運動程度では、減る脂肪とはせいぜい数十gなので、減少分はほぼ水系統だと思っていい。同強度の運動なら、減少幅は少ないほどいい。
水分補給がうまくいっても体重変動は少ないけど、スポーツドリンクを飲むと痩せないし、ただの水だと低ナトリウム血症リスクがある。汗は貴重な体内資源、流出を抑えるのがベスト。

安くて、汎用性高いのは、塩タブレットを持ち歩くことかな。水は水だけで持っていれば掛けることも飲むこともできるし、公園などで水道水を補給することも可能だ。危険そうなときには塩タブをかじればいい。

ぼくらは権威に頼らず、自分のアタマで考えて、バシャーっていこう!

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(Photo by Alex Blăjan on Unsplash)(てこんなバシャーてやる必要ありません)

(なお文字の挿入可否について https://unsplash.com/license チェックしたところ「大きな修正なく販売すること」が禁止されており、反対解釈により修正自体は許容されている前提。そもそも写真はトリミングも許可されない場合があり〜noteではトリムされる、あらゆる改変が禁止される場合は明記されるはず。noteのフォトギャラリーもそう)

サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます