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"無い袖は振れぬ"をニューヨークで思う

アメリカの"全国複数所帯物件協議会 (The National Multifamily Housing Council)" の調査によると新型コロナウィルスの影響で職を失い、4月分の家賃(アメリカでは月払い家賃の支払期限は月頭の物件が多い)を払えなかった人が全体の31%に上ったという。日本の古いことわざがふと浮かぶ。         "無い袖は振れぬ"。

ニューヨーカーのおよそ7割が賃貸住まいだ。日本のワンルームにあたるStudioの部屋でも人気のエリアはレント(家賃)が$3,000ドル近くというのは珍しくない。物価も高い。真面目に働いていても貯金する余裕はなくLiving Paycheck to Paycheck、毎月の給料でなんとかやりくりしている人がたくさんいる。クオモ州知事は非常事態宣言が出たあとすぐ、住宅ローンは支払いを3ヶ月(90日間)しなくていいこと、レントの場合は払えなくても3ヶ月間はランドロード(家主)から立ち退きを迫られることはない、という措置をとった。しかしレントの未払い分は借金として膨らんでいく。

ブルックリン地区で200人以上のニューヨーカーに部屋を貸しているランドロードがレントの支払い期限が迫る3月30日、彼が持つ建物すべての入り口に張り紙をした。「私たちみんながCOVID-19の影響を受けています」。私はニュースでその彼を知ったのだがその張り紙の続きにぐっときた。「4月の家賃は払わなくていいことにしました」「気をつけて、近所同士で助け合い、そして手を洗おう!!」彼がこの決断をした理由は何人かの住人が相談してきた、払いたくても払えないという、正直で切実な声だったという。私はどんなシチュエーションでも、切実な声を聞き入れるフトコロの深さがあるニューヨークが好きだ。こうしてレントを取らなかったり、払える分だけでオッケー!という大家さんが実は他にもいたことを知った。この善意によって言葉にできないほどの安堵感を得た人がどれほどいることか。

ただ貸しているランドロードもレントを払えない人が増えるのは死活問題だ。彼らだって毎月さまざまな支払いがある。レントを払えない人が増えるとビル自体の管理ができなくなる。メンテナンスができなくなったりすると建物が少しづつ荒んでいく。そうなると地域が荒んでいく。みんなが "ない袖は振れぬ" 状態になるのは、もしくはそれに便乗して支払わない人が出てくるのは、とんでもない悪循環につながりかねない。小さな積み重ねが何かを崩してしまうことがある。だけど何かを維持するのにも必要だ。

動きがとれない今、何ができるか自分。とりあえず着物の袖だけじゃなくポケットの隅々までゴソゴソと探ってレントを払う。もし振る袖がなくてもこの非常事態を収束するためにすることはある。Stay home, stay safe and help each other. 

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