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花に潮風

*こちらの短編は『夏へのトンネル、さよならの出口』の本筋に大きく関わるため、本編読了後にお読みください。  花に潮風  この町はどこにいても潮の香りがする。  校舎二階の廊下を歩きながらそんなことを思った。  開け放された窓の向こうに海が見える。東京に居た頃はなかなか見られなかった景色も、ここ香崎では日常の背景だ。自然が多くて、心なしかセミの鳴き声も東京のものより元気に感じられる。  濃厚な夏の雰囲気に、しかし私はうんざりしていた。  潮風は磯臭くて肌がべたつくし、セミの

    • あぜ道は夏の終わりに続いてる。

      「お兄ちゃん! 起きて!」  元気いっぱいの甲高い声が、僕の眠りをパチンと覚ます。それと同時に、セミの鳴き声が耳に流れ込んできて、僕は朝の訪れを知る。  接着剤でくっつけたみたいな重い瞼を開けると、視界に広がるのは見慣れた天井ではなく、間近に迫ったカレンの顔だった。頭の後ろから垂れたポニーテールが僕の頬をくすぐる。 「ほらもう六時だよ! 早く行かなきゃラジオ体操に間に合わないよ~!」 「分かった分かった……起きるよ。起きるから、ベッドから降りて」 「はーい!」  カレンはベッ

    花に潮風