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風は吹くのではない。流れるのだ。

”ピース”がつながりまくりの二時間

まったく別の分野にも関わらず、同じような真理に行き着くことがある。
今日お聴きしたのはPSさんで行われた講演会「PS Club これからの医療とケアを考える」(講師▶医療法人社団オレンジ・CEO/紅谷さん ▶札幌市立大学デザイン学部・教授/齊藤さん)だったが、自分がテーマとする対話を通した場づくり、地域コミュニティの構築につながる意義あるキーワードが満載だったので、メモとして残しておきたい。

尚、今回登場する「PS」はお手紙の「追伸」ではなく、当方が活動拠点としている築50年以上の建物を活用した「community HUB 江別港」の「冬、超寒い!」問題をエレガントに解決してくれたグレートな企業さんのお名前だ。

PSさんのお陰で、かつては使用3時間前ぐらいからポータブルの灯油ストーブを使ってあたためていた冬季ほぼ封印状態の2階が、通年快適に使えるようになった。
デザインも哲学もマジ好きな企業さんだが、今回の講演によってPS愛がさらに深まり、まさに「PS, I LOVE YOU!」(※元ネタは映画「P.S. アイラブユー」)状態となった。

※手元で雑然ととったメモを元に気になるキーワードを掘り起こしているので、以下の記載はお話しされたことそのままではなく、自分なりの解釈が加わった内容になっています。

ニーズに現場が振り回される方が健全!と言い切るすごさ

地域医療は医療側の専門性をベースとするのではなく、地域のニーズをベースにして然るべき。
例えば、かつては「専門家に管理されながら長生きする」ことが求められていたが、今は「自分らしくあり続ける」、そのために「家で死にたい」。

それに対して建築の世界では「幸せに死ねる家」がまだ発想にない。
医療も地域ニーズに合わせて発想を変えて対応していかないとならない。
人の内側に原因を求めた治療ではなく、その人を取り巻く「環境」という外側を見つめる、という視点もその一つ。

こうして時代の変化と共に医療に対するニーズはどんどん変わるので、それに対応するのは大変。大変だが「それで良いのだ」とドーン!と文字が見えるほど言い切っていたことに圧倒される。

一年前に仲間とPSさんの施設を訪れたとき。ちなみに外は氷点下の真冬。

え、椅子ですか?

続いての事例が「チェアラボ」。医療法人のお話しですが、椅子です。
例えば、学校でじっと座っていられない児童の場合、それは座っていられないのではなく、「動かない椅子」に座っていられないだけで、バランスボールにしたりキャスター付きにすると座っていられるという。

医療的ケア児の例では、その子の身体に合った椅子に変えたとたん、身体がリラックスして目の前のおもちゃに手をのばして遊びはじめたそう。
それまで薬や医療的アプローチをしていても身体のこわばりが抜けなかったのに!

映画「ビッグフィッシュ」のセリフ「君が大きすぎるのではなく、このまちが小さすぎると考えられないか?」を思い出す。

あと、カフェとか台所とか

オレンジさんが展開する「つながるベース」はクリニックでありながらメインはカフェやフィットネスジム。
そして「ほっちのロッヂ」は診療所でありながら大きな台所がある。

心がけられているのが、患者として出会うのではなく、暮らしのなかで隣人として当たり前のように出会うこと。
医療者が地域のなかでどう佇むか?を考えた結果のアプローチ。

以前、ホームレスサポート団体の代表が「『課題』と出会うのではなく『人』として出会うことから始めたい、だから暮らしの延長で出会える場を作るんだ」と言っていたことを想い出し、ここでつながるかー!!と一人で熱くなっていた。

「不均一の快適」って、なにぃー!!

PSさんと言えば、均一な室温環境を作ることが素晴らしいと思っていたが、社長が冒頭のごあいさつで話していたのがこの言葉。
思わず「言ってることちがうがな!」とツッコミを入れそうになった。

だがこれは、オレンジさんの在宅医療の事務所である「Orange Living Base」の例につながる巧妙な前振りであった。

この事務所は、PSさんのパネルヒーターを導入しているが、同じ部屋のなかにHot、Cool、Dry、Wetと様々な環境があり、それが快適さを作っているという。
人間は暑がりも寒がりもいて、一人として同じではないし、暑がりの人であってもその時々の体調で必要とする環境は変わるので、居たい場所を選べることが大切なのだ。

Orange Living Base

この事務所はフリーデスクになっていて、自分の役割ではなく、例えば「おなかがすいたからキッチンの方へ行く」みたいに、自分の状態に合わせて移動できる。できる、というより、動かさっている。

こういう複合的な快適環境さえも創り出してみせるぜ、というPSさんの自信が伺える事例。

今日の真打、オランウータンの登場!

円山動物園のオランウータンはかつてあまり動かず人気もなかったそう。
なんとかしてくれと頼まれたのが札幌市立大学の斎藤さん。

サーモカメラで檻内を見ると、床面が50度以上になっていた。温かいところに住んでるんでしょ?と思われるかもしれないが、オラウンウータンの生息する森で床面50度は存在しない。

そこで表面温度をコントロールできるように設計したら、勢いあまって檻から飛び出してしまったこともあるぐらいめっちゃ動き回るようになり大成功。今ではすっかり園の人気者とのこと。

そしてさらに哺乳類よりもはるかに室温に繊細な爬虫類館の設計も任されることになり、これもチームオランウータンがミッション達成したというからすごい。

こうした実績がOrange Liveing Baseにつながり、人がオランウータンになるためには?の発想になっていったのだ。

雰囲気って大事よね

北広島市の遊歩道「エルフィンロード」は、今ではエスコンフィールドに行く人達がたくさん笑顔で歩いているそう。
「運動が盛んなまち」になるのかもね!という文脈で出ていた事例が「運動が盛んな地域で暮らすと、自分が運動をしていなくても健康度が高まる効果がある」というもの。

そんなバカな、と思ったが続いて話していた「あなたが元気で笑顔だと、あなたの周りの人も幸せになる」というオレンジさんのコンセプトを聴いて納得。

運動が盛んなまちに暮らしていると、熱烈に応援する機会や活き活きとした人に接することも増えるだろう。それが自身の活力につながるというのは想像に難くない。
「雰囲気」によって人の気分は変わるし、気分が変れば意識も行動も変わるものだ。

↑恐らくこの研究と思われる。

孤独はタバコよりよくない

社会とのつながりを失った状態を「ソーシャルフレイル」というそうだが、これが要介護に突き進む原因になるとのこと。

肺気腫を患うヘビースモーカーの父が未だにタバコを手放せないのを半ばあきれて見ていたが、実は孤独の方が健康リスクが高い。
タバコを奪って孤独になるぐらいなら吸っててもらった方が良い、と冗談めかして話されていたが、タバコが気晴らしとコミュニケーションツールになっている父を見ると確かにそうかもなーと思えてしまう。

そしてコロナ禍の3年であらゆるつながりが断たれ、一気に認知機能が低下し始めた母の姿を見ていると、さらにほんとそうだなと……。

まとめ:宝石箱のような事例の数々からなにが見えた?

極めて冷静な顔でひたすらメモを取っていたが、内心「うぉー」とか「そうきたかー」と叫びまくっていた。

たくさんの宝石を並べてみて浮かび上がったのは、「適切な環境があれば人はイキモノとしての能力をのびのびと発揮できる」ということだ。

イキモノがあるがままの姿でいられる環境があれば、自らの望む方へ有機的に動き始め、あらゆる隙間が埋まっていって必然的に孤立者もいなくなるのではないか。

足りていないのは、その人がなにを求めているのか、その人の身体に合っていないものはなんなのか、という視点。

もちろん、一人一人のニーズは違うから、そこに目を向けて対応していくのは大変なことなのだが、ある程度の投資が進めば、イタチごっこの福祉よりも長期的にみてコストはぐんと抑えられるはず。

なりゆきで流れる風

ご講演後に幸運にも齋藤さんとお話しする機会を得たが、そこで「適切な表面温度管理が出来ればあとはなりゆきで”良い風”が流れる」という名言をお聴きできた。

風を吹かそうとする必要はない。然るべく流れるのだ。

ウッドストックの創始者マイケル・ラングもそんなことを言っていた。「心を込めてイベントを準備し、意図をはっきり示せば、人々は高次な精神を発揮して、何か素晴らしいことを実現してくれるって思ったんだ」と。

人間という”イキモノ”の力はすごいんだぜ。
それを発揮できるかどうかは、心の込められた「環境」があるかどうかなのではないか。

講演後にショールーム「PSマダガスカル」で行われた交流会の様子

P.S. 未体験の方はPSさんの施設をぜひご体感下さい。きっとオランウータンになれます!


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