Jun Yamamoto 音楽を語る Ⅲ

その8   September Song 

その9   Miles Davis/Freddie Freeloader 

その10Joey Calderazzo in "Delta City Blues" 

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その8 September Song
 

A September Song っていいよねぇ。

B Maxwell Anderson 作詞、Kurt Weill 作曲だね。「ニッカボッカ・ホリデー」というミュージカルの曲で、後に映画「旅愁」の主題歌として使われた、とあるね。

A もともとアメリカンポップスには疎いんだけど、Woody Allenの映画"Radio Days"で使われていたのがとてもよくてね。あれは誰の演奏なのかな。なにしろほとんどあの映画のイメージ全体がSeptemeber Song になっちゃてます。どこかけだるくて哀愁にみちた気分ね。

B 「5月から12月は長いけれど、9月を過ぎると日は短くなり、あなたと過ごす貴重な日々が残り少なくなっていく」といった意味の歌詞ですね。ミュージカルを聞けばシチュエーションがわかるんだろうけど、歌詞だけでも曲の気分はよくわかるね。中年にはしみる歌詞ですよ。

A この曲はなんといっても冒頭、つかみの部分が特徴的で、旋律そのものは下の I ではじまるんだけど、コードのつけ方がいろいろあるみたいですね。ドミシ、ラーのところでF7っていうのでまずつかみはばっちり。その後 ドbミbラと並行短調を聞かせて、ソーで元にもどるわけね。ここでなんともいえない哀愁が漂うわけ。

B ものの本には II のようなコード進行が書いてあって、アドリブ用にはこれでいいかもしれないけれど、旋律の本質としてはちょっと違うように思いますね。あまりしっくりこない。サラ・ヴォーンさんのバッキングは III のような感じだったかな。bミbラをテンションとして扱っちゃうわけね。これもしゃれてる。

A オリジナルの譜面をみてないのでわからないけれど、クルト・ヴァイルの書法からしたら IV でも驚かないし、むしろこれが一番旋律の本質に沿っているんじゃないかな。

B そういう、いろいろ解釈できるあたりも名曲の名曲たる所以かな。


その9   Miles Davis/Freddie Freeloader

A Miles Davis/Kind of Blue から Freddie Freeloader のトランペット・ソロを採譜してみました。曲自体はBbのブルースで、ウィントン・ケリーの明るく楽しいソロのあとにおもむろにMiles登場。例によってリズムはテキトーなのでご勘弁を。

B 速いパッセージも複雑な音使いもないけど、ただのブルースにとどまらないしゃれたソロですね。

A わかりやすいようにブルーノートには+印をつけてあります。b5th (ここではFb=E)も一応便宜上+をつけてありますが、Milesの扱いはブルーノートというよりもっと特別な音という感じですね。

B b5thもそうだけど、#5th (ここではGb=F#)が中心的な音として扱われているね。出てくる頻度は低いけれど、ここぞというところで使ってある。

A これもb13thというとらえ方もあるかもしれないけれどむしろ特別な音として扱われているので○印をつけてみました。

B ソロ全体を通して聞いてみるとたしかにこの二つの音を中心に展開しているような感じがするね。

A まずBbのストレートなフレーズからはいって、最初の聞かせどころは12小節目だろうね。○をつけたGbを導入することで響きがすごく豊かになってる。

B これはやっぱりGb major 7 #5 のコードに聞こえるよね。上三音は単なるBbメジャーなのにGbを加えることで世界がすごく広がる。

A 17小節目のブルーノートから引っ掛けてあがってくるのもなかなかいい味です。それで2コーラス目の終わり(24小節目)のb5th #5th のあわせ技!小節頭のGbで十分不安定になってるのにたたみかけるようにEをだして、それでフレーズを終わらせちゃう。

B Gb、Bb、Eの三音が全音音階を感じさせるね。(E, Gb, (Ab), Bb, C, D)

A この後、各コーラスずっとGbを響かせて終わっている。やっぱりこの音がこのソロのテーマ音なんだね。

B 36小節、48小節、一つおいて72小節だね。

A 59小節のスケールアウトが面白い。Cb, Db, Eb, F, G という全音音階。スケールがちょっと下方向に広がっちゃいましたという感じ。

B 66小節の高いDbで頂点をつくって最後はGb,E,という特徴音のたたみかけで終わる。実に見事だね。

その10Joey Calderazzo in "Delta City Blues"

A 今回はブルースにおけるピアノソロの研究です。

B ウィントン・ケリーあたりですか。

A いや、フェイントでJoey Calderazzoさんをとりあげてみたい。マイケル・ブレッカーさんのアルバム"Two Blocks from the Edge" から"Delta City Blues"のピアノソロです。

B 実力派といわれてますな。

A モダンなスタイルのアドリブの勉強にいいんじゃないかと思ってね。3コーラスあるんだけど、とりあえず最初のワンコーラスいってみます。

 

B ワンコーラスだけでも結構盛りだくさんだな。

A いろいろな考え方があると思うけれど、ここではテンションをかたまりで使っているところに注目してみた。赤で示したのが3和音ないし4和音になっているところ。

B 8小節目のBb7上のGb、9小節目のEb7上のF、23小節目のBb7上のD、代表的な使い方が全部でているね。

A それに加えて、オレンジ色で示したところは4度堆積の和音を使っているところ。5小節目のBb7上でのAb、Db、Gbなんかいい響きだね。

B Bbを繰り返してルートを確保したところでポンとはいってきてつかみはばっちりという感じ。

A 青のところは半音階を使ってるところね。引き続きまして2コーラス目ね。

 

A 2コーラス目はリズムが楽しいね。30小節目からの3拍フレーズ四連発。

B あやうくわからなくなるところだな。35小節目の4分音符の4度進行もこういうところでちょこっとでてくるのがいい味ですね。

 A41小節目からもリズムの遊びで軽くいなしておいて、怒涛の3コーラス目へ。

 

 A49小節目から50小節目にかけて高いところからBb上のA、Dbとたたみかける。52小節目はよくやる音形ですね。それも帰りがけの方をちょっと変えるあたり芸が細かい。そして55小節目からD、E、Gb、Fと三和音を3拍フレーズで盛り上がる。

B  最後の61小節目から三和音の繰り返しで下がってきて、65小節目から音数を減らして緊張感を高めるという。

 A 技ですね。見事なエンディングです。ぜひオリジナルも聞いてくださいね。


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