落合君のこと

大相撲5月場所がもう終わるけど、幕内の優勝より私は十両の優勝争いが気になって仕方ない。

なにせ落合君が優勝するかしないか、なのだ。

落合君は、2018年2月の「白鵬杯」で初めて会って取材をした。そのことは「世界のおすもうさん」(金井真紀さんとの共著・岩波書店)に書いたのだが、本になったときは、文字数の関係で、web連載していたときより、原稿を削ることになってしまった。

今、当時書いたweb連載の落合君の部分を探したら出てきたので、ここに記しておきたい。へへへ。こっそりな。

1200人の頂点に立った!
 そうして、「押忍!」で私を圧倒した鳥取チームの落合哲也君が登場した。予選トーナメントを勝ち抜いてきたんだ。土俵に上がると落合君は土俵を何度も足でならして、ゆっくり腰を下ろす。不気味なほど存在感がある。これで15歳って……。はっきよーい、のこった! 瞬く間に相手をのけぞらせ、押し出しで勝ち! 全く負ける気がしない。落合君はそのまま準々決勝、準決勝と次々勝ち進む。土俵下では倉本先生が厳しい目で落合君を見つめ、勝って戻ってくる落合君に言葉をかけ、落合君はうん、うんと頷く。倉本先生も一緒に戦ってるようだ。
 決勝は手計君と落合君になった。すでにプロも真っ青な体つきと雰囲気、強さを誇る2人。
土俵がキレイに掃かれ、審判が塩を撒いた。
横綱が「みなさん、大きな拍手をお願いします!」とアナウンスし、会場中が拍手で2人の戦いを迎えた。
 東、手計君、西、落合君。
手計君は顔を叩き、気合を入れる。落合君は肩をいからせ、それまでと同じように土俵に上がった。あちこちからかけ声がかかり、2人は土俵を足でならし、身体をゆらし、集中をはかる。2人は土俵に手をつき、審判の後ろに座る横綱が身を乗り出して見る。緊張した空気が国技館を包んだ。
 はっきよい、のこった!
 立ち合いは手計君の方が早いようだったけど、瞬く間に落合君がうわてを取り、胸が合い、そのままぐんぐん、ぐんぐん、ドーンっ! 手計くんが土俵下に落ちて、落合君の勝利!
「うわあああああああああ!」
大歓声が巻き起こり、右手を挙げて勝利を喜ぶ落合君。手計君は前のめりになって息を荒げ、悔しそうな顔をする。
 土俵を降りた落合君はいちもくさんに倉本先生のところへと走り寄り、抱き合って喜ぶ。私もこれは!と思って土俵下に走って行くと、あんなに「押忍!」だった落合君が人目をはばからず涙をボロボロ流してわんわん泣いている。「おめでとう!」声を掛けると「うれしいっす!」と言って、またわんわん泣いた。すごいすごいすごい! 「自分の相撲を取るだけっす」、と言っていた15歳。本当に自分の相撲が取れた。圧倒的に落ち着いていた。ちいさなおすもうさん、いや、まぁ、小さくはないんだけどね、落合君。1200人の頂点に立つおすもうさんになった。

 落合君、このときも強烈に強くて迫力があって、優勝した。でも、優勝したら、倉本先生(当時の中学の相撲部の顧問の先生)のところに駆け寄ってわんわん泣いていた。明日、千秋楽、もし優勝したら、わんわん泣くのかな? 

 なんだか感慨深い。2018年。まだコロナがなかったとき。取材して、書いて、それが本になったのはコロナが始まった2020年3月だった。この本はぜんぜん売れなくて(笑)、ぜんぜんお金にならなかったなぁと、そういう意味で感慨深い。

 でも、落合君はスターになって、すごいなぁ、すごい。とりあえず、それだけです。はい。


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