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宮古島トライアスロンが全額返金できる理由

2020/4/19予定の第36回全日本トライアスロン宮古島大会(主催・宮古島市、琉球新報社)、僕はちょっとだけやる気を起こして申込んで外れたのだけど、2/27に中止が決まり、3/2に参加費4.5万円の全額返金も含めて正式決定した。

多くの大会が返金しない中で、なぜ宮古島は全額返金できるのか? 参加型スポーツ大会運営についての基本を、報道など公開情報をベースに整理しておこう。僕の結論としては、宮古島は特殊事例。ここまで条件が揃う大会はなかなかない。

宮古島の好況と財政

支出済の準備費用は約2,200万円。" 今後市議会で議論し、補正予算で補塡(ほてん)するなど、対応案を検討していく" と下地敏彦市長を会長とする実行委員会が公式の場でいい切っているのは、既に議員にも根回し済ということで、ほぼ地域の総意なのだろうと推測する。

大会予算は2019年で1億2200万円、今大会は参加料5,000円値上げ=参加者1,700名で計850万円の増収もあり、今回1.3億円と仮置きすると、支出済は17%に留まる。参加者一人あたりでは1.3万円。単純計算だが、参加費の値上げ分だけで、2021−2023年の3年間でおつりがくる形だ。

支出するのは宮古島市だけど、宮古島は史上空前の超好景気。財政は潤沢かと思われ、たとえば佐渡や天草のような同様の大規模トライアスロン大会とは、財政条件が全く違う。

上記の2019.08記事によると、10.53㎡、キッチンシャワートイレ洗面所共用で募集賃料月9万円! 人件費は単純作業でも日当は1万5000円程度、職人は2万5000~3万円、コンクリート型枠工は5万円と、現地従来相場の倍以上に高騰。不動産高騰による固定資産税だけでもかなりな増収では。

僕が参加した2015年 ↓ バブル感は全くなかったのだけど。

潤沢といっても、宮古島市2018年の自主財源比率は19%。ただ沖縄本島と台湾・中国大陸の中間、尖閣諸島にも近い地政学的な事情から、380億円の伊良部大橋や下地島空港など大型公共事業が重点配分される面はある。防衛予算からは年間18億円。2018年4月30日の僕のブログも参考に ↓

中止決定時期

支出済の金額が全体の17%に抑えられているのは、大会2ヶ月近く前の中止ということが大きいだろう。推定だが、申込サイト・パンフレット郵送など広報系、参加Tシャツ・タオル(製造済かはわからないが)あたりかな。

トライアスロンの支出で多いのは、警備、スイムのライフガード(とくに宮古は外海使用なのもありダイバー含めて大量配置かと思う)など人件費という理解。これらは荒天等の前日中止なら100%発生してしまうけれど、今なら浅く済む。

宮古島大会はボランティアが5,000名と豊富で、大会規模のわりに人件費が抑えられているのかもしれない。ここは大会ごとに事情が異なるところで、地元をあげて大量の無償ボランティアを動員できる大会と、有償スタッフの人数が多いところでは、コスト構造が全くかわる。

たとえば5/2幕張ビーチ花火フェスタ2020(第42回千葉市民花火大会)の中止でも警備費用は大きな問題の1つで、今キャンセルすれば一部戻る、延期だとさらにコストを積んでしまうと熊谷俊人千葉市長が言っている。

無償ボランティア(と警察の協力=例外的)で警備が成立する大会は、コスト構造的に強い。ただ多くの地方大会では過疎化・高齢化がこの障害になっている。(そして消えてゆく)

地元の意思

見落としてほしくないのが、5,000名というボランティア人数。参加者の3倍、人口5万の1割ものボランティアに支えられているのだ。アイアンマン世界選手権ハワイでも同じく5,000名だが、ここは日本含む世界中からボランティアが集まっている。島をあげての大イベント、ムラの年に一度のお祭りなのだ。

36年間に始まったこの大会は、観光人気の低かったころから地道に宮古島ファンを育ててきた面もあるかなと思う。地元の方にもとっても大事にしていただいている。お互い様だ。その気持ちが、返金という対応にも表れているのだろう。

支出済み費用が一人あたり1.3万円だから、返金コストも加味して4.5万円のうち3万円くらいは無傷で返金できた資金状態ではある。今回の判断とは(まだ議会決議前ではあるけど)、残りも大会側(=地域新聞社にそんな資金はないから)宮古島市が被る、という判断だ。

このことを忘れてはいけない。全額返金とは、つまりは有権者が税金支出を納得してくれたということ。返金される補填分のおカネとは、空から降ってくるのではない。市民の税金をいただいている。財政赤字の日本で、税金の一定割合は将来世代=若者〜これから生まれる子供たちへのツケ回しでもある。

追記:地元の方からコメントいただき、返金の理由は

計算なくただ来年も気持ちよく参加してほしいとの思いのみ

とのことだそう。実際そういう人達だと思う。ただし、このnoteで書いているのは「その思いはあるが、実行したくてもできない資金状態の大会」の方がはるかに多いだろう、という話だ。

宮古島大会は特殊事例である

以上、

・大会2ヶ月近く前の中止
・超好景気な宮古島経済
・36年間の信頼関係
・ボランティア5,000名の効果
・税金支出への有権者の納得
・今年からの参加料値上げ

と並べた時に、宮古島での全額返金は特殊事例であると理解したほうがいいと思う。ここまで条件が揃うのはなかなかないのでは。

2010年6月予定の「アイアンマンジャパン五島長崎大会」は宮崎県の口蹄疫が飛び火するのを恐れて中止になっている。1,090人分の参加料、旅費のキャンセル料は市が負担した。2年後に再開でき、今に続いていて良かったのだけど、人口3万(1950年代には最高9万超)の五島市にとって、負担は大きかったことと思う。

たとえば東京マラソンでは、都民の意思が分かれると思う。自治体主催の大会では、政治は極めて重要な要素だ。

こういった自分でコントロールできない要素に振り回されるのは、参加アスリートにとってはメンタル資源の無駄遣いだと僕は思っている。だから、大会中止は「みんなでがっかり」しよう、というマインドセットを僕は推奨している。

関連する費用も「いろんな主体が自分のできる範囲で、少しずつ損害を負担する」ことが基本だと思う。そもそもスポーツとは、ある程度の余裕があって成立するものなのだし。

自分でコントロールできないことに、一喜一憂しないことですよ。

トップの写真は東平安名崎(ひがしへんなざき)の灯台。バイク折り返し地点。贅沢なコースだ。宮古の塩はミネラル含有数18種類が世界一。あのビーチに海外観光客がようやく注目し始めたばかりなのは、遅すぎたようでもあり、はやく収束して、人気をさらに高めてほしい。

p.s. 僕がちょっとだけ発生させたやる気は既に収束済であります

サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます