見出し画像

イメージセンサーのクリーニング[受付編]

 私のライカM9のイメージセンサーにゴミが付着している。写真を撮ると大小計4つのホクロみたいな黒い点が付着しているのだ。画面下にある小さいゴミは特に気にならないが、画面上部中央やや右にある千昌夫のホクロのようなゴミはいただけない。私は晴れた空が写るような写真を撮ることが多いのでデラァ気になる。デラァとはもの凄く気になるという意味だ。そして、いよいよ画面左脇、尾野真千子のホクロみたいな場所にゴミが付着した時に私は重い腰を上げた。

 整形だ!

 違う、センサークリーニングだ!


 前回クリーニングしたのは3年前。JR千葉駅ガード下のカメラのキタムラだった。バンドのスタジオ練習前に出して、1時間くらいでホイホイとやってくれた。その軽い感覚があったもんで、今度は有楽町の丸井の7階にあるキタムラでやってもらおうと昼休みを抜け出し、事務所のある築地から有楽町まで地下鉄で向かった。冷たい雨が降る日、なまじ土地勘があるもんで、銀座から有楽町まで全部地下道で移動しようと思ったが、東京オリンピック後の銀座は素知らぬ顔をして私を拒絶した。あっち行ったりこっち行ったりしながらなんとかイトシアの真下の地下まで来て、エレベーターに乗り7階まで向かい、フロアを半周してたどり着いたキタムラの対応はつづけて2個食べたガリガリ君の2個目のように芯まで冷たかった。
 「ライカのカメラはその場ではやらずに工場に送って作業します」というのだ。その場でホイホイやってくれるからキタムラを選んだのに、わざわざ工場でやるとは何事だ。当然、工場まで運ぶときにリスクが伴う。なにせ13年前のデジカメなのだ。ちょっとしたショックで故障したらどないしてくれはるん。といいながらも先日新宿ゴールデン街の階段を酔っ払ってかけ落ちた蒲田行進曲ばりの階段落ちの衝撃が甦った。あの時ライカは無事だったのは、一澤帆布のショルダーバッグのさらに内側にドンケのスポンジインナーを仕込んで小脇に抱えていたからだろう。キタムラの店員さんが私のライカを小脇に抱えて工場まで運んでくれるわけではない。輸送業者に委託するに決まってる。そして、調子が悪くなっても「いやぁ、お客さん、なにせ13年前のデジカメですからなぁ」と逆に説教を垂れてくるのが目に浮かぶ。こんな大事なものをキタムラのクリーニングに出すほうがおかしいのだ。
 私はキタムラのセンサークリーニングを断腸の思いで断った。

 直接ライカに行く!

 そう店員に告げると私は踵を返した。ライカとはドイツのウェッツェラーまでではない。ここ有楽町イトシアから銀座のライカジャパンまで10分とかからないだろう。確か酔っ払って何度も前を通っている。ほら、あのブギウギ酒場の近くだ。
 すぐさま銀座を歩き出した。この辺をちゃんと(シラフで)歩くのは本当に何年ぶりだろうか。やっぱり銀座は変わりまくっていた。時代が変わるということ、歳をとるということはこういうことなのだろう。齢五十を超えて最近しみじみと感じる。四十とはまるで違う感覚である。
 そんな感情の波に押し流されて歩いていたらライカを通り過ぎていた。というのは嘘でどこが入り口かオシャレすぎて皆目わからなかったのである。かっこわるいが、正直に言うと…

 ガラスの継ぎ目を見つけて押したら開いた。

 さすがに高級ブティックばりの外観と内装である。そりゃそうか。こっちはちゃちゃっとキタムラに行く予定だったので、完全に業者みたいなカッコで来ているのだ。さすがにドレスコードはないだろうが、場違いも保土ヶ谷バイパスである。
 場違いで思い出したが、先日居酒屋で食べた鯵かつてが当たって翌朝全身の関節辺りに蕁麻疹(ジンマシン)が出たのだが、まぁ、なんとかなるかと思っていたら、突然痒みが我慢できなくなり腫れて熱を持っていたので、急遽会社の近くの皮膚科に行くことにした。
 ネットでどこの皮膚科に行こうか検索していたら、「当院は男性、女性の医師がおり、個別に対応しております」と書いてあるデリケートゾーンに親切な皮膚科に決めた。腕にも湿疹はあるが、太腿の方が腫れているから、万が一を想定しての安全に安全を期した安全地帯へのチョイスだった。
はずだった。
 白で統一された小洒落た雑居ビルに入るといや待てよ、これアメブロでやるようなネタに変わってないか?こういう下ネタの続きはアメブロでやって、いまはカメラの話しをしようじゃないか。

 そんで話しは逸れたがライカショップ1階の受付のゴルゴ13のような紳士にセンサークリーニングの話しをすると2階で受け付けているという。細長い階段でカツカツと2階に上がり、わけわからんギャラリーを抜けて、ついでに付いているような小ぢんまりとしたカウンターで白衣を着た技術者と思わしき若者に訊ねるとセンサークリーニングだけはやっておらず、エラいひとにはわからんのですが、メンテナンスとクリーニングのセットで6600円だという。

 全然安い。

 なにせ世界のライカである。内心3万円ぐらいぼったくられる覚悟でいたので、いわばタダ同然である。だって、キタムラだったらセンクリだけで3300円でしょ。それをメンテナンスも込みで6600円でやってくれるんだから。
 ただし、距離計が狂ってたら別途一万円かかると言われたので「パンフォーカスで使用するし、ライカでシビアな接写はしないので、少しくらい狂ってても見逃してください」と懇願した。
 ついでに電源スイッチのフィーリングが少し緩い旨を伝えると、彼は丁寧にバックヤードから別のM9を持ってきてくれた。若干持ってきてくれたM9のスイッチの方がしっかりしたフィーリングだが、ゆるゆる感は概ね同じだったので、それはそのままで良しとした。
 オーダーシートに私のM9のチェック項目を記入しながら技術者の彼は私のカメラのグッタペルカ(ボディに巻いてある革)の色が黒ではなくグレーであるのは、自分で変えられたのか聞いてきた。私は少しはにかにながら正直にヤフオクで購入した時にすでにこの革の色だったことを伝えると「純正品ではないですね」と教えてくれた。黒に戻すといくらかかるか聞くと3万円かかり、さらに来年の2月に仕上がるというので遠慮した。

 気になってあとで調べるとオーストリアの女性写真家birgit krippnerさんが全く同じ色のM9を使っていた。

 2010年にライカ・ア・ラ・カルトなるサービスでグッタペルカ交換サービスはできたようであるが、色が2種類しかなくて、もっと他の色に変えたい場合は革をカメラレザー社に直接注文し、ドイツのゾルムス市のライカカスタマーサービスに行って、革の張り替えをお願いすればそれはもう純正品のような仕上がりなんだそうな。そのカメラレザー社で選べる革がこの色らしい。確かに技術者が言うように純正品ではないが、ライカゆる公認の革なのだ。
 しかし、このようなまどろっこしい工程を誰が頼むのだろうか。色もそんなにカッコ良くない。  
 これはあくまでも仮説だが、このライカ、実はbirgit krippnerさんのじゃねーの。

 とりあえず、ライカサービスにM9は出した。仕上がりはおよそ1週間だという。これで正月休みの熊谷探索には間に合うだろう。レンズ、グリップ、SDカードを外し、それらを携えて、私は銀座をあとにした。ちなみにその時のバッテリーは八〇%だったが、できるだけメンテナンスに出す時は満タンがいいらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?