見出し画像

熱海の食べ歩き


電車の窓から桜が見える。日本では桜色が春の色だけど、ヨーロッパでは若草色が春の色だそうだ。

常夏の国の人に「春の色は何色?」と質問すると、春の色がわからなくて黒色と答えるらしい。日本にいても乾期や雨期とか白夜とか南半球の星座とかのイメージってわからないもんね。そんなことを考えながら東京駅に向かう。

東京駅の中央線ホームはエスカレーターが長い。水力発電ができそうなぐらい長い。途中で平坦になるエスカレーターもある。旅にいくときはこのエスカレーターになるべく乗る。宇宙にいく感じがしてテンションが上がる。

東京駅の待ち合わせ場所には気仙沼漁師カレンダーの撮影でお世話になった、斉吉商店の斉藤和枝さんがいた。東京ではもう桜が散り始めているけど、気仙沼はまだ桜が満開になってないそうだ。久々に会った人と季節の話に花を咲かせてしまうのが大人になった証拠だ。

熱海に到着した。新幹線で熱海に来たのははじめてかもしれない。あっというまに到着した。八王子駅から東京駅までよりも早く到着した。

熱海はぼくにとって思い出の街だ。高校生のときにはじめて一人旅をしたのが熱海だった。はじめて旅の写真を撮ったのが熱海だ。

写真学生の頃に友達と撮影旅行というはずかしいこともした。妻と結婚前に旅行もした。いまでは毎年、家族で旅行して熱海の海にはいっている。

熱海でなにか特別なことがあったわけじゃないけど、ちいさな思い出がたくさんあって、毎年ちいさな思い出を作っている。

熱海駅は小高い場所にあって、そこから1kmぐらい下ると海沿いの街がある。熱海駅から街までの途中に立ち飲み干物屋さんがある。

カウンターで缶チューハイを注文して、斜めがけのカバンを下ろそうと腕を上げたら、天井につるされたフグのトゲが手に刺さった。

缶チューハイと一緒にグラスとロックアイスがきた。焼き上がった干物がすんごい美味しくて、旅のメンバーみんな興奮している。

大きな声で美味しいと連発しているんだから路面店にとっていい客だ。お店のインスタ用に撮影もされた。ちいさな思い出がまたできた。

熱海はそこらじゅうで温泉の湯気が上がっていて、温泉たまごを作れる場所がある。目の前には酒屋さんがあって、バラ売りの生卵を買える。

10分でしっかりとゆでたまごになる。黄身までしっかりゆでてるけど、白身は半熟たまご並にやわらかい。蒸すと火の通り方が違うのかな。

海沿いの街まで下りて村越魚店さんで、刺身を食べる。鯵が美味しい。アジは魚と参からなっている。美味しくて参る(まいる)から鯵らしい。そもそも味がいいからアジという名前でもあるらしい。鯵を命名した人はきっと中高年だったろうな。

深海魚っぽい魚も刺身で食べた。魚のハンドブック片手にゲホウという魚と教えてくれた。深海をさらうタカアシガニ漁で一緒に獲れるらしい。身はコリコリしている。

お客さんがひっきりなしにくる。こういう個人商店にお客さんがひっきりなしにくる景色って、東京ではあまり見かけない。

熱海は個人商店だらけだ。チェーン店をあまり見かけない。駅前にマクドナルドと魚民があって、海沿いにジョナサンがあるぐらいだ。チェーン店が少ないのが魅力なんだよね。

浜辺を歩いたあとに中華を食べた。どの街にいっても中華は美味い。中華と焼肉と焼鳥はどこの街でも美味しい。

熱海は若い人がいっぱいいる。原宿かってぐらい若い人だらけだ。熱海が観光で一番盛り上がっていた1960年代も若い人であふれていただろうから、よくよく考えたら熱海はずっと若い人の街なのかもしれない。

祖父母世代と孫世代で熱海の話ができるのはいいよなぁ。1960年代にあったお店がいまでもいっぱいあるし。

チェーン店は少ないし、インスタ映えするお店も昔からあるエモいお店まであるから、若い人にとってはおもしろい街なんだろうな。

中華を食べたあとは渋い居酒屋でチューダーを注文した。スイスの高級腕時計チューダーじゃない、焼酎を三ツ矢サイダーで割った酒だ。焼酎の“ちゅう”とサイダーの“ダー”の部分をつなげている。

藤子不二雄さんの『まんが道』でトキワ荘の荘飲みシーンでチューダーが出てくる。発祥はたぶん『まんが道』だ。

というかお店のメニューにあるのはじめてみた。サイダーの甘さで飲みやすいけど、飲みやすすぎて危険だ。3杯飲んだら二日酔いになる。

次はレトロな建物のコマドというバーにいった。もともと遊郭だった建物だそうだ。一人だったら絶対に入れない雰囲気のお店だ。仲間と旅する魅力が一人なら入れないお店に入れることでもある。

熱海は1950年に街の1/4が消失する大火事がおきている。コマドのあった地域も火災にあっている。火災後に建てられて1956年に売春禁止法ができるまではコマドの2階でも売春が行われていたそうだ。

ずっと食べて飲んでいた。旅先で食べて飲んでいろんな人と会話するから、いろんなことを知れる。

浅くて広い知識だけど、浅くて広い知識ほど会話のネタになる。会話のネタからまたあたらしい浅くて広い知識をえることができる。ちいさな思い出もたくさんできる。旅ってのはやめられない。

翌朝、魚市場にいった。ちょうどセリをしている。魚の卸値を知れておもしろい。魚の卸値は漁港によって全然ちがう。

熱海で1kg1000円の魚が築地だと1kg2000円になったりする。値段は需要と供給で決まるということを知れておもしろい。

必ずしも値段が高いから美味いというわけでも、安いから美味しくないというわけでもない。魚は人気商売だ。

熱海にかぎった話じゃないんだけど、旅先で困るのが朝食だったりする。朝食に力をいれて配膳までしてくれるホテルならいいんだけど、朝食ビュッフェは正直朝から疲れる。

マスクはまだしもアルコール消毒をしてるのにビニール手袋するのもめんどうだし、入口で並ぶほど混んでることもあるし、ちいさい子どもがいると朝食ビュッフェはなかなかに疲れる。

ケチくさいことをいってしまうけど、値段もそこそこしてるのに家族で旅行したときの朝食ビュッフェは疲労感が残って味が残らない。

熱海で朝食を食べるなら、かまなりがおすすめ。ぼくはもう絶対に次からかまなりで朝食を食べる。

綺麗でオシャレで美味しいとまできている。ひものデリプレートを食べたけど、スモークさばバーガーもおすすめ。

干物って焼くイメージだけど、焼きも揚げも燻製もいける。熱海にいけばわかるけど、セブンイレブンと射的のゆしま遊技場の間にある。

かまなりを運営しているのが釜鶴という干物屋さんだ。ここが旅の目的地といってもいい……きっとそうだ。五代目の二見一輝瑠さんが干物ことも熱海のこともたくさん教えてくれた。魚市場もかまなりもコマドも案内してくれた。

干物は塩を使って水分を抜いて干した保存食だ。現代では冷蔵と冷凍の技術が上がり、そこまで保存面を気にせず、水分を抜きすぎないみずみずしい干物になっているそうだ。

使用する塩で干物の味が変わるのかと思いきや、ほとんど味はかわらないそうだ。生魚を焼くのと、干物を焼くのでは干物の方が美味しく感じる。

塩焼きも塩をふって水分を抜いてるし、マグロの刺身も塩で水分を抜くと美味しくなるから、水分を抜くのは大切なんだろうな。

塩とネットがあればできそうだから、渓流で釣った魚も干物にしようかな。かまなりでは干物のワークショップもやっているそうだ。参加したい。エビとイカとイカの軟骨とホッケとアジをお土産に買った。アジ以外はもう全部食べた。美味い。もっと買ってかえればよかった。

最近網焼きにハマっている。ガスコンロに温度センサーがあって、網焼きがずっとできなかったんだけど、コンロと網の間にコレをいれることで解決。便利。焼き鳥もトーストも美味しい。もちろん干物もおすすめ。


サポートされた資金で新しい経験をして、それをまたみなさまに共有したいと考えています。