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要は腰 -- ランニング動作の「原因と結果」

(カナメはコシ、と読みます、ヨウはヨウ、でなく)

本来ならば7/27にお台場でレースしていたはずのトライアスロン上田藍選手、アサマ2000パークでの練習風景をインスタに:

155cm44kgの小さな身体だけど、腰回りのパワー感が見て取れる。僕の考えでは、ランニングのカナメは腰である。そして腰を「最大の原因」、脚など他のパーツはその「結果」と見る。するとランニング動作はシンプルに、かつ応用しやすいものとなるだろう。(2021/1/6追記)

事例:上田藍選手

上田選手の上記インスタ、4つめが動画。ひと目で大きな腕振りが目立つのだけど、僕はまず腰まわりに注目する。

・腰=パワー源
・脚=腰にぶらさがったつっかえ棒
・腕振り=骨盤を強力に回す手段

だと思う。なぜなら、腰は重たいから。

最重量パーツ=最重要

ニュートンの運動方程式では

質量 × 加速度 = 力

であるから、加速度(=速度変化)が同じ場合、力は質量に比例して大きくなる。あるいは、重たい物体はゆっくりした動きでも大きなパワーを出せる。

だからフォームを考える時にも、まず最重量ユニットから考えるべきだ。

注記:ここで「腰」とは、「重さのあるひとかたまり」としての概念的なもので、骨的には骨盤+腰椎+股関節、プラスその周辺の筋肉群の全体
ということは、尻は骨的には大腿骨系統だと思うけど、ここでは腰の一部、くらいな感覚で言ってます。
「骨盤を回す」とは、まずは、骨盤自体=腰椎〜骨盤の、横方向の回転運動をいいます。プラス、股関節=骨盤〜大腿骨の、進行方向への縦方向の動きも連動し、これらは分離できない一体のものですが、まずは横回転についてです。

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(画像は2017ブログ "【図解】 「腕振り」とは「慣性力」の制御 〜新刊『ランニング・サイエンス』をふまえて" より)

トライアスロンの3種目では、以下のアレンジ。
・ランニング: 腰(二足歩行姿勢の基本)
・自転車:より下側のモモ(腰はサドルで固定され無効化される)
・スイム:より上側の胴体、特に体側部(水面に平行な姿勢で、浮力もあるので)

重たい腰は、重心であり、かつ動作の起点である。するとこのように登りで姿勢を前傾させた時、自重を推進力として活かしやすい。(静止画↓)

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ランニングの登りとは、「モモで蹴って登る」のではない。脚を「つっかえ棒」のように最低限の筋力で形だけ保って、体重をこまかく移動しながら進むものだ。パワー源は脚の筋肉ではなく、自分の体重だと思っている。(この走りは、2011〜2014年の伊良湖トライアスロン総合優勝目指した練習で身につけた)

人体パーツの重さ

「腰+脚」のユニットは、体重の過半数を占める。身体の各部位の重さについては諸説あるが(どこで切り取るかによる)、1998年のアメリカの文献では以下の通り(図は望月弘彦先生論文より)

スクリーンショット 2020-08-07 午後3.32.39

両脚で計37%。胴体の1/3が腰回りと仮定すれば腰+脚で51%。肺はスカスカだし、実際もっと多いかもだ。体重44kgの上田選手でも23kgはあるとすれば、ペンキ入った一斗缶(18L)とか、30kgの米袋とかレベルだ。

それだけの重量物がお腹の下で横回転運動を繰り返すのがランニングだ。この回転エネルギーに対して、上体側で反対の回転運動を作って相殺するのが腕振り動作。

特に上田選手は、最初のサムネ画像を見ての通り、上体側が軽く、肩幅も狭いから、上体をより大きく速く動かさないとパワーバランスが合わない。「質量×加速度=力」の公式からは、大きな質量が作る力に対抗するために、小さな質量の側は加速度を高める必要がある。

なお「腕ふり」、と呼ばれるが、体重比で6.5%にすぎないパーツなので、パワーも6.5%くらいだろう。それより43%の胴体が大事。胴体の上側を動かすのは肩甲骨。だから「肩甲骨ふり」くらいが正しい表現。

ランニングの「原因と結果」

そして、腰、という一箇所に意識を集中するメリットがある。スポーツ動作で一般人が同時に意識できるのはせいぜい2箇所までだろう。

でも、改善すべき点は本当はもっと多いもの。それでも効果がある場合とは、一連の動作全体が、うまくつながる場合だろう。「この動作を原因に、この動作が結果として続く」という因果関係を理解できていれば、そのうちの1点を変えた時に、正しく影響させられるから。

ここで、カナメは腰、と重点を決める。すると、他の動作は全て、腰を動かすための手段であり、かつ、腰を動かした結果として理解できる。

僕の場合、意識を向ける先は時々で変わり、ランなら「モモを上げる」「肩甲骨をハネる」(=どう説明すべきか?)などなどいろいろありうるのだけど、意識の対象は同時には1つだけ。そしてその動作が、骨盤の作用にどう影響するか?と考える。

「トライアスロンでの腕振り」については2016-2017年のブログ ↓

大迫傑選手にあてはめたのが『大迫傑の腕振りの進化と、典型的日本ランナーとの差 - ランニング動作論3』(2018)

など、要するに、腰をいかに操作するか?という話を書いている。

再考察:上体強い×腰安定?ヴィンセント

箱根駅伝 2021往路みての、2021/1/2の追記1: ❝ 2区新記録の東京国際大イェゴン・ヴィンセントも、厚みのある上体のパワー感が目立つが、武器は、腰まわりの回転力かと思う・・・強いねじりパワーを発生させ、骨盤(=両端の大転子)を介して、脚に伝わる ❞

と思いきや

1/7の追記2:上体強い×腰安定、と見るべきかも。TVの解説聞いて、ああそうだよね、と追記したのだが、より確度高い情報いただき。

あらためて、『ランニング・サイエンス』で説明される「腕振り」の基本作用とは、慣性力の制御。この基本に立ち戻って考えてみる:

ヴィンセントは187cm68kg(70kg説も)という筋量豊富な上体で。胸を反らせて昔の200−400mのマイケル・ジョンソンみたいに走る。これをどう活かしているか?について、「全身のパワー連動」というここまで書いてきた身体・生理的な面を離れて、「振り子」という物理で考えてみる

1.重力の活用
2.反射運動

と2点考えられる。

1.重力の活用について:
左右の腕は、それぞれが振り子運動をしていて、1サイクルに、腕を下から上に落下するタイニングが2回ある。それぞれが接地パワーを高める働きをする。その力をどの程度つかうか?という話になる。

100m走では、かなり使う。接地でのインパクトが強いほど反発力を引き出せるから。そのパワーを高めるために、腕を地面方向に叩きつけるような動きをする。この場合に上下動は推進力の元となる。なおウサイン・ボルトは195cmで94kg、体重がパワー。その走りに近いかも。

長距離でも5000mあたりでは結構使われている動きだ。2017年始めだったか初期NIKEヴェイパーフライが出た頃に、名市大の先生が「ヴェイパーフライはこの地面反力を使う走りがしやすくなる」と説明されたことがある。(当時Facabookに書いた)

※物理=慣性力と全身連動との関係について、
たとえば「キック後に後方に流れる脚」をもどすために、「反対側の腕の引きからの回転力」は使われる。いいかたをかえれば、腕を引くことで(キックではなく)戻しに対して、全身連動させている、とも考えられる。

2.反射運動
ただ、距離が長くなるほど、低速になるほど、地面反力は少なくなり、実際走った感覚としても感じない。それでも腕を大きく動かすと、遅いなりに腰は回って、ゲーム続行できる。これは地面反力だけでは説明できない。なぜか?

考えられるのは、上体からのネジリは、腰の重力センサーのような機能で把握されて、「このままでは脚が引っ張られて回りすぎてしまう」という本能が、逆回転の動きを、反射運動として引き出すのではないだろうか?

・・・

この考察を踏まえて、ヴィンセントは持久力が課題。抜くタイミングでは超強かったが、23km全体では前記録とそう変わらなかったわけで、42kmは通用しないかも。弾性に頼らない走りが課題かも。登りが遅く見えたのも、その走りは上りでは使えないから。

それでも、登りきった後など、要所で再び復活できる。

なおトライアスロンでは、スイムの筋肉をバイクで休めた後で再活用するので肩を大きく使いがちだが、ヴィンセントはパワー起点が体軸寄りでコンパクトだ。(以上2021年1月追記)

応用(レース、オフ明け)

レースなら、たとえばレース終盤で脚力がほぼ失われた状況でも、骨盤さえ回し続ければ、身体は進んでゆく。そう信じることができれば、つぶれるリスクを感じながら、前半からペースを上げて、タイムを稼ぐことができる。

2018年8月ブログ "「動作の言語化」が長距離レース終盤を救う"とも通じる話:

↑ 自分なりの高効率動作を、日常的に、言語表現しておく。そしてレース終盤のキツさの中で、「このように身体を動かし続ければ勝てる/今ある力でのベストを尽くすことができる」と確信をもって脳内リピートする。という話を書いてます。(今読み返すと読みにくい文章だけどいまさらココログを編集する気になれない…)

オフ明けなど、一度落ちた身体を戻すときにも、こうした意識が使える。「あれもこれでも」でなく、とにかく腰の回転をあるレベル以上に維持することだけを考える。(この結果数値は、ケイデンス=分間ピッチ数として確認できる)

このように、一番大事なポイントを決めておくことで、いろいろな情報に接した時に、自分なりの軸ともなり、応用しやすい。練習しきれていない状況に陥ったとしても対応しやすい。

僕はそれが腰だと考えていて、その理由をここで説明してみた。あなたにとってはそれは何ですか?

練習方法

こうした動きをゆっくり感じ、考えるために、緩斜面での登りランは効果ある。種目別では、
ラン: 登り
バイク:緩斜面の登りで大ギア低回転
スイム:最小ストロークチャレンジ(タイムほぼ無視)
だと思っていて、僕はオフ明けこのあたりを軸に身体を作ってきた。

上田選手も上記投稿で

標高1000m地点から2,000mまでの道のりを黙々と駆け上がる・・・理想の動きをイメージしながら足を前に進めていく感覚は 集中力と想像力、そして体力が磨かれていくようで、山に吸い込まれながら走る時間が私は大好きです😳

とコメントされる通りだ。

このアサマ2000あたりのエリアは、練習ルートとして優秀。軽井沢から浅間山を見上げての左奥、標高1000〜2000m。僕も過去何度か練習してきて、近くの草津白根山などと違って観光人気が低いので、クルマが少なく、練習に集中しやすい。

高地トレーニング施設(GMOアスリートパーク湯の丸)も去年できた。ここ1750mの標高をウリにしているけど、一説には高地特有のトレーニング効果にはかなりな長期間が必要、1日11時間×29日連続でも効果なしという報告もある。科学的にはいまだ未解明らしい。それでも、東京が37℃でも涼しいのは確実なメリットだ。

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僕も、ほとんどクルマの通らない斜度一定の標高差800mをTTポジションで淡々と登り続ける練習を、中1−2日くらいで3回も繰り返しながら、美味しいものを食べ(採れたての高原野菜を茹でて塩かけて食べると驚くほど美味い)、たっぷり寝ていると、3日サイクルくらいごと、レーシングマシンとしての身体がアップグレードされるのがわかる。

近くに絶景の渋峠〜草津白根山。クルマ多くて集中できない観光ルートだ。まあ、途中で1回くらい遊びにいくと楽しい。ツール・ド・フランスとかのアルプスステージのような光景を自転車で走れる、ほぼ唯一のルートではないだろうか。あまりにも素晴らしすぎてまともな写真を撮れたことがない。

なおトップ画像は腰がカナメになってない例です

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