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文鳥物語 飼い主との出会い

私は文鳥。6歳。メス。一応、桜文鳥ってことになっているけれど、体の模様はあんまりはっきりしていない。お腹の部分はほとんど真っ白で、ところどころにグレーの羽が混ざっている。

飼い主と出会ったのは私が雛だった頃。まだ全身の羽が茶色くって、飼い主はこう思ったみたい。「文鳥ってこんなほうじ茶みたいな色、してたっけ?」
ほうじ茶でもなんでもいいんだけれど、とにかく私、その日もペットショップのケージの中でまったりしていた。飼い主は最初、白文鳥を見ていたのだけれど、その白い子たちは手乗りじゃなくて、店員のお姉さんがケージに手を入れると逃げまどっていた。

私には関係のないことだと思って止まり木の上でうとうとしていたら、店員のお姉さんは「桜文鳥もいますよ。この子は餌も自分で食べられるようになっていますし、手にも乗ります。ほら」と言って、私のケージの扉を開け、手を差し入れてきた。思わずその手に飛び乗ったけれど、ケージの外に出されるのが怖くなってしまって、少し逃げまどった。
お姉さんに両手でパフッとやさしく捕まえられて慌てたけれど、「こうやって頬っぺたを撫でてあげると喜びますよ」と言って私の頬を指で撫で始めた。これをされると鳥はうっとりしてしまう。
目をつぶって堪能していたら、いつの間にか私は別の手に移動していて、飼い主が私の頬を撫でていた。なかなかいい手つき。声の調子、嬉しそうに指を動かす感じから、飼い主がドキドキと胸をときめかせているのが何となく分かった。

それから、飼い主は何か書類を確かめたりケージや餌、水浴び用の容器を手に取ったり、なんだか色々やっていた。もしかして私、あの人のところに行くの?どんな生活が待っているのだろう……そんな事を考えているうちに、小さな紙の箱に入れられた。暗い、狭い、怖い!私、今お会計されている?

箱の中で体を細くして怯えていたけれど、じきに明るい室内まで運ばれたようだった。箱から出されて、まだ細くなっているうちに、新しいケージの中に入れられた。
新しい環境に困惑している私に飼い主は「おーい、大丈夫だよ。今日から一緒に暮らそうね」と言った。ではこれからこの人が私の飼い主ということになるみたい。ちょっと不安だけれど、頬を撫でる手つきは悪くなかったから、きっと大丈夫。疲れたので止まり木の上で少し眠った。

真新しい餌入れにたっぷりのペレット、それと透明な水。部屋には日が差していて、ケージの床に敷かれた紙の上に私のうんこがひとつかふたつ。これが飼い主との生活の、最初の記憶。

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