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アニメ史は「明日ちゃん前」と「明日ちゃん後」に別けられるかもしれない。「明日ちゃんのセーラー服」について

こんにちは、今回は「明日ちゃんのセーラー服」の感想考察を書いてみようと思います。
長くなりそうなので時間のある時にゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
(4000字近くになります、ほんとすみません、、)

1.このアニメのジャンルと楽しみ方

まず第一に、このアニメのジャンルってなんのでしょうか?
日常系?癒し系?
そしてこのアニメでは何処を楽しめばいいのでしょうか?
キャラクターの可愛さ?関係の尊さ?はたまた作画?フェチィシズムな描写?

1話の足の描写シーン
作画が凄すぎると話題になった1話の髪を結ぶシーン

筆者も始めの頃は「フェチィシズムな描写が凄く変態的な作画を楽しむアニメ」だと思っていました。
でも5話6話辺りから何か違和感を感じ、7話で確信をつきました。
「これは普通のアニメじゃない。何か違う力を持った不思議なアニメーションだ」と。
ではそれは何なのか、ズバリ筆者の意見を言うと

①五感を使って「感じるアニメ」
②演出を読み解いていく「文学的アニメ」

この二つが出てきました。
1週目、初見では何も小難しい事は考えず映像、音楽を始め全神経で感じる。
まず言わずもがなですがこの作品は本当に美しいです。キャラクター造形から背景、動き、物語まで本当に一貫して「美」なんですね。
まるで田舎の清水を汲み取ったような、まるで美術館で強烈に目に入る名画のような。
目で見て耳で音を聞いて脳で理解するのではなく、その世界に自分が入り込む様な連れられる様な、そんな「感じ方」をします。

12話は完全に「感じる」でしたね。無理に言語化出来ない。

2週目以降、これってどの様な意図で描かれていたんだろうと考察しながら見る。
国語の授業、あるいはテストで「作者の意見は何だったと思うか」という質問に答えている様な感覚です。
それは見る人解く人によって違います。「もしかしたらこういう解釈が出来るかもしれない」「ここ、こういう演出を取り入れているのかもしれない」と演出やシャレード(間接表現)を読み解いていくのが面白い作品です。
でもこれは国語のそれとは違い映像です。
画作りや動き、構成に小道具まで様々なものが「演出」として現れます。
もしかしたら作り手の想像の範囲外の妄想になるかもしれない。でもそれはそれで面白いですよね笑
考察すると、何故か一緒に作っている感じがするのがいいのかもしれませんね。

7話の演出の一部、独特すぎる演出が話題に。
12話登校している小路。この後平さんに声をかけられる↓
イマジナリーラインを完全に越えている。
1話と同じレイアウトなのを印象付けている。

2.シナリオにおけるシャレードと説明セリフについて

例えば「試合に負けて悔しい」を描きたい場合、
「先輩たちの引退がかかっている大事な試合に負けた。2-3だった。あの時俺が決めていれば…!」と感情や情景など全てを語らせるのではなく、
雨が降っている、俯いているチームメイト、2-3の得点板、地面に手をつけている主人公などを描写するだけで見ている人達には「負けた」ということが伝わるんですよね。
シナリオにおいて説明セリフはあまり良しとされてない事が多いです。シャレードを使って見ている人に想像させる方が作品に引きこめて面白いですからね笑

「なんとなく持ってきた父親のお古のギター」と説明台詞
テンポや分かりやすさ等の為に説明セリフを使う事も
説明セリフが完全な悪という訳ではなく、使い所ですね

余談ですが…他にも歌舞伎において幕あきに「聞いたか」「聞いたぞ」と言い合いながら坊主姿で登場して、その狂言の筋などを知らせる「聞いたか坊主」というものがあるのですが、そこから取った「聞いたか坊主セリフ」というのもあり、第二者第三者から情報を聞き取るのも説明セリフの次に表現としてあまり良くないとされていたりしてます。

明日ちゃんのセーラー服に話を戻します。
この作品はそう言った説明セリフ、聞いたか坊主セリフが極端に少ないです。
その代わり視聴者に想像させる描写が極端に多いんです。
例えば7話のこの部分
木崎さんの部屋、ほこりが溜まっているピアノの椅子からは長らく弾いていない事が想像できます。

7話にてピアノのほこりを払う江利花。

普段は1番に学校に来て、明日ちゃんと話している木崎さんが蛇森さんがギター持ってきた朝にはいないっていうのも、もしかしたら部屋か音楽室でピアノの練習をしているのかもしれないと、想像する事もできます。

「描かない」というだけでここまで想像できてしまう。

3.比喩、メタファーについて

それとこの作品の演出法において重要な「比喩、メタファー」についても記述させていただきます。
この作品はキャラクターの心境やシナリオ自体も小道具や台詞などで比喩しています。
様々な方が言っている7話の一幕から(7話大好き人間なのでもう少し7話で語るのを我慢してください)
この話はギターの蛇森さん、バスケの戸鹿野さん、演劇の明日ちゃんが互いに頑張っている姿を見て、もう少し頑張ろうと自身の課題を解決していく群像劇なのですが、この物語を「ダイヤモンドゲーム」で比喩しているんですね。

2人で遊んでいるのにダイヤモンドゲームなのは違和感。
7話は明日ちゃんを含め、3人の群像劇だった。

そしてその話を象徴する様な小道具が出てくる事が多いです。
これらについてはYouTubeにて「あかペンch」さんという方がとても分かりやすく説明されています。
こんな文よりこっちを見た方が100倍分かりやすいので是非。↓

4.アニメ史に残るとは

タイトルで堂々とアニメ史には「明日ちゃん前」と「明日ちゃん後」に別れると書いてあるのにここまでその話を全くしてないじゃないかと言われそうですが、ここまでの説明が必要だったんですね。。

この作品のすごいところである「感じるアニメ」と「文学的アニメ」実は全く新しいというわけではないんですよね。
それどころか昔からずっとあるかもしれないですが、、、

そう、スタジオジブリがずっとその様な表現をしているんですよね。
花緒ちゃんの蕗の傘を見てジブリみを感じた視聴者も多いと思います。

トトロに出てきてもおかしくないような描写。
家に駆け込むアニメーションでもジブリみを感じれる。

では何がアニメ史に残る所以なのか
似たような描写ならあの天下のジブリがやっているのに何が歴史的だとなるんですが、
この作品の凄さはキャラクターの日常を描いている作品なのにも関わらず「感じるアニメ」「文学的アニメ」として描写している事なんですよね。

日常アニメの良さって美少女が過ごしている日常が面白くまた可愛く切り取って描写している事だと筆者は解釈しています。
そしてシナリオで魅せ、キャラクターがいかに魅力的に見えるか、関係性がいかに尊く見えるかというところがとても大きいと思います。
これはアイドルと似た構造になっています。
その子をいかに魅力的に見せるか、それは衣装も映像も音楽も演出にすぎない、と筆者は考えています。(アイドルや日常アニメなどの作品を貶めている訳ではないです。またアイドルについてのnoteを記述します。。)

明日ちゃんのセーラー服では、記号化された美少女ではなくコンプレックスを抱えた子も出てきます。
そして「キャラクターを美しく見せる」のではなく「日常を美しく描く」を徹底的にしているのが今まで見たことのないアニメーションだなと考えます。
その為にキャラクターや脚本すらも「日常を美しく描く」為の演出だったのではないかとすら思います。
特にここのシーン、流れている音楽も相まって美しすぎました、、

走って帰る蛇森さん。早く練習したかったんでしょうね。
ギターの思い出をより深く感じれる小道具としての「絆創膏」
構図、背景、シーン、もう何も言うことはない、、

5.結論

結局この作品の特異性は「日常を美しく描く」という所に着地するのですが、それにはここまで説明した上での今までのアニメとは全く違うような描き方をしているという事が伝わったら幸いです。

日常アニメの火付け役になったのは「けいおん!」や「らき☆すた」ですが、実はその前に「あずまんが大王」というアニメがあります。
あずまんが大王は当時の一部のコア層向けに作られた作品ですが、けいおんやらきすたは一般向けに作られている作品です。
なのであずまんが大王は日常アニメの先駆者的な作品ではあるものの火付け役とまではいかなかったんですね。。

あずまんが大王 2002年放送

「明日ちゃんのセーラー服」も日常アニメでいう「あずまんが大王」的な立ち位置にあるとしたら、この後「けいおん!」や「らき☆すた」的な火付け役の作品が現れ、新たな「美術アニメ」としてのジャンルが確立するかもしれないですね。。

6.さいごに

今回、実質的に初めてnoteを使って考察、感想をしてみました。どうだったでしょうか。
そもそも長すぎて最後まで目を通して下さった方がどれだけいるか…っていうのはありますが、、
またTwitterなどでは語りきれないものを語りたい!ってなった時にnoteを投稿してみますね。

今季のClover Works、着せ恋が王道で来たとしたら、明日ちゃんは常に挑戦し続ける作品でしたね。
演出家さんや絵コンテ書かれている方毎話違うんですよ、、?中には長井龍雪さんや三浦貴博さんの様な巨匠まで起用して、、挑戦的過ぎません??

このアニメを制作されたClover Worksのスタッフの方々、原作者の博さん、監督の黒木美幸さん、脚本の山崎莉乃さん、プロデューサーの福島祐一さんはじめ、この作品に関わった全てのクリエイターさんに感謝と敬意を表します。
本当にありがとうございました。

様々な面において新しすぎる。
また挑戦し続けるアニメを見たい。

そして最後まで目を通して頂きありがとうございます。また何か発見があったらnote書きますね。

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