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打ち上げ成功

「天候不良で着陸ができない場合、羽田空港へ引き返す可能性があります」予約した飛行機が欠航になり、すこし早い便に振替をしたときにこういわれた。これから10年に一度の大寒波が来るようだ。

風が強く、寒い。だけど夕日は綺麗だ。大寒波が来る前に着陸してほしい。だけど搭乗時間がどんどん遅れている。上空待機の時間もありそうだ。万が一、羽田空港に引き返したら搭乗時間も長くなる。振替の便なので混んでいる可能性も高い。窓側席をとっていたけど、トイレに行きやすいよう通路側席に変更をした。

Jクラスの通路側席はすでに満席だったので、エコノミークラスの通路側席に変更して差額分を返金してもらった。いざ搭乗するとJクラスは満席だけどエコノミークラスはガラガラだった。3列シートにぼく一人。前後にも人がいない。こうなるとエコノミークラスの方が快適だ。

ダウンロードしたネトフリが息子用の作品しかない。前後左右に人がいないので安心して『パンダコパンダ』を鑑賞した。「お父さんは毎日会社に行くものなのよ」という女の子のセリフが胸に刺さりそうになったけど、フリーランスで10年以上生活しているのだ。刺さる言葉を華麗にかわした。

これからお父さんは鹿児島へ向かう。種子島でロケットが打ち上がるので見にいく。仕事じゃない、遊びだ。

18時すぎに羽田空港を離陸して、23時すぎに羽田空港に着陸した。台湾ぐらいまで行けたんじゃないかってぐらいのフライト時間だった。

万が一、羽田空港に引き返す可能性もあったわけだけど本当に引き返した。万が一どころではなく、可能性は十が七ぐらいだったわけで覚悟もしていたけど、いざ本当に引き返す旨のアナウンスが流れると落胆する。

鹿児島で雪が積もるぐらいの悪天候だから仕方ない。きっと鹿児島の子どもたちは今頃よろこんでいるだろう。初めて雪をみた子だっているかもしれない。悪天候も立場によっては好天候だ。

悪天候の立場になった飛行機の乗客たちは一斉に天を見上げている。窓側席の乗客たちは窓に頭をもたれかけている。人は落胆したときに肩を落とすのではなく、頭が動くようだ。飛行機が引き返すと2回目のドリンクサービスがあることを知った。深夜の羽田空港で写真を撮って自宅に帰った。

翌日また羽田空港に向かった。ロケットの打ち上げが延期になったので、いまから鹿児島に向かえば打ち上げに間に合う。鹿児島空港に到着してバスで市内に向かう。いつもなら40分ぐらいで市内に到着するけど高速道路が通行止めになっていたり、チェーンをつけたり外したりしたので2時間ちかくかけて到着した。

コンビニでヨーグルッペとブラックモンブランを買って、いつも鹿児島で利用するホテルに向かう。部屋から見える夜のフェリーが綺麗なのでいつも泊まっている。お酒は飲まない、ヨーグルッペだ。スキットルでウイスキーを飲む大人になりたかった。汽笛の音が心地よい。

高速船で種子島に向かう。早朝の船だけど混んでいる。座ってシートベルトを着用する。揺れは少ない。本当に船なのか?ってぐらい揺れない。船旅感はほぼない。

種子島ではレンタカーに乗る。空車がハイエースしかなかった。ハイエースは撮影隊の友達だ。ハイエースの運転が好きなので問題ない。問題はないけどサンバイザーにビニール袋がついてるぐらいの新車だ。シートにビニールがついていなくてよかった。サンバイザーは飾りじゃないから、ビニール袋は納車のタイミングで外した方がいい。

種子島は南国っぽい雰囲気だ。3kmに1本ぐらいの間隔でサトウキビが道に落ちている。カーブの手前によく落ちているので、サトウキビを積載したトラックがスピードを落としたときに、サトウキビも落としてるようだ。サトウキビって夏のイメージだったけど冬の今が収穫シーズンらしい。

打ち上げを見学できる公園にきた。老若男女たくさんの人が集まっている。初日の出を待つような空気感がある。スピーカーからJAXAの無線が流れてくる。発射450秒前からカウントダウンがはじまった。「まだあと7分以上あるぞ」と後ろの男性が笑いながら家族と会話している。ぼくは頭の回転が遅いのでこういう人にマジで憧れる。

ロケットが打ち上がった。Twitterのトレンドには「打ち上げ成功」と上がっていた。晴天だけど噴射炎はマグネシウムを燃やした時のように明るい。25秒ぐらい遅れて轟音が聞こえてきた。25秒×340mなのでここから発射場まで8.5kmぐらい離れているっぽい、知らんけど。

打ち上げが終わるとスマホを操作する人がたくさんいた。写真を誰かに送っているのかSNSに投稿しているのか、すぐに誰かに伝えたいんだろうな。

このロケットに搭載されているのは政府の情報収集衛星、つまり偵察衛星だ。北朝鮮も頻繁にミサイルを打ち上げるけど、ミサイルの打ち上げをたまたま目撃した人は「さっきミサイル見たよ!!」って興奮気味に家族や友達に教えるんだろうな。

離島に来たら「スーパーで買い物」「パチンコで千円遊ぶ」「食堂で食事」「郷土資料館に行く」ということをしている。だけど帰りのフェリーまで時間があまりない。いろいろあきらめて郷土資料館だけ行くことにした。

種子島は鉄砲伝来の島だ。鉄砲を分解してコピーする上でネジの概念を知ったそうだ。競技射撃にタネガシマ種目があることを知った(オリンピックでやってくれないかな)「戦いの火蓋が切られた」というのは火縄銃の所作が由来だと知った。

実際に火縄銃を手に持ってみた。銃口側が重すぎて重心のバランスが悪い。銃剣をつけて槍に進化したのは当然の流れだなって感じる。浅くて薄い知識がまた積み重なった。

フェリー乗り場の売店でアンパンとクリームパンを買った。賞味期限の問題なのかこういうところのパンって甘いパンしかないんだよね。途中で護衛艦を見かけた、かっこいいなぁ。

死ぬ前に見たいものの一つがロケットの打ち上げだった。死ぬ前に食べたいものもあったけど、これは実際にクリアしていくと「あぁ、こんなものか」となることが結構ある。食べものは羽釜で炊いたご飯と豚汁とポテトチップスがあればいい。

死ぬ前に見たいものは感動する。本当に死ぬ前のギリギリだと見たくても見れないから動けるうちに見たほうがいい。一人旅を反対しないで送り出してくれる妻と息子には感謝しかない。がん患者の一人旅って周囲から反対されがちだからありがたい。妻と息子にはお土産に宇宙食を買った。

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好きなことをしてると悩んでることを忘れていいわ。ぜひ。


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