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江戸川区にJリーグクラブが生まれようとしている……?【東京23FC記者会見】


 江戸川区が誇るグリーンパレスで東京23FCの記者会見が行われた。ぼくは、関係者に取材をしないスタイルでやってきたので、記者会見には行ったことがなかった。はじめての記者会見、である。

 グリーンパレスというのは、区役所の近くにあり、区民がときおり使う施設のこと。西葛西からはやや距離があり、新小岩駅のほうが近いような位置だが、子供の頃から聞き親しんできた名前である。

 グリーンパレス、グリーンパレス。この名前を聞いた時に妙にしっくりと来るのを感じた。「埼玉県のサッカー本」を作った際に、ソニックシティは大宮の人にとって「しっくり来る」場所だと教えてもらったのだが、それに近い気持ちなのだろう。

 さて、はじめての記者会見。会見場がグリーンパレス最上階のいいお部屋だったので、雰囲気がある。

 一番右に座っているのはなんと斎藤猛江戸川区長!!東京23FC関係者が座っているのは想定内だが、区長が参加しているのは驚きである。いや、もちろん事前のリリースで把握していたのだが、この「江戸川区長がいること」は非常に大きな意味をもつ。

 われわれの町会が参加する、町会対抗の運動会には流石に区長は参加しない(した年もあるかもしれないが)。記憶にある中だと、母校の小学校の110周年記念式典に当時の区長が参加していたくらいである。区長がこの場にいるということは、東京23FCが江戸川区と共に歩むということを、表している。同時に、この場まで区長に来てもらえるほど行政との信頼関係を作ってきているという証拠でもある。

 見える。ぼくには見える。全国各地の地域からJリーグのクラブが生まれてくるところを見てきたし、いろいろなクラブのサポーターから話を聞いてきた経験から見えてくるものがある。

 江戸川区からJリーグのクラブが生まれる。

 もちろん100%とはいえない。しかし、かなり良い線まで来ているのはわかる。もちろん、Jリーグクラブの席は限られているし、東京23FCが足踏みしている間に、次々に席は埋まっていっている。クラブ関係者にも焦りはあったのだろうと思う。

 だからこその起死回生の策が、江戸川区への地域密着なのだろう。そこにぼくは釣られたのだ。


実はとっても強い東京23FC


 これまでの話をしよう。ぼくが東京23FCの存在を知ったのは2014年くらいであったはずだ。ちょうどぼくが国内サッカーとサポーターに興味をもちはじめた頃であった。江戸川陸上競技場でやっていると聞いて何度か訪れたこともあった。子供と一緒に行ったこともある。東京ユナイテッドとの「知られざる東京ダービー」は見に行ったし、現鹿島アントラーズ監督の岩政選手が審判に怒っているところもしっかり見れてほっこりした。

 東京23FCは関東1部リーグのクラブであり、世間的にはどこの弱小チームだよと思われてしまうのかもしれないが、地域サッカーを愛するわれわれの界隈からすると、圧倒的な強豪である。

 関東1部リーグは非常にレベルが高い。4つ以上カテゴリーが下がった東京都3部や4部なら、ぼくのようなアマチュアプレイヤーでも参加できないことはない。もちろん活躍はできないだろうが、出場するくらいはできるかもしれない。しかし、関東リーグの試合は、出場したら怪我をする可能性が高い。当たりの強さも、速さも、技術も非常に高いレベルにあるリーグなのである。実際に、多数の元Jリーガーを要する南葛SCであっても、関東2部リーグから昇格するのに非常に苦労していた。

 ただ、そこから全国リーグであるJFLに昇格するのは非常に難しい。関東リーグで上位に入った上で、地域決勝という過酷なリーグ戦で2位以内に入る必要がある。ぼくの知る限りだと東京23FCは2回出場していて、いずれも1次トーナメントで敗れている。

 ちなみに最後に出場した2016年は、鈴鹿アンリミテッドに敗れているのだが、このクラブは現在は名前を変え、鈴鹿ポイントゲッターズに敗れている。三浦知良選手が移籍したことで有名なあのクラブである。

 その鈴鹿アンリミテッドも決勝ラウンドで敗れ、FC今治とヴィアティン三重がJFLへと昇格した。そしてFC今治はJリーグへと昇格し今に至る(昇格した日、今治で試合を見ていたので懐かしい)。

 本筋からは逸れるがヴィアティン三重は、われらの姉御かずみさんが大旗を振っているチーム。彼女はこの時の地決には行ったのだろうか。

 ともあれ、東京23FCはJリーグの前段である全国リーグ、JFLまではあと一歩のところまで迫っていたのである。アマチュア選手ばかりのチームが、元日本代表の駒野選手までプレーするFC今治のすぐそばまで迫っていたのである。試合を見ていてもサッカーは常に面白かった。大学生チーム相手にも走り負けないし、元Jリーガーにも当たり負けず、オフェンスにも工夫があった。

 ただ、近年はなかなか勝てなくなってきている。その理由が、どのへんになるのかは、たまに試合を覗く程度のぼくにはわからないのだが、まぁまぁ色々とあるのだろう。

 その色々とある問題点の解決策が「江戸川区」への密着なのかなと。


早すぎた東京23FCと西葛西民の微妙な距離感


 東京23FCがいつ頃からJリーグを目指していたのかは知らないのだが、おそらくかなり早い段階から東京都23区のクラブになるという野心を持っていたはずだ。FC東京と東京ヴェルディは、23区の西側を本拠地としている。町田は独立公国である。なので、23区が空いているというのは、確かにその通りであった。

 ただ、そのあと23区全体というより、それぞれの区をアイデンティティとしたクラブが次々と生まれてくるのは予想外だったと会見では説明されていた。そう、そこが重大な問題なのである。

 東京23FCがあるのは知っていた。近くでやっているのも知っていたし、強いのも知っているし、東京の新興クラブの中ではトップランナーなのも知っていた。試合も見に行ったことがある。ポスターも見たことがある。だけど、ホームページをみていると、書いてあるのは東京都民のチームであるというコンセプトであった。

 東京都のクラブと言われてしまうと、今応援しているFC東京でいいというのがサッカーファンの目線だし、サッカーに関係がない地元の人にとっても関係ないチームという印象になってしまう。

 実はこの件、ヒアリングしたことがある。町会の人とか、整骨院の先生とか地元を愛する人に聞いてみたところ、やっぱりピンと来ていないようであった。江戸川陸上競技場でやっているから行ってみようと誘ったことはあるし、行ったことがある人もいたのだが、夢中になる様子はなかった。

 もちろん、「勝手に実況隊」をはじめ、熱心に応援しているサポーターがいるのは知っていた。しかし、アルビレックス新潟や松本山雅のように大きな流れが生まれることはなかったように思う。

 しかし、少しずつ風向きが変わってきたのを感じた。

 東京23FCのポスターがどこに貼られているのかを8年間注意深く見てきた。最初のうちは西葛西駅のメトロ、かつやのところと、大黒鮨のところだけしかなかった。マンパワーが足りていないのもあるだろうし、そこを補うサポーターによるボランティア活動もあまり進んでいなかったのだろう。いろんなところで聞いてみると、ポスターというのはサポーター=地元民がお願いして貼ってもらうもののようだ。

 そのポスターが少しずつ増えているのを感じた。いつも行く整骨院にも貼られていたし、居酒屋で見かけたこともあった。

 そして、ぼくの中で決定的に心情が変化した出来事があった。朝方、モスバーガーのモーニングを注文して窓際の席でパソコンを広げていると、目の前を東京23FCのジャージを着た一団が通り過ぎたのだ。朝のゴミ拾い活動である。

 「東京23FCって、西葛西のために活動してくれているんだ!」 

 正直言ってそれまで感じたことがなかった。これはぼくの邪推かもしれないが、地元の西葛西に密着しすぎると「出て行くとき」にこじれそうだから距離を取っているのかなという気もしていたのだ。「出て行くとき」というのは、東京の中心部に良いスタジアムができたとき、すでにJリーグまで昇格していたらそちらに移転するというようなストーリーである。

 そこまで考えていなくて、単純にマンパワーと予算が足りていなかったというのが真実のようにも思うが、23区がホームで、東京都民のチームというと、自分たち江戸川区民は23分の1しか愛されていないというイメージになってしまうのだ。そういう気持ちはぜんぜんなくて、とても一生懸命やってくれていたと思うのだが、コンセプトから伝わってきていたのだ。

 

西葛西出版の起業と酔った勢いのメール


 2021年9月に株式会社西葛西出版を創業した。名前の由来は、Jリーグ百年構想の理念を援用して、地元の葛西・西葛西に密着し、地域の人を幸福にしていくこと。

 地域名を冠したサッカークラブと同様に、地域名を冠した出版社を作ったのだ。HPが未完成で見栄えが悪いのだが、そこに西葛西出版の趣旨を記した。

 ある日、社内ミーティングのあと。ハイボールを飲みながら仲間と話していた。

「やっぱり西葛西出版だし、スポーツの本作っていくから西葛西のスポーツのことも何かやりたいね」

「東京23があるんじゃないの?」

 そう言われて気づいた。やっぱりサッカーは地元で見るものだ。味の素スタジアムもいいのだが、調布にも飛田給にも縁もゆかりもないので地縁的な喜びは小さい。J1のサッカークラブとして今後も追っていきたいが、地元のクラブはまた別腹なのである。

「よし!今から東京23FCにメールする!取材してもいいし、本作ってもいいし、何かやる!都民のクラブというコンセプトはまだあると思うけど、江戸川区、葛西・西葛西に引き寄せてしまえばいいんだ!!」

 というわけで、酔っ払いの突撃メール。本職ライターなので、酔っていても文章は整えられる。勢いで送ったメールが翌日返ってきて、東京23FCの石井温さん(twitter)からご返信をいただいた。

 石井さんはとても知的で、良い雰囲気の方で、今度是非話しましょう!ということになった。

 ぼくの中にちょっとした夢が生まれた。東京23のユニフォームに「西葛西出版」の文字をいれるという……(東京23関係者のみなさん事業の成功を祈ってください)。今にも潰れそうな1期目の会社なのですぐにスポンサードはできないが、事業がうまくいけば不可能ではない。そうなれば、収益をサッカー界に還元することもできる。同時に、地元に還元するということにもなる。地元にサッカークラブがあると、色々な思惑が、繋がり始める。

 地元のサッカークラブはありがたがって観戦するものではなく「地域のために使うもの」というのが、ぼくが全国を渡り歩いて知ったことだ。うまく使えるサポーターがいる土地ではサッカーが流行っているし、そうでもないところは苦戦している。

  今までやってきたことが、地元で活かせることが本当に嬉しく感じる。ああ、地元っていいよな。今までいろんな人の地元を渡り歩いてきた。そのとき会ったみんなはこんな気持ちだったのだろう。地元のことが発信できるうれしさ、地元が注目されるうれしさ、そのためのツールとしてサッカークラブがある頼もしさ。

 サッカーの試合の勝敗なんて実はどうでもいいことだ。もちろん多少は関係あるのだが、それ以上に地域に密着してくれることが大切だ。

記者会見で質問してみた



 記者会見に不慣れだったので写真セッションのポジションがとれず、こんな写真になってしまった。

何にも見えない。


 記者会見は、百年構想の申請が通ったことを伝えていて、内容は「月並み」であった。というのも、同じような内容の会見をいろんなところで見たことがあったからだ。

 しかし、これ以上に面白い記者会見は見たことがない。話すことすべてが自分に関係があるのだ。すべてが地元の話なのだ。東京都民のクラブというアイデンティティは捨てていないと思うのだが、隣には江戸川区長がいて、江戸川区のための存在としての東京23FCが紡がれている。こんなに嬉しいことはない。

 実は1ヶ月くらい前からTwitterのプロフィールに「FC東京&東京23」と応援チームを入れていた。これまで、地元民として、FC東京サポーターとして、ネガティブな発言をしてしまったこともあるのだが、そのへんのログも先回りして消しておいた(FC東京は東京全域のクラブなので実は競合なのだ)。

 でも、この日を機に、東京23FCはマイクラブになった。古参のサポーターからしたら「あいつ手のひら返しやがって」と思われるかもしれないが、そういうのを気にするほど柔な神経をしていては、サポーター界隈で物書きをすることはできない。

 記者会見では、すごく真面目な記者さんがいる中、一人だけいつものノリで質問した。あんまりにも楽しかったので真っ先に手を上げたのだ!!

 47分50秒頃から。

 中村の質問の意図は、まず「質問者が区民でサッカーサポーターの専門家である」とした上で「スタジアム作るのすごく大事だから、区長さんしってくれー!」という行政への念押しである。こういう声が区民から出ることが大事であることはよく知っている。スタジアムは待っていてもできない。自分で作るのだ。

 西村代表の回答は以下のようなものだった。

「スタジアムをみんなで作っていく。そのために地域への貢献度をあげていく。スタジアムを作ろうというムーブメントを盛り上げていく。是非一緒にやりましょう!」

そう言われてぼくは短く答えた。

「がんばります!!」

 がんばるっていったらがんばるのだ。西葛西に専用スタジアムを作るのだ。いや、西葛西じゃなくてもいい。江戸川区ならいい。篠崎らへんのほうが現実的な気もする。ちょっと遠いけど、小学生の時にスポーツランドまで自転車でいってアイススケートをしていたくらいだから距離的には問題はない。

 よし、今年は東京23の試合をみにいって、何か書こう!!ムーブメントは自分で作るのだ。

 この記事は、旅とサッカーを紡ぐウェブ雑誌OWL magazineの集大成のような記事となっている。OWL magazineでは、東京23の選手で誰がお勧めと聞くと「11番の飯島選手は去年武蔵野にいました。チーム最多得点でしたね。もともと東京23FCにいた選手で、リーグ得点王を取ったこともあります。」(キャプテンさかまき)と即答されるような楽しいメンバーが揃っている。

  埼玉県へのサッカー旅を描いた『サッカー旅を食べ尽くせ!すたすたぐるぐる埼玉編』では、関東リーグのアヴェントゥーラ川口や、川越市リーグのCOEDO KAWAGOE F.Cも登場する。まだの方は是非お読みください!

 サッカー本大賞2022優秀作品に選出されています!!


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