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支援BISが好き

以前読んだ『辺境の老騎士』(既刊3巻)がすごい面白かった支援BIS(←ペンネーム)の新刊が1月に2作同時に発売されたので読んだわけです。どっちもすごい面白い。勢い余ってweb掲載分も全部読んでしまいました。


1月刊の『迷宮の王』『狼は眠らない』はどっちもゲーム的ファンタジーとしての側面が強いですね。

飛行機も新幹線もないがゆえに容易に踏破できないだだっぴろいフィールドに、豪傑を放り込んでうろうろさせることは冒険の本質であって、それが現代においてロールプレイングゲームというものとどれほど強く結びつきまたRPGという手段を用いて語られ直してきたか。

ジャンルの資産としてのゲーム的要素は、異物として世界をきらびやかに彩りつつも、それと同時に、作家の信じるREALとして確かな手触りを伴って作中世界に存在しています。

また、支援BIS作品の脇役端役には、老若男女がまんべんなく登場します。

支援BISは、それぞれの人生の事情を抱えてあっちこっちに住んでいる人間たちのエピソードの折り重なった総体として作品を、作中の市井のちまたを、人間たちの生きる世界を描いているし、またそれを十全に実現できる力量を持っています。


さて、書籍化された3作にはそれぞれ特徴的なコンセプトがあります。

帯でグルメ・エピック・ファンタジーと称する『辺境の老騎士』は、タイトル通りに引退した騎士が主人公です。

老騎士の生きてきた人生の長さに、辺境のだだっ広い荒野の光景と、いつか老騎士の大冒険が伝説として語られるようになるまで時の流れとがオーバーラップして、セピア色の茫漠とした時空間が読者の前に出現するのですが、その中にあって今この瞬間に食べている飯がうまいという感動が紅を点したように鮮やかに浮かび上がります。


『迷宮の王』は1巻では、ごく凡庸なダンジョン浅層ボスだったはずのミノタウロスが迷宮の理から自立し、やがて手の出しようのない途方もない怪物になっていく様が描かれました。おそらく次巻ではもうひとりの主人公である人間側の勇者の冒険が描かれていくことになるでしょう。

迷宮のミノタウロスは世界に対する主体性を獲得し、孤高を生きる卓越した個ですが、対して人間の生きる世界は想いや縁に時に縛られながらも、それを繋いでいく群像劇・年代記となっていて、その中を生きて彼らを代表するものとして勇者ザーラは描かれています。


『狼は眠らない』は主人公の造形が面白いです。

異邦の市井を生きる剣士レカンは、ダンジョンでモンスターを殺戮してスキルやアイテムをがっぽがっぽ稼いでいく貪欲な冒険者であり、それと同時に薬師シーラに師事して様々な回復薬の作り方を学んでいる癒し手でもあります。物語自体も主人公の二つの側面を反映して、それぞれ別種の面白さをもった話が交互に立ちあらわれてきます。


支援BISの3作品はその冒険の地平の上に、ひとが生きるということ、生命の有り様というものを、それぞれがそれぞれに鮮やかな対比をもって描き出しています。そうした視線の先にあるもののわずかな遠さが、ただ単に実力がある作家であるという以上の、特別な魅力をもたらしてるんじゃないだろうかなあと思います。

もっと世の中によく知られて、本邦のエンタメファンタジーの潮流における、今この時代を担う主要な作家のひとりになって欲しいですね。

しかしまあとにかく支援BIS作品はすごく面白いのでおすすめです。以上!

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