『ワレサ議長』は実は『ヴェウェンサ議長』だった
突然ですが、私、趣味でコントラバスを弾いてます。
下の写真が私の愛器なんですが、一番上の通常は渦巻きが彫刻されている部分がライオンの顔になっているので、愛称は"Lionbass"です。
愛称は英語なんですが、ポーランド製。
ちょうど100年前の1922年に作られました。
細かくいうと、作られたのはポーランド東部のルブリンという街。
ルブリンはウクライナとの国境から100km弱なので、今回の戦争による避難民が滞在したり通過したりしているのではないか、と思いつつ、戦争が一刻も早く終結することを願っています。
ところで、ポーランドで思い出すのは、1980年代前半に国際ニュースを賑わせた自主管理労組「連帯」のLech Walesa 議長。
ポーランド北部、グダニスクの造船所にできた文字通り「自主管理=政府管理ではない」労働組合である「連帯」の議長として、反政府・反共産主義の立場で活動。
まだ冷戦真っ盛りの状況の中、旧共産圏での自由化を求めるうねりの先駆けとなりました。
のち1990年に大統領に当選し、ノーベル平和賞を受賞しています。
そして、ここからが本題です。
”Lech Walesa” というお名前、日本では「レフ・ワレサ」として通用してきました。
日本だけでなく、英語圏のニュースでも「Walesa(ワレサ)」と発音していたような記憶があります。
ところが、名前の綴りは正確には "Lech Wałęsa"です。
お分かりでしょうか、"l"(L)(エル)に斜めの横棒が、"e"の下にはヒゲが付いています。
"L"に横棒が付くことによって(英語だと)"w" にあたる発音に。
また、"e"にヒゲが付くことによって"n"の発音が加わるのだそうです。
そして、"w"が英語の"v"のように有声子音になるのはドイツ語などと同じ。
ということで、"Wałęsa" はカタカナで書くとすれば「ヴェウェンサ」のような発音になります。
インターネットが普及するまで、国際的な情報のやり取りは電話かテレックスで行われていました。
国際電話がつながるかどうか怪しくて料金も高かったころ、テレックスは電話より確実で料金も割安、記録も残せたので、とても重要でした。
過去のものになってしまったので、ご存じない方も多いと思いますが、テレックスはタイプライターを電信線でつないだようなもの。
あらかじめテープに文字・文章を打ち込んで(穴を開けて)用意しておき、相手側を呼び出してテープを機械にかけると相手側の機械で文字が打ち出されます。
1930年代から21世紀初頭まで現役で、国際的なニュース原稿も、テレックスが最も重要な送信手段でした。
このテレックス端末は、いろんな言語のバージョンがあったようですが、標準的な英語バージョンだと、上記のような「"l"(エル)に横棒」とか「"e"にヒゲ」などの文字は打てませんでした。
やむを得ず、横棒やヒゲを省いた形で文章・文字をやり取りしていたわけです。
”Wałęsa"(ヴェウェンサ)が"Walesa"(ワレサ)になったのは、このような経緯だったようです。
外国の地名・人名が違った読み方をされてしまう、という問題は、日本だけでなくいろんな国・言語で起きているわけですね。
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