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⑥45坪のオールウェイズ 第三章「今も昔も・夢ものがたり」②前編ー人生最初の試練ー

【ショーボートからラママへ】

      季の雫 1

ー人間みなこうしたものー

40年以上も昔の話し。ラママの前身ショーボートの想いでを、まるで昨日のように思い出している。

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では始めましょう。
なごり雪どころか、降り出して5分もたたぬうちに、通り過ぎる人たちの屈託ない話し声も聞こえなくなる。まさに“4月の狂い雪”。

地下室に居る私にとって、これからの前途を象徴するような、“この瞬間”。
今、ステージ上の椅子に腰かけ、舞台の照明を全開にして、私はある男を待っている。
ついこの間まで、手を叩き、大笑いしていた客席が、今はどこからか聞こえてくる微かな空気の揺れ以外、何の気配も感じられない。

閉めた店の静寂とは、こうしたものであろう。

人生に三度の大きな試練があるというならば、初めての大きな試練であった。

優れた才能を持った友人たちが、夢なかばで去っていく。なんとしても、゙夢と生活が両立できる場所を提供したい゙という最初の試みでした。

そしてその思いに共感する人たちとの共同経営であった。

ミュージカルシアター“ショーボート”。ラママ開店前、一年半の短い時代でした。
忘れることのできぬ素晴らしいステージの数々。スタンダード・ミュージカルを本格的な演出で上演。軽く飲食もできる店でした。

ステージは歌、芝居、踊り、3拍子揃った若い俳優たちが、青春をロックする熱い店であったのだが・・・。
閉店直後、ある雪降る1日の出来事を語りましょう。

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   幕を閉じて1ヶ月。

あの時も今夜のように雪嵐が吹きまくっていた。
まさに突然のベルの音!取るべきか、取らざるべきか。
しかし、取れ!取れ!取れ!と催促する受話器。
えい!ままよと手に取ると、案の定「社長いるか!!」の第一声。
「いえ、今は・・・」と答える私。

「どういうこっちゃ!潰れたんかい!」「いえ、あの・・・」
と口籠る私。間髪入れずに

「仕入れ代金はちゃんと払ってくれるんだろうな!逃げようなんて思うなよ!!社長がいないなら、あんた!今すぐ説明にこんかい!!」いやはや凄まじい剣幕。あの酒屋の主人がである。

再び重なる時は重なるもので、今度は東京電力!!

「あの、東京電力ですが、お宅さまの電気代7ヶ月(普通3ヶ月で止め)溜まっているんですが、このままですと不本意ながら停めざるを得ないのですが。それにしても・・・」

と側にいる担当者を叱り付けている。しかし酒屋の主人よりずい分ソフィスティケイトされた対応。やはり決定的に事業規模の違いなのか!?(後でわかった事なのだが停めにきた電力会社のスタッフに、管理人氏が暫くのご猶予を頼んでくれてたらしい、)

と、またまた鳴り響くベルの音。このあたりからさすがの私も少々開き直り気味。
「はい、はい」と出ると、当ビルの管理室から、「あ、今さあ請求書書いているんだけどさ、お宅のやつ書くのが嫌になるくらいあるんだよね!どうするのこんな状態で・・・。」
と半ばあきらめと同情の気配。

と、ああまた受話器が俺を呼ぶ。

「はい、ショーボート・・・。」すると「あの、そちらをお借りしたいんですが、条件を・・・。」ときた。
いやはや今夜はひどく込み入った状況なのである。

兎に角、ここは問題を一つ一つ解決しなければ、と最初の慌てぶりはどこへやら、冷静沈着な自分に驚きながらも、まず酒屋から話をつける。

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外に出る。今年の冬は厳しいと言うとうり、激しく粉雪が舞って、街灯の明かりも2つ、3つのおぼろ月。

この地獄坂も今は適当なゲレンデ・スロープ。雪のために姿は見えねども、キャッキャッとはしゃぎ回る女の子の声、声、声。誰かが滑って転んだのだろう。それにしても凄まじい降り。3、4メートル先が視界から完全に消えている。

   何十年ぶりの大雪らしい。

酒屋は坂下にある。
やがて見えてきた酒屋の店頭に、いるいるあの中太り、丸顔、角刈りの主人。何もない時はさほど感じなかったが、あの凶暴そうな風体は一体何なのだ。

幸いにして背をこちらに向けている。少し弱気になっている私では、ここは一度素通りするのが賢明だ。南口の広場に来る。雪はこの広場の独特な佇まいに、舞い上がり舞い降りる。
雑踏は聞こえども人々の姿はほとんど見えぬ。

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大和田の灯りがやけに明るい。しかし、私の精神状態と違い、そこを通り過ぎる人々のなんとも明るく幸せそうな顔、顔、顔。

自然の行為とは、これほどまでに分け隔てなく、人々の心を無になさしめるものなのか・・・。

見上げる顔に降りそそぐ雪。
身も心も真っ白、白に染まってゆくようだ。

しかし今のわたしには、何もかもこのまま埋れてしまえばいいと、私だけを刹那的に思わせてしまう、問答無用の自然の不条理!?

「何が酒代だ、3ヶ月で止めるだと!さすがに管理費は申し訳ない。」などと少々投げやりな気分になりつつも、変な戦闘意欲も湧いてくる。
「よし、もう一度腹決めて酒屋に乗り込むか。」角の居酒屋“ばん”を左に曲がる。
ひょっとして配達に出かけたのでは?なんて今更ながら非建設的な想像をかき立てながら、酒屋の前に再び来たのであった。

オオ〜やっぱりいるいる、腕組みをしてかの主人。
しかし何かが変だ。私の姿を見つけるや、片手でヤア!のポーズして、フレンドリーな微笑みをたたえている。
ヤア!来てくれたのか」、、、え?「来たか!」じゃないの?
それにしても雪がすごいねぇ。坂上はすごいだろう。ずい分転んだ連中が尻を拭き拭き降りてくるよ。」
いや、あんたも大変だね」と来たものだ。

覚悟してきた私にしては、滑って転ぶ以上の腰くだけ。

それでも深々頭を下げる私に「まあまあそこでは寒いから。」と中へ誘い入れ、
この辺はよくトンズラする店があるもんだからついカーッとして。」と、角刈り頭を掻いている。
おまけに売り物のホット缶コーヒーをこれでも飲むかと手渡す始末。

(そうか、そうか、今までは共同経営だったのか。これからは一人でライブハウスとやらをやってゆくのか!場所を明け渡すのじゃなくてね!)

あの当時はライブハウスがなんたるか、世間は勿論、税務署すらその業種内容を知らない。

なのにそうか、そうかと、ろくに仕事の内容も聞かずに優しい顔して大きく頷いている・・・・!?

おまけにほとんど未払金の話もなく、別れ際にはライブハウス!ガンバレヨ!と声までかけてくれる暖かさ。この男に一体何が起きたのか。と、外に出て直ぐさま納得だ!

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 これだ、この降りしきる雪だ!!

いつの間にか街全体が純白のファンタジー。30㎝以上は積もっている。あの故郷の雪景色そのままが今ここにある!
これぞ今は亡き、私の好きなシンガーソングライターの名曲、自然の゙ダイナミックなイタズラ゙!!やっぱりそうか!と自然の摂情に感謝する。そして思わず酒屋の主人と雪合戦でもしたくなって来る。雪を握りしめ、笑いながら、お前、この野郎などと言ってみたくなるのではあった。
しかしその日から「仕入れは現金でよろしく。」となったのは言うまでもないのである。
“はい”とかわいらしい返事を残して、渋谷の南口広場に向かってみる。
小降りになった渋谷の街も賑やかさを取り戻してきた。
静止画のような銀色の世界に、人間だけが忙しく影絵のように動いている。

そんな風景をボンヤリ眺めながら、しかし抑えきれず溢れるものを拭きもせず、なんのこれしき!!と思えてくる。   やがて

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天空の雪篭もいよいよ空になったのか、ただ雪色のホタルがふらりフラフラ舞っている。 (ラママ・アニバーサリー記念誌より)

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ラママは坂の上に居(あ)る

     季の雫 2

【待ち人来たる。君の名は、、、?】

今夜は、あの時以上に大雪になりそうだ。
待ち人もそろそろだろう。彼とはショーボート時代からの知り合いである。
半時程して、傘に積もった雪をバタバタと落とす音がして、Kやん氏がやって来た。

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今夜は、ステージ上の巨大な電飾盤の撤去作業をやることになっている。

もともとディスコとして使用していた空間であるため、踊り場の真上にいろいろな効果機材が収納されている。

ステージの高さは、せいぜい230㎝位であろう。ショーボート時代はそのまま使っていたのだが、ライブハウスとしては天井が低すぎて、出演者は照明による照り焼き状態は免れぬ。 
特に鶏冠(トサカ)の立ったポマードギラギラRockバンドは災難だ。盤を取り除けば350㎝くらいにはなるだろう。

しかしこの電飾盤、重量は500kg以上はある。タル木でしっかり止めてあり、取り外すのは大変だ!
私は手ノコ(ノコギリ)を、彼は一気に落ちぬよう、真下で支え役。

さて、何本タル木を切ったであろうか。
2人とも980円の折りたたみ椅子に乗っかって、足元ガタガタ言わせながらの不安定な作業。
もう少しで切り落とせる!ノコギリの手前に引くスピードをあげたその時である。

支え役の彼が叫んだ!

私も無理な姿勢の極み・・・。横っ腹に鋭く突き刺すような痙攣が走った。
ほぼ同時にふくらはぎに痙攣(多分腓返り)一瞬ガタガタと椅子が騒ぎ出し震えが止まらない。と又突然だ!バリバリとものすごい音を立てて電飾盤が落下したのである。

もうもうと立ち込める石膏ボードの白い粉。Kやんは真下だ!大事に至ったのか・・・。そう思うほど凄まじい事故現場?!
もしそうならばJ.S.W(s)、ミスチル、pillows、怒髪天等、BADミュージック所属、元所属のアーティストたちは、この世にスターとして誕生しなかったのかもしれない。

がしかし、崩れ落ちた電飾盤から気丈にも顔を出したのは、虚な表情ではあるが、まさしくKやん!

実はあの時、椅子がひっくり返りそうになり、思わず、電飾盤にしがみついた重みで落下したのでした。
しかし痛みに堪えて見上げるステージ上は、コンクリート天井まで、ポッカリ350㎝の素晴らしいライブ空間。

朝までかかったこの工事。2人とも、大いに満足。雪ふる外気出入り自由の楽屋で、暗幕にくるまり、二人とも疲れ果てて寝入ったのであります。

ところがその日のバンドの一人が,楽屋に入って慌ててスタッフ(Y君)に報告。

粉まみれの浮浪者二人、カーテンにくるまり寝てます!
“あ、あれうちの社長達よ”

その時バンドメンバー達、現実が理解出来たか、はたまた何かとんでもないライブハウスに来てしまったと、顔を見合わせたのか。私は知らない。

おまけに次の日、Kやんと350㎝の天井を見上げ、劇場ぽくていいよな!と来る人、来る人に自慢してる所に、いきなり招かねざる男が入ってきた。

お客のコーヒーカップが、ドラムと、ベースの振動でテーブル上でカタカタ踊っているといい、350㎝をみあげた。1階の喫茶店の社長である。

うちはクラシック、耳でモーツァルトの名曲聞いて、心静かにコーヒー飲んで幾らのお店。どんすか、どんすか目の前カタカタ、タップダンスじゃ、クラとロックのコラボじゃあるまいし、営業妨害もだしいと言うのである。

なかなか面白い事を言う男だ!

500kgもある電飾盤が、防音効果に貢献していた事は容易に想像がつく。とっさに今防音工事をやるところですので、暫く我慢を頼みこむ。

仕方がないと3㎝厚の石膏ボードを大量に買い込み、こんなもんじぁだめだと思いつつ、両面テープで張り付けていったのである。
何としても350近くは守りたい一心である。347になるのは、許容範囲!である

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次の日、肩に積もった雪を払いながら喫茶店の社長、リハーサルが始まると照明チェックのスポットライトを浴びて早々と再登場。

扉を開けるなり一気に捲したてるには、「ぜんぜん、ぜんぜん直ってない。
直してない!!」とステキにポッカリ空いた天井空間を見上げれば、両面テープで張り付けた厚さ3㎝の石膏ボード、バンド演奏の振動で剥がれて、ぶらさがってゆ〰️らゆらゆら揺れている。

社長黙して語らず。呆れ果てて帰っていった。

ここは矢張り専門家に頼もうと見積った金額○○○万円也。

今度は、床あげステージ拡張工事。私としては、ダンスからビッグバンドまで乗っけたい。
フロントを45㎝出す、出さないで彼と意見ガクガク。私の提案を通して決着。床は30㎝あげ、見てくれもステージらしくなってきた。

そこへなぜか西岡恭蔵氏がやって来る。床を踏んで、中の空洞に空気が貯まってボンツキがあるとの駄目だし。どぶ板20枚買って床剥がしてメチャクチャ重い奴を敷き詰め、隙間にセメントを流し込み鳴りを抑えたのでした。

専門家に依頼したが、高いので予定の施工範囲半分の防音穴塞工事。天井が40㎝も低くなる。

どうにもこうにも気にくわない。上がダメなら客席の床板を剥がして下を掘るしかないと、剥がしてみれば鉄筋が張ってある。諦めざるをえなかったのである。

メートル近い天井高の他の小屋を見ると、一瞬にして羨望の眼差しになるのは、その為であるのである。いいね、いいねと言う誉め言葉は、公演の内容ではなく、憧れ天井高の小屋空間に対しての場合が多いのです。 

こうして色々な制限の中、ラママの原形が徐々にできあがってゆくのでした。           

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                                                つづく
第三章今も昔も・夢ものがたり②-II   後編
J.S.W(s)の夢を叶えた男(仮題)楽しみに、、、。

写真の一部sankei,comより使用しています。

時短要請でバタバタしていて、少し落ち着きました。今書き上げてます。遅くなってスミマセン。

ーまた新しい企画も始まりますー

こんな昔を思い出しながら聴く中島みゆきもなかなかいいネ。研ナオコの(時代)もネ。引き続き、- 人間皆こうしたもの- Kやん氏とは?掲載します。

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新しくラママでの私からのプレゼントページが登場します。素敵なアーティストのライブステージや、ラママグッズ等ラママ紹介ページです。有名、無名問わず、お楽しみに。

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