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呪いを解くための物語

おはようございます。

2021年4月5日、アイドルマスターシャイニーカラーズに七草にちかという新たなアイドルがやってきました。
今回はその記事です。

ありがとうシャイニーカラーズ。『薄桃色にこんがらがって』に並ぶレベルの名作でした。

※僕のプロデュースの様子を動画にしてるので、興味のある人はご覧ください。でも正直にちかのプロデュースを真っ先にしてもらいたいです。


0.プロデュース前の印象

本筋の前に少しだけ。

3月の『PiCNiC BASKET!』復刻にて、シーズの二人が登場するEXコミュ2が追加されました。その時点でのにちかへの印象は「あんまり好きじゃないかな~」でした。

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ほとんど素人でありながら、撮れ高が~、スポンサーが~と口にできてしまう軽薄さと、アイドル志望と言っているのにいざ自分にスポットが当たると行動しない性格。
ユニットメンバーの美琴さんが「チャンスは掴みにいかないと逃げていく」と言い、アイドル経験者としての重みを披露してくれたため、にちかの軽さがより顕著に映ったのを覚えてます。

ただ、プロデュースを通してアイドルへの印象が変わるということはシャニマスではよくあることなので、むしろにちかのプロデュースを楽しみにしていました。

……しかし、シャイニーカラーズは私の想像以上に凄まじい力を秘めていたのです。


1.輝きと呪い

いざプロデュースを始めると、初っ端でプロデューサーを脅迫。「めちゃくちゃヤバい人来ちゃったじゃん」と冗談混じりに思う一方で、ちょっと見直してもいました。非常に荒々しいながらも、「七草にちか」という道を進むために突き動かされるようにアイドルを志望する姿は、彼女の「輝き」の表れだからです。

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僕は「輝き」という言葉を「その人の根源的な本性」というような意味で使っています。「魂」と言ってもいいかもしれません。理屈で語り尽くせずとも、「こうすべき」という魂の声を受け入れた先に、本当の自由や幸福があるのです。

しかしにちかは、彼女の「輝き」を曇らせ、「七草にちか」という道を覆い隠すほどの「呪い」を抱えていました。憧れのアイドルである八雲なみを「特別」と置いたことに端を発する、「平凡」という呪いです。


2.Enchanted

「平凡」という呪い。
自分で自分にかけ、自分を苦しめる呪いです。

僕は先程、自由で幸福であるために「輝き」を発揮せねばならないと言いました。ではそのために何が必要でしょうか?

1つに限られないでしょうが、僕は「自信」を挙げます。
「トップアイドルになる」。
自分を信じて己を極限よりも磨き尽くし、その道の先に必ず夢が待っていると信じる夏葉さんや恋鐘。
自分の能力は信じきれないかもしれないけど、いつか「灯り」に、「主人公」に自分もなれると信じて努力する灯織や小糸ちゃん。
僕らは今までたくさんのアイドルを見てきましたが、その誰もが何らかの形で自分を信じていたのではないでしょうか?

もちろん、最初はあまり自信がない子もいました。
「なんもできない」と口にし、夢を見ることも忘れそうになった甜花ちゃん。
ありのままの自分を恐れ、一度はアイドルを投げ出しかけた冬優子や、挑戦することを避けてきた樋口。
でも彼女たちも、「自分を信じたい」という思いは持っていました。その思いが種火となるからこそ、プロデューサーのサポートを通じて「自分を信じる」光へと高まり、「輝き」へ繋がっていくのです。

しかし、「呪い」は自信を奪います。だって自分は「平凡」なんだから。
「特別」な人は”輝き”を持っているから「特別」なんだ。「平凡」な自分に”輝き”はない。

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「呪い」にかかったにちかは「七草にちか」を諦めます。しかし、にちかがなりたくてたまらないアイドルは、「七草にちか」を信じた先にある。
「呪い」を解き、もう一度光を灯すにはどうすればいいのか?

このテーマは個人的にここ数年考えていたことだったので、シャニマスで触れられることが本当に嬉しかったです。これまでも現実世界を高い解像度で描きながら理想の実現を見せてくれたシャニマスが、このテーマにどう解答を出すのか。
おそらくシャニマスとしても3年目に対するアンチテーゼなのでしょう。
空を染めることができるのは、自分の色があることを信じられる人だけ。
鏡を覗いても自分色が見えないから、精一杯にすらなれない人もいる。
そんな人たちをどう掬うのか。どう救うのか。

かくして、七草にちかの呪いを解くための物語が始まったのです。


3.きれいな靴

にちかはアイドルをやるにあたり、「八雲なみ」という靴を履きました。「特別」な人の真似をすれば自分も「特別」に見える。もしかしたらにちかは、パフォーマンスの奥になければならない「輝き」に気づいてすらなかったかもしれません。
歌が上手ければ、魅力的な見た目なら、高度なダンスができれば、アイドルになれる。にちかは自分の中にあるはずの「輝き」から目をそらし、八雲なみの“輝き”を求めてサイズの合わないきれいな靴を履いて、焼き増しされた素晴らしいステップを踏む。

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「真似をすること」自体が悪いことではありません。
あさひもWING編冒頭でアイドルのダンスを真似ていました。しかしこれはあくまでワクワクを見つけるための冒険の一環で、その先は真似ではない自分の「輝き」へ繋がっています。だからプロデューサーも、街で見かけたあさひから何かを感じたのでしょう。
でもにちかの真似は自分に繋がらない。なぜなら彼女は自分の「輝き」の存在を信じていないから。「真似をすること」そのものに「輝き」なんてないから、プロデューサーはそこに「W.I.N.G.」を勝ち抜けるような何かを感じない。

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当然こんなやり方を続ければ、にちか自身も傷つきます。
パフォーマンスのクオリティは上がっても、そこに「輝き」はなく、ただ苦しみが増すばかり。にちか自身もこれが正しくないと本当は分かっているはずです。シーズン途中で敗退した時、なにも変わらない自分を自虐と強がりで誤魔化していたのだから。

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「輝き」のないところに本当の幸福はない。
でも他人からはにちかの全てが分かることもない。浅倉のWING編なんてまさにそうでした。だからプロデューサーも全否定はできず、「にちかがハッピーか」をしきりに気にします。

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それでもにちかは足を止められないまま、「W.I.N.G.」は進んでいきます。


4.神は自ら助くる者を助く

ここで一旦プロデューサーに着目してみましょう。

担当アイドルがこんなに苦しんでいる中、プロデューサーは何をしていたのか。もっとうまく彼女を導くことができたんじゃないか。
ネット上の感想を見るとちらほらそんな意見もありました。

でも僕は、プロデューサーはできる限りのことをしていたと思います。

ここまでの僕の考えをもとにすると、アイドルとして活躍するには「輝き」を発揮せねばならず、そのためには「自信」が必要。その「自信」を「呪い」が阻んでいるのだから、「呪い」を解けばいいはずです。
つまり、「特別」「平凡」という区切りを取り払い、七草にちかも他のアイドルも、八雲なみも同じ人間であるということに気付く事ができれば、にちかは笑えるようになるのです。
そしてシーズン3のコミュ「on high」にて、プロデューサーはそのことをにちかに伝えています。

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でもにちかはそれを受け取りません。
これが呪いなんです。昔の人々が地動説を信じなかったように、どれだけ言葉を重ねても差別や偏見が無くならないように、そして……にちかのコミュを見てもまだ「呪い」に囚われているプレイヤーがいるように。

外からどれだけ手を差し伸べられても、それを掴みにいかなければ意味がありません。変わるためには自分から変わろうとしなければならないのです。

でもプロデューサーはにちかを諦めたくはなかったんだと思います。

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「呪い」の奥にある彼女の「輝き」を信じて、自分がやれることの限界にぶつかり、神に祈るしかなくなっても、本当にアイドルに憧れる彼女をアイドルに、「七草にちか」にしたかったんだと思います。


5.When the spell is broken…

シーズン4のコミュ「may the music never end」でにちかに転機が訪れます。社長室で八雲なみのレコードの白盤を発見するのです。
まさに偶然というか運命というか、プロデューサーのあずかり知らない所で「八雲なみ」と対面し、にちかの「呪い」は解け始めるんです。

もし天井社長が八雲なみをプロデュースしてなかったら、レコードを残していなかったら、にちかの「呪い」は解けなかったかもしれない。社長の思いが残るこの部屋を、にちかが開けたことで世界が繋がり、八雲なみと同じ道をたどるかに見えたにちかの物語は動き始めます。

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「特別な人」という呪い。
しかし白盤に書かれた「そうなの?」の文字。
もしかしたらなみちゃんは、特別で完璧じゃなかったのかもしれない。

本当にわずかな綻びだったと思います。でもそれでいい。
「輝き」に導く「自信」の光が「信じたい」という種火から始まるように、この「呪い」が解ける始まりになるはずだから。


6.大停電

「呪い」が解ける兆しが見えたから、これでめでたしにしたいんですけどね。世界は止まらないんですよ。

七草にちかはいずれ「呪い」から解放され、自由になる。ここから時間をかけてゆっくりアイドルとしての活動を続けられれば、いつか必ずにちかは笑えるようになるはずなんです。
しかしすぐ目の前で立ち塞ぐ「W.I.N.G.」本選が口を開ける。そこで負けたらにちかはアイドルでなくなる。

「呪い」が解け始めたことで「八雲なみ」という拠り所が傾き始めたにちか。ちょっと時間は前後しますが、「特別」なはずのなみに疑問を抱くようになっています。

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でもだからといって自分自身の「輝き」を見つけたわけでもないんです。「八雲なみ」という懐中電灯が切れただけで他に光源のないにちか(あるいはほんの僅かな明かりを生み出せているかもしれませんが)は、真っ暗闇の「W.I.N.G.」を歩いていかなければならないのです。こわくてたまらないに決まっています。

もうこの時点でプロデューサーにできることは、にちかが少しでも自信の火を灯せるように声をかけることと、神に祈ること。「プロデューサー」という立場のなんと無力なことか。

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余談ですけど、この時の「神」ってプレイヤーのことかもしれませんね。
ゲーム内のプロデューサーは結局「W.I.N.G.」本選時点でにちかの「輝き」を引き出せなかったわけですから、「輝き」を、「七草にちか」を信じることはできません。それでも優勝させたいと思ってしまうから、「輝き」が必要な「W.I.N.G.」で「輝き」以外の何かでラッキーで勝てちゃうように、神に祈ってしまう。
でも「シャイニーカラーズ」のプレイヤーからしたら、ゲーム内のアイドルに「輝き」があろうとなかろうと、VoDaViの数値を上げさえすれば優勝できちゃうんですから。

そして。

七草にちかは「W.I.N.G.」を優勝します。
「七草にちか」という、頼りにするにはあまりにも脆く心もとない、「光」とさえ呼べないかもしれないものを頼りに、暗闇の中、道も見えないのにひとつ足を踏み外したら終わりの世界を、かわいそうなほどボロボロになりながら自分の足で歩み、「呪い」を解いたのです。

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7.音楽は止まらない

「W.I.N.G.」を優勝したにちか。
「呪い」が解け、「七草にちか」がやり遂げたという感覚を胸に、かつての「神」八雲なみを振り返ります。

「特別」でなくなった彼女を見て、自分と同じ人間である八雲なみの抱えた寂しさに気付き、同情します。八雲なみもまた、自身の「輝き」を抑えつけてきれいな靴を履いて苦しんでいた、普通の女の子なんだと。

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今ここでやっと彼女は「アイドル」の、「七草にちか」の0段目に立ったのです。ここから1段、2段と自分の足で登っていきます。事務所の他のアイドルと比べてもあまりに遅いスタートです。これからも苦しむことがあるでしょう。「そんな思いをしてまで進ませたくない」「もう終わりにしていい」僕らがそう思う時がこれからもあるかもしれません。
それでも、輝かなければ本当の自由、幸福はないんです。どん底を乗り越えたのだから、もう乗り越えられないものはないはずです。だから黙って聴いてみませんか?七草にちかが「七草にちか」になるまでの、1000カラットの物語を。


8.終わりに

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

僕はアイドルマスターシャイニーカラーズが大好きです。
現実世界で生きている人も抱えているようなテーマを丁寧に描き、「どう生きるか」を責任を持って提示してくれるシャニマスが大好きです。

この世界は全て繋がっています。
にちかの物語に限りません。シャニマスでなくともかまいません。
輝くものから力をもらい、自分自身も輝こうとする人が1人でもいたら嬉しいです。
その姿はきっと他の誰かに繋がり、世界がさらなる輝きで満ち溢れるのですから。

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