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うまいけどダメな写真とヘタだけどいい写真

美術館の白い壁をイメージするとわかりやすいけど、撮影スタジオにはホリゾントという白い壁がある。

スタジオではこの白ホリをペンキで塗る作業がある。スタジオで働いていると間違いなく上手くなる技術のひとつがペンキ塗りで、スタジオの仕事ではめずらしく長時間の単調な作業になる。

いい写真ってなんだろうな?と考えたり、将来フォトグラファーになれるのかな?みたいな不安にのまれながらペンキを塗る。無音のスタジオでペンキ塗ってるとさみしくなるので音楽をかける。

ぼくはいま40歳なんだけど同年代でスタジオ経験のある人あるあるだと思うんだけど、ペンキ塗りのときに『サヨナラCOLOR』をよく流していた。

『サヨナラCOLOR』はハナレグミの永積タカシさんが作詞作曲した、いわずと知れた名曲だ。将来の不安を抱えながらも目標に向かう人の心を射止めた曲が『サヨナラCOLOR』だったのだと思う。

スタジオで働いてるとなかなか辛いものがある。使い捨てられる単三乾電池みたいな働き方をする。辞めてしまう人がいっぱいいる。

熱意や努力みたいなもので耐えられた側面もあったのかもしれないけど、振り返ればたくさんの音楽に支えられていたのだと感じる。そんな『サヨナラCOLOR』を作った永積タカシさんとBRUTUSの写真特集で対談をすることになった。

BRUTUSの編集者さんと打ち合わせをしているときに、スタジオで『サヨナラCOLOR』をめちゃくちゃ聴いていた話がきっかけだったような気がする。

永積さんも写真を撮っていて、タイミングよく写真集まで出されていた。ぼくがワークショップで写真をちょこちょこ教えていることもあり、永積さんと一緒に写真を撮るという企画になった。

永積さんの写真集を見る前から予想はしてたけど、予想通り写真がとてもよかった。そりゃ、そうだ。音楽がいいんだから写真だってあっさりできる。ちなみに逆の現象は無い。

大谷翔平さんだってゴルフをやってもすごいスコアだすと思うんだよね。

当日は雨。永積さんの撮り方をみて「写真って性格がでるな」とまじまじ感じた。敵意なくスススッと被写体に近づく。それはまぁみんなそのつもりなんだけど、永積さんは周囲が感じとれる安心感をだしながら近づく。

これができるのって子どもとパンダとゴールデンレトリバーぐらいなのですごいことだ。このとき現場にいた全員が思ったろうな。

雨のなか写真を撮ってると「雨の写真」にしかならない。どうしようかなヤバいなと焦っていたら、一瞬だけ太陽がさした。永積さんのファンの方々にとっては、ぼくが撮った街中の写真じゃなくて永積さんをみたいわけだから、笑いながら水滴に濡れたレンズを服でふく姿を撮った。

きっとコンサートの合間とかに永積さんがファンの方々に見せている姿とそんな変わらないんじゃないかな。

生意気にも編集者さんに「この写真で!」と指定して送った(普通はたくさん写真を送って編集者さんが決める)

写真家っぽいことをいっちゃうと、写真って考える仕事なんだよね。

「写真は考える仕事です」ということを一冊の中に何回も書いた本が11月にでます。『うまくてダメな写真と、ヘタだけどいい写真』というタイトルの本です。

イラストはヨシタケシンスケさんです。ぼくも妻も息子も大ファンなんです。表紙に家族のイラストを描いてもらいました。おかげでぼくの家庭内評価が上がりました。

これまでに本は何冊か出してはいるんですが、写真の本はこれがはじめてです。写真の話はできれば触れたくなかったからこれまでなるべく書かないようにしてました。だけど写真のことを誤解している人が少なくないと思ったので書きました。

写真をはじめた人が誤解をしないための、初心者向けの本です。中3の先輩が中1の後輩に部活を教えるぐらいのレベルの本です。写真のことを誤解しないですむ本だと思います。写真が楽になります。

うまい写真をいい写真だと思ってませんか?ここを誤解しちゃうと、うまくなろうと努力しちゃうんですよね。

スタジオでペンキ塗ってるぐらいのガチの人向けではありません、そもそもぼくレベルじゃ教えられないし。

Amazonで予約がはじまりました。60万部ぐらい売って世の中の写真の誤解をときたいなと思ってます。よろしくお願いします。


サポートされた資金で新しい経験をして、それをまたみなさまに共有したいと考えています。