刃物専門編集者の憂鬱 その24「JKGナイフコンテスト2024 審査会速報」
こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。
肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいているのですが、ちょっと珍しい「刃物専門編集者」としての日々を、あれこれ書いていこうと思います。
「JKGナイフコンテスト」審査会、行ってきました
今年も「JKGナイフコンテスト」の審査会が開催された。
以前もご紹介したが、日本でナイフコンテストといえば真っ先に名前のあがるコンテストで、ここでの受賞をきっかけに世界で活躍するようになった作家も数多い。
39回目の今回は、昨年とほぼ同数の38点の応募作が集まった。
そのいずれもが、良作だった。
応募作は、10月19日(土)と20日(日)に東京・銀座の時事通信ホールで開催される「JKGナイフショー」で展示される。
受賞作もその際に発表される予定だ。
ここでは、昨年に引き続き、審査員の方々のコメントをご紹介しようと思う。
掲載は伺った順、敬称略である。
鈴木康友(JKG会長・審査委員長)
今年も力作が集まりました。年齢層が幅広いところが、ナイフメイキングが年に関係なく長く楽しめることを物語っているようで嬉しかったです。使ってみたくなる作品も数多くありました。手にとって仔細に観察すると、ブレードの立ち上がりや角の取り方などの細かな差異が見えてきます。活躍している作家さんたちの作品をショーなどで手にとって見ることが、よりクオリティの高い作品へと繋がると思います。どうぞ皆さん、これからもメイキングを楽しんでください。
相田義人(JKG顧問・審査副委員長)
素晴らしい作品が揃い、私自身も触発されるところの多い審査会となりました。ナイフデザインの核は「バランスの良さ」に尽きると思います。使いやすさを追求することが見た目の良さにつながってくる。そこを意識することでデザインが洗練され、技術も高まっていくはずです。また、ナイフは危険な道具でもあります。普通に扱えば安全に使える作品にすることが、作り手が最低限守るべきルール。その矜持を持ってナイフメイキングを続けていただければと願っています。
井上 武(JKG理事)
今年も良作が多くて、選考には苦労しました。個人的には、近年はやや下火になっていた感のあるアートナイフの力作が数多くそろったことが、ひときわ喜ばしく感じました。ナイフには「基本のデザイン」というものがあると思います。ラブレスはじめ、それらを確立させたオリジナルともいうべき過去の名作を見ることで、作品にも大きな影響が出てくるはずです。往年の名作をお見せできるような機会を作れるように、私も心がけたいと考えています。
横山哲夫(JKG理事)
率直に言わせていただくと、今年は少々おとなしい印象でした。全体的にデザインや技術のレベルは上がってきていると感じます。でも「とんでもないぞ!!」と驚かされるようなナイフがなかったかもしれません。とは言え、心に留まる作品も多かった。中でも大賞受賞作は素晴らしかったし、オリジナリティのあるアイデアで楽しませてくれる作品もありました。ナイフ作家として、皆さんとナイフメイキングの世界をもっと盛り上げていきたいという思いを新たにしました。
圷 正史(ナイフレポーター)
毎回、受賞作を選ぶのに苦労します。これは良いところなのですが、このコンテストにはあらゆるクオリティのナイフが集まります。プロの中でも上手な方から、初めてつくった方の作品までが揃うので、審査する際は、技術的水準ではない部分も考慮する必要があります。それを踏まえた上で今回も順当な作品が受賞したと思います。私設している「レポーター&エディター賞」も候補作が多い上、それぞれジャンルの違うモデルだったので、決めるのに苦労しました(笑)。
中根祥文(JKG理事)
力作が揃っていました。大賞受賞作をはじめ、心に残る作品も数多かったように思います。ナイフメイキングは、自分が思い描いた通りにはできあがらないことが多いものです。繊細なロック機構などに挑戦する場合は特に。ですが、ナイフとしての機能、安全性を第一に考えて、初めて手にする人でも安心して扱えるような作品を諦めることなく作っていただければ、と思います。私もナイフ作家としての挑戦を続けていきます。ぜひ皆でメイキングを楽しんでいきましょう。
山本 徹(JKG会員)
今回も若手、あるいは始めてまもない方々が応募してくださったことが嬉しいですね。しかも彼らの中から各賞を競うような作品も出てきていますから、カスタムナイフの世界にとって希望を感じさせる思いをさせていただきました。フォールディングナイフも力作が多かったですね。フォールダー作家として、厳しい目で見てしまいがちですが(笑)、大前提として複雑な機構に挑戦して、さらに美しさも追求した作品を拝見できることは嬉しいし、頼もしくも感じています。
相田東紀(JKG事務局)
今年も例年並みの数の応募をいただけたことに感謝しています。毎年送ってくださる方々の作品のクオリティが、前年に比べて格段に高くなっているのを拝見すると、コンテストを続けてきて良かったな、と個人的にも嬉しくなります。今回は高精度な機械加工で製作された作品が出てきたことも印象的でした。手仕事を貫く。あるいはテクノロジーを駆使する。さまざまな製法がありますが「いいナイフ」に結実するのであれば、いずれでも良いのでは、と感じさせられました。
応募作を見ることでしか得られない養分
僕の感想も書かせていただこう。
ちょっとだけリークすると、今回の大賞は近年稀に見る大接戦だった。
逆に言えば、昨年に比べて「飛び抜けた」作品がなかった。
ただし個々の作品は、クオリティの高さやアイデアの新鮮さ、といった魅力が必ず存在していて、掛け値なしにどれも見応えがあった。
多分、他の審査員の方々も同じ感想をお持ちだと思うが、枠数の関係で賞をお出しすることが叶わなかった作品も多かった。それらに関しては、いわゆる「評価コメント」で、作者さんたちに良き点としてお伝えしたいと思う。
今回、僕は「変化」を一つの大きな評価軸にして見させていただいた。
オリジナルをどうアレンジしたのか。以前に作品を拝見したことのある方の場合は、どう作品を進化させたのか。限られた時間ではあるものの、それらにフォーカスしながら拝見させていただくのは、まさに至福の時間だった。
素晴らしい作品を応募してくださった方々に感謝しかない。
審査会の後の懇談でも、明確な意図を持った作品が揃ったことに対するポジティブな意見が数多く出た。
今年出した人も、出さなかった人も、ぜひ来年、応募していただきたい。
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