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自分で考えるアスリートを育てる「振り返り」の手法

スポーツ指導の現場で、「勝て」「負けるな」等々、結果に対して圧をかけるシーンが見受けられる。でもそれは、
・短期: プレッシャーによりプレーが歪む
・中長期: 自分で考えるアスリートが育たない
とデメリットが大きい。

では、どうすればいいのか?

このNoteでは、「結果への圧」のかわりに、「能力の成長」に集中したコミュニケーション手法を説明する。それはスポーツから得られる学びを深め、結果として競技成績も高めて、長期的に「自分で考えるアスリート」を育てることになるだろう。(8/3更新)

「結果への恐怖」による指導

「絶対に負けられない戦い」とはサッカー日本代表TV中継のキャッチコピー。とっても勇ましくて憧れる。

でも彼らは世界で億を稼ぐ超エリート集団。最高レベルのプレッシャーの中で結果を提供するのが仕事だ。中継するTV局はファンを煽って視聴率を上げるのが仕事。その注目と圧との中で結果を出すから、人気が上がり、おカネも動く。みんながHAPPYになる仕組みがある。(結果が出る限り)

この姿はかっこいいから、未熟な選手たちに対しても、指導者は

「この一戦が大事だ! 絶対に落とすな!」
「大事なゲームなんだ、絶対にミスはするな!

など圧をかけがち。選手も親もあたりまえのように受け止める。

それらは、「権力を持つ立場からの、結果に向けられた、恐怖心を利用したプレッシャー」だ。全てにおいて完成されたトッププレイヤーならともかく、成長過程のジュニア選手にとってはむしろ結果を阻害するだろう。恐怖心を利用している点では、体罰の物理的パワーを社会的・言語的パワーに置き換えただけともいえる。社会的・言語的パワーには人を殺す威力すらあるものだ。

「能力の成長」への「アフターアクション・レビュー」

ここでの大原則は、

大きな「成果」を目指すほど、原因である「能力」に集中する

ということだ。「絶対に成果を出す」という発想はその真逆。(前回Note "「思考の妨害物」を外す" で書いた話)

試合で能力を活かしきるためには、練習段階から、そのようにリハーサルしておく必要がある。普段から「能力を試合で活かしきれるような練習」をしするのだ。これは "審判への無駄な文句も「練習の成果」" で書いた。

逆にいえば、「試合で能力を出しきれないようにする練習」をしてはいけない。たとえば僕はトライアスロンで「疲弊した状態でのレースのような高負荷練習」をしない、という基準を持っていた。それは失敗レースのリハーサルになってしまうからだ。

「試合で能力を活かしきれるようにする練習」とは、練習段階から結果よりも能力=プロセスに集中するということ。その手段の1つが、

アフターアクション・レビュー=プレー直後の振り返り

とくに、上手くいったプレーの直後に、なぜ成功したのか?を考えさせることが大事。たとえば、

「今のプレーよかった! 今どんな感じがする? どこに気をつけた? 身体のどこを使った?」

などの質問をする。成功した行動の直後とは、成功の記憶を強化し、定着させるために最適なタイミングだ。

芸能分野での活用例をみつけた。「世界最高の上司」と称されるという(誰が称してるのか主語は不明だが😁)NiziU/虹プロの韓国人プロデューサー・J.Y.Park氏48才。

「彼は練習生のパフォーマンスを見た後、必ず練習生に“自分はどう感じたか”を質問します。そして、練習生の言葉を否定することなく、真剣な表情で最後まで聞く。なかには、話すうちに抑えていた感情があふれ、涙する練習生もいました」(芸能関係者)

ここで「パフォーマンスの後」という点が重要。

芸能に限らず、いまの社会組織では、新卒男性正社員だけではなく、女性・中途採用・外部パートナーや派遣社員、と多様な人材がいて、それぞれの長所を探して伸ばすことが重要視されている。多様な人に対して「正解を上から与えるマネジメント」は無理。

かわりに、行動直後の振り返りを、行動した本人に対して行う、そんな見本だ。

成功経験を振り返る効果

動作についての記憶は、言語化できていなくても、身体感覚としては確実に存在する。時間とともに薄れてゆくので、できるだけ早く、振り返り、言葉にしてみるきっかけがあるといい。

その手段としての質問だから、質問の文言はシンプルでいいし、極端にいえばなんでもいい。

そんな成功時の身体感覚とは、モチベーション向上効果も最高レベル。上手くいった経験について尋ねられて、話すことは、誰もが嬉しいものだ。「承認」という心理学的効果による。

この発想は、「正解は選手本人の経験(=プレー)の中にある」というもの。「指導者は、選手に対して、正解を与えるべきである」という考え(前回書いた話)の逆だ。

・・・だから子供でもOK・・・

ということは、相手が子供でも有効ということ。「今よかった!どうだった?」「うれしー!」だけでも成功の記憶は強化・定着し、そしてスポーツがもっと好きになるだろう。

つまり、子供アスリートが、自然と気持ちよくプレーについて考えるようになるのが、After Action Review=プレー直後の振り返りだ。これを繰り返すことで、心身の成長につれて、思考も成長してゆくだろう。

僕のAfter Action Review経験

僕自身もトライアスロン始めて、レースのたびに濃厚レースレポートをブログに書いていた。トライアスロン大会に出場するとは、1レース数万円の掛け金の投入。いろんな点から「絶対に成功させたい戦い」だ。その必要能力を分解し(後に「要素分解トレーニング」としてブログで説明して、本も書いて、好評いただくことになった)、大会までの数週間で質を最重要視して実行し、狙い通り+おまけつきな成果が結果的に転がり込んできた日々があった、と自慢をぶっこんでおく。その過程をブログに書いてゆくことは、ここで書いたような自問自答の効果があった。それは1人トレーニングをする上での精神的エネルギーともなった。

(マガジン「一人トレーニング論」↑まだ3記事ですが今後更新予定)

失敗の原因追求は注意

逆に、失敗の原因の追求は、重要度は高いのだが、やり方に気をつけたほうがいい。「なんで失敗したの?」は単なる詰問=批判と受け止めらる可能性は高いし、質問する方も、つい詰問系の感情を込めてしまいがちだ。

さらに失敗への振り返りは、失敗プレーに対する記憶の強化・定着ともなりかねない。失敗を論理的に分析できたとして、身体感覚はその失敗を記憶しているわけだから、試合で再現しやすくなってしまう。それが「試合で能力を出しきれないようにする練習」だ。だから失敗分析は、結果と過程を切り離しての客観化が重要になる。(この詳細はたぶん後で書く)

・・・まとめ・・・

× 成功しろと事前に圧をかける
○ 成功した直後にだけ振り返る

成功の記憶を強化・定着させる最適なタイミングで、その年齢なりに考えさせ、言葉にさせることで、思考力・表現力が高まってゆく。

それは同時に、「勝利しかイメージできない、勝つのが当然」という強いマインドセットのアスリートを育てるだろう。自ずと、「成功のために能力を出し切る練習」を日々重ねることになり、冒頭のような「負けられない戦い」的な結果へのプレッシャーではなくて、「そのために必要なプレー」に集中できるようになるだろう。

セミナーのお知らせ:

このような「スポーツ指導者とアスリートのコミュニケーション」について、不定期で、3時間セミナーを主に東京代々木にて開催しています。3000円。JSPO公認スポーツ指導者「更新研修」対象です。
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【対象者】

・スポーツ指導者、スポーツ関係者、教育関係者、スポーツをしているお子さんをお持ちの保護者など
・公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)公認スポーツ指導者で、更新研修が必要な方

【概要】
・スポーツ指導者は、選手・チームに対して、どのように関わればいいのか?
・自ら考える選手に育てる「質問の仕方」
・選手のモチベーションをアップさせる「声の掛け方」
・選手の潜在的能力を引き上げる為の「具体的なコミュニケーション」
など

講師: 八田益之(一般社団法人日本スポーツコーチング協会東京支部)
料金: 3,000円
会場: 国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟 会議室(東京都渋谷区代々木神園町3-1)
定員: 10名程度(会場定員の1/3)

(セミナーはマスク着用ですが、長時間のマスクには、唇にマスクが当たらず、息苦しくなくて、不快感解消でき、軽くて使用感もないブラケットが便利、当日も使用予定)

サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます