Toshio Nakagawa "Passacaglia per ut re ut fa mi"

中川俊郎先生60歳のバースデー・コンサートにて初演された中川先生ご自身の新作「ut re ut fa mi によるパッサカリア」ですが、当日のプログラム表紙に冒頭部分の楽譜があり「これは不採用分です」ということではありましたが、曲を聴く限り冒頭部分はほぼこの楽譜によるものと思われるので、勉強させていただきました。(ダイナミクスがついていますが省略しています)音はこちら

もともと数字付バスが書かれているのだが、慣れないので例によってアメリカ式でコードネームを付し、「こう解釈することもできるかな~」程度で調性を当てはめてみました。

本来へ長調であるべき"Happy Birthday"の旋律、ドレドファミーを無理やりハ短調と解釈したところが先生の面目躍如ですね。

のっけからDが出てきますが、この響きは聞きなれた短調におけるドッペルドミナントで、教会風です。

1小節目3拍目にしてIIb、すなわちナポリの六度登場。本来であれば、このDbは次にG7が来てCmに解決するところですが、もともと無理なのでバスはEナチュラルに行ってしまい、お約束どおりにはいかない。とりあえず減七にいきます。ここでAbを引っ張って掛留としてありますね。

次にAb on C に行くのですが、その前のEの上の和音は一応ドミナントのEb7(b9)の根音抜きということかなぁ。

Ab から Cの音を保持してAmにいく。3小節目のバスのD-Cは、A minorのIV度III度と解釈されたわけですね。で、4小節目の頭はバスがF、その前ののGはC7の5度音となって、F7へ。

かなりアクロバティックになってきましたが、次は5小節目の頭のバスのCをD7の7度音と解釈して、その前にIIb (ナポリの六度)アタック。

5小節目の2拍目3拍目の扱いは理論を超えて、しかし禁則は冒さないという絶妙のタッチですね。最後にソプラノが「あえてF」でバスとオクターブ。次に増二度あがるんですよね。

これは実際に聞いてみると、バスがきちんと「ハッピーバースデイ」になっているのに対し、和声がジェズアルドもかくやという進行になっていて、相当シュールです。さすがです。60歳のお誕生日おめでとうございます。

 

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