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夜桜能2023に行ってみた

みなさんは夜桜能をご存じでしょうか?私は2週間前まで聞いたことすらなかったので頼まれてもないのに解説しますと、毎年靖国神社のライトアップされた桜の下で薪能を鑑賞するというイベントです。

靖国神社、ライトアップ、桜、能。この時点で風流ポイントすごくない?どう?だんだんこのnoteも高貴な文章に見えてきたんじゃない?

行くまでの経緯

夜桜能の存在どころか、能を見に行ったことすらない私がなぜ行こうと思ったのか。それはひとえに、

野村萬斎への熱量が高まっていたから。

それだけです。以下、野村萬斎への思いを綴るパートです。読み飛ばしても構いません。

野村萬斎と私

もともと「にほんごであそぼ」を見ていた時から野村萬斎という概念が好きでした。あの指先まで美しい所作、上品な立ち振る舞い、そういったものが子供ながらに印象的だったんだと思います。あと声もいい。見ていた頃から20年近く経った今でも、あのよく響く低音を思い出せます。正直ややこしやは今見ても怖いと思うけど、その頃はその恐ろしさも含めて好きで欠かさず見ていた記憶があります。

それから数年後、親が見ていた「陰陽師」を見ました。正直演技がうまかったかはあまり記憶にないのだけど、あの妖しい雰囲気がとても似合っていて、色気と品がすさまじかった。安倍晴明がはまり役すぎる。安倍晴明の顔知らないけど絶対あんな感じだったよ。知らんけど。

あと元から小説が好きだったので「のぼうの城」も見ました。スキがない役柄が多いイメージだったから逆に新鮮でよかったです。のぼうの城は純粋に話も面白いから見てみてほしい。…陰陽師は野村萬斎を鑑賞するための映画だと思っている。

そして最近友人に勧められて、気が向いた時だけ大河ドラマを見ているのですが、こないだの「どうする家康」がかなりよかったんですよね。
野村萬斎は今川義元役なのですが、なんと一話目で討ち死にしちゃって、まじかよと思ってました。本当に。まだ初回なんですよ?
それでしばらく観るモチベが低下していたのですが、なんとなく偶然見た回の回想シーンでバリバリでてきました!やったー!
役柄としては全部の行動に納得いく感じだったかというとそうでもなくて、いや大事なことはちゃんと伝えろよと思わないでもなかったですが、あまり知らないが故に個人的に勝手に無能気味なイメージを抱いていた今川義元と、その回の気品と威厳あふれる今川義元のギャップにやられて、なんかまあいいかという気分になりました。実際何しても説得力がある気がする。堂々とした立ち振る舞いのせい?

さりげなく一話のネタバレをしてしまった。まあいいだろ。初回の話だし。教科書にも載ってるし。過去は覆らないし。そう考えたら大河ドラマってネタバレとかないのかも。いいコンテンツだ。視聴者が知らないのは、登場人物がどの回で死んでいくかだけだ。その理論でいくとさっきのネタバレはだめか。すみません。

ともかく思いがけず登場シーンが多かったのでテンションが上がって、やっぱ野村萬斎好きだ!と思ったのですが、よく考えたら本業の狂言を見たことがないことに気が付きました。こんなので野村萬斎を分かったといえるのか。いや、言えない。

言語化が難しいのだけれど、ここで言っている「好き」は推しやガチ恋感情ではないんだよな。この人は普通の人とは違うと直感的に感じるような、自分とはあまりにも遠いところにいる存在だと思っているので、一番近い感情は尊敬なのかもしれない。正直顔がめっちゃタイプかといわれるとそうではなく(失礼すぎる。野村萬斎もお前の顔は好きではない)、所作・発声・生きざま含めて好きです。だからあんまプライベートは興味ないかも。私にとって野村萬斎は「野村萬斎」という概念だから…。なんて面倒なオタクなんだ。
ずっと野村萬斎ってフルネームで呼んでるのも我ながらキモい。なんなんだ。変に距離を取ろうとした結果キモくなっている。

思い立ったが吉日

というわけで、さっそく野村萬斎の直近の狂言を調べた結果、夜桜能が出てきたので、何もわからないのに即チケットを取りました。演目も見たけど何一つ知りません。舞囃子ってなんなんだ。能と何が違うんだ。
同行者決まってないのにとりあえず2枚取っちゃうし。こういうときの行動力って恐ろしい。母親が付き合ってくれてよかった。母親も野村萬斎が好きなんですよね。血は争えない。
夜桜能は野外なのもあって初心者にもやさしそうな雰囲気を感じたのも一因です。あと靖国神社近いし、夜桜も一緒に見れてお得だし、何より自由席は3600円とかなりお安かったし。能・狂言デビューにはわりとちょうどいいのでは?と思います。

4/3, 4/4, 4/5の三夜あったのですが、なんとなく4/4にしました。4/3にも4/4にも野村萬斎は出演していたのですが、4/4はあの人間国宝の野村万作も出るとのことで、親子で見れるなんてお得だ!と思ったからだった気がします。
あとカジュアルな舞台だとは思うけど、周りが着物ばっかりだったらいやだから、それなら入学式の後に行けばスーツだしきちんとした服なのではとズボラなりに考えをめぐらせました。実際は全然みんな普段着だったし、客席が暗すぎて誰も周りの人の服は見てませんでした。それはそう。考えすぎ。

当日

混雑度

開演20分前くらいにいったのですが、自由席のいいところはほぼ埋まっていました。桜の近くで見るから当然なのですが、桜の木が席によってはかなり邪魔で、ポジショニングが大事そうです。もちろんいい席になればなるほど外れ席は減っていく上に、A席以上は指定席なので早く行く必要はないのですが、S席でも稀にポールが目の前にある場合もあるらしく、運も必要そうです。
正直、前日までオンラインチケットが売り切れていなかったため、スカスカなのでは?と思っていましたが、当日券も販売しているのもあってほぼ満席。自由席で安く済ませたい場合はちょっと余裕を持っていくことをおすすめします。

葉桜すぎ。今年は桜の開花が早く、八割がた散ってました。葉桜にもなってなかったな。ガクだけがたくさんついていました。夜桜能とはなんなのか。
ただ、風が吹くと舞台にも客席にもたくさんの桜吹雪が舞って、ほんとうに綺麗でした。桜の木の写真映えはいまいちだったかもしれないけど、生で見ている分にはかなりエモくてよかったです。

あるといいもの

・イヤホンガイド
初心者は必須。各演目の最中にセリフやしぐさの意味を生解説してくれます。片耳なのであまり鑑賞の妨げにもなりません。こんなの使うの私だけかも…って思っていたけれど、かなりの人がレンタルしていたので、みんなも躊躇せずレンタルしよう。イヤホンガイドの会計をしてたバイトの子たちが、1000円札の山を見て「…すごいすね」「うん…」と漏らすくらいにはみんな使っていました。
700円はちょっと高い気もするけど、何もストーリーがわからず長時間鑑賞するのは結構苦痛だったと思うからレンタルしてよかったです。特に舞囃子。狂言はセリフが多いからわかりやすかったけれど、舞囃子や能はセリフではなく動きや音楽の変化で物語が進んでいくことが多いです。むずすぎる。これガイドない人ってどうやって見てるの?暗記してるの?天才じゃん。
私は知らなかったのだけど、事前講座もあったらしいです。それも行くとより楽しめるのかも。

・防寒具
ほーんとに寒い。その日の昼は結構暖かかったにも関わらず、動かない+夜風に吹き曝しなのでどんどん体温が奪われます。上級者っぽい人たちは、マフラーとかダウンで対策していました。手袋まではいらないと思うけど、ほんとにそのくらいでいい。それに対して私は会場内で販売されていた甘酒でなんとか暖を取っていました。スーツは寒いね。

・眼鏡等
自由席はまじで遠いから目が悪い人はちゃんと持っていきましょう。うっかり鞄に入れっぱなしにしていた過去の自分にとても感謝しました。さすがに双眼鏡で見てる人はほぼいなかったです。

演目

  1. 火入れ式
    知らない大人たちが火をつける謎の儀式。なんかの元大臣とか、慶應の教授とかもいた気がする。謎の人選でした。私も偉くなったら裏口から入って事前に用意していた別の服に着替えて火をつけたいな~。こうやって書くと放火魔みたいだ。
    裏口から入るというのは文字通りで、関係者用の小さい門から案内されていたのを、入り口が見つからず外周をとぼとぼと歩いていた時に偶然見かけました。その時は偉い人たちだと知らず、普通のおじさんたちに見えたので、私も入れてくれないかなと思ってダメもとで警備員さんに聞いてみましたが、全然ダメでした。ぴえん。

  2. 舞囃子「養老」/ 大坪喜美雄
    岐阜県は養老の滝が舞台。めっちゃ水がきれいで、山神もきて、天下泰平でHappy…みたいな話だった。と思う。正直イヤホンガイドありでもなんとなくしかわからなかった。ごめん。
    養老の滝は去年の夏行ったばかりだったので、登場人物が讃えたくなるくらい綺麗なのがイメージできてよかったです。すごい迫力で、とても水も澄んでいて素敵な場所でした。下から徒歩で登ったのでかなり辛かったですが…。岐阜に行った際はぜひ。ちなみにその近くの養老天命反転地っていう観光スポット(?)も、かなり新鮮でおすすめです。どちらも絶対にスニーカーで行くように
    舞が美しかったのと、動作のひとつひとつにこんなに意味があるんだと知れたのと、何より「よーーっ」とか「ほっ」とか言ってる方たちの声の重なりが雰囲気づくりにかなり重要だと感じました。あれって複数人でやってたんだ。あれのリズムとか声の厚みで、なんとなくどんな雰囲気を表現したいのかわかるのがすごい。なんていうのか知らないので、「あれ」と呼んでいます。伝わってほしい。

  3. 狂言「花盗人」 / 野村 万作・野村 萬斎
    桜がきれいすぎて盗んじゃった人(万作)が、桜の持ち主(萬斎)に怒られるけど、盗んだ人の雅パワーで和解する話。二回盗んでるから結構激オコだったはずなのに、最終的に「お前まじわかってんな!笑」みたいな感じで許されたどころか、酒をおごられてて、雅パワーの大事さを知りました。狂言って普通はもっとウケ狙いのものも多いらしいのですが、そこまでギャグ寄りではないこれもストーリーとしてわかりやすくて面白かったし、頭上から桜が舞う中、舞台上にも桜がおかれてたのが粋でした。
    あと物を回収するためだけの人が後ろでずっと控えてるの、すごい。贅沢だ。微動だにせずただ自分の役目が来るのを待っていたのですが、花粉症とかだったらどうするんだろう。くしゃみしたくなったりしないのかな。それも修行すればなんとかなるのかな

  4. 能「乱」 / 宝生 和英
    これが一番長くてちょっと難しかったけど、自分なりに理解したストーリーを書いてみます。
    親孝行の男が酒を売っていて、そこには猩々っていう海中に住むUMAみたいなやつがよく酒を買いに来ていました。「猩々はいくら酒を飲んでも顔色が変わらなくてすごい!」と思った男が不思議に思って正体を尋ねます。
    すると猩々だよーと教えてくれたので、二人はある日海の近くで待ち合わせします。猩々は親孝行してるのを称えて無限酒湧き壺を与えます。欲しすぎ。あと仲良くなれたのが嬉しかったのかテンションが上がって舞います。かわいい。
    この時の舞が、通常の「猩々」の舞ではなく「乱」という特殊なやつになると、タイトルも「乱」になるらしいです。
    そのあと夢オチかと思いきや、壺は残ってて、夢だけど夢じゃなかったー!となります。猩々はトトロだったんですね。終わり。

    猩々は元から赤ら顔の生き物なので、顔色が変わらないのは当然なんです、とイヤホンから流れてきた解説が一番の面白ポイントだった。元から赤いなら別に不思議生物とか関係なくそりゃそうだろ、男も気づけよ、と思って…。
    その理論でいくと私もアルコール飲むとすぐ赤くなるから、飲み会のたびに顔中にチーク塗っていけばめちゃくちゃ酒が強い女になれるのかな。どう思いますか?いける?
    この記事を読んだからといって、私が真っ赤になってるときに猩々って呼ぶのはやめてくださいね。22歳になった今に至るまで、お酒を飲んだらカービィみたいになると表現することで可愛さを演出しているので。

生野村萬斎

自由席から舞台はかなり離れているのですが、もう遠くからでもその立ち振る舞いの美しさがわかって感動しました。まじで眼鏡持ってきてよかったー!私の視力だとさすがに裸眼では(動いてるな…)くらいしか分からないので…。
美しい姿勢、ぶれない体幹、それによる音一つ立てない移動、万作さんが動いているときには指先までぴくりとも動かず存在感を消し、自分が出番のときは一気に場の雰囲気を支配するあのメリハリ。めちゃくちゃかっこよかったです。

声もテレビで見てたそのまま、いやそれ以上の響きを感じて、喋る度に(これこれこれー!)ってなってました。反応キモ。本当に腹から出てる発声ってこういうことなんですね。力んでる感じがまったくないのに、私が座っていた客席の端のほうでも、会場全体を包み込むように"あの低音"が伝わってきて、本当にすごい。

生野村萬斎の魅力を語るには私の表現力が足りなさすぎる。喜んでたことが伝われば幸いです。とにかく私の想像通りの野村萬斎がほんとに実在してました。これってすごいことですよ。
…生野村萬斎って生野菜にかなり近くて区切りがわかりづらいね。

終わりに

夜桜能、野外の雰囲気もいいし初心者にも優しくてとても面白かったです!おすすめ!能も狂言もそんなに怖くない!万が一わかんなかったらもう夜桜眺めといてもいいし!みんなで行こう!私は何かない限り来年も行きます!野村萬斎はいいぞ!

後日談

嬉しかったから家に帰ってすぐアマプラで陰陽師を見返しました。400円くらいでレンタルできます。よすぎ。





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