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初めての食感「花嫁」

しまった。もう10月では無いか!慌てて連絡をする。8月に前からどうしても食べてみたいリンゴがあり、購入の手筈はつけておいたのすっかり忘れていた。というのも自分もそのリンゴの収穫時期がわからなかったためである。なので適当に連絡して購入できればと思っていた。その考えはあまかった。慌てて連絡をすると既に収穫は終わっていて「ありますが柔らかくなってしまいました!」とのこと。そのメッセージを見た時に額に手をつけて「やっちまったなー」とテンプレート通りの仕草をする。しかし、柔らかくなってもモノがあるなら買うしかないと思い購入。その園主さんはもう柔らかくなってしまったので箱代と送料分だけで良いといってくれた。とても有難いことである。来年からはちゃんと硬いうちにお願いしよう…

名前は「花嫁」、英名はWealthyと呼ばれる。Wealthyは直訳で裕福とかの意味、なぜ花嫁という名前になったのか少し気になるが知りようがない。今でも花嫁と呼ばれる桃の品種があるので決して時代遅れの名前では無さそうだ。

食レポの前にここで花嫁の来歴を紹介したい。アメリカ原産のリンゴで遅くとも1860年には記載がある。日本では1890年(明治23年)にカナダ人のギップ氏が札幌農学校(現・北海道大学農学部)に寄贈したのが始まりである、この時同じくして旭リンゴも日本に初めて導入された。また、この当時は品種の名称が各地で異なり混乱を招いたことから全国共通の名称が求められ、東北6県、新潟、北海道との間で「帝国苹果名称一定会」が開かれた。この名称選定会もなかなか順調に進まなかったようで、第5回の開催を経て全国共通の名称が決まるまで続いた。この時に花嫁という名前がつけられた。花嫁は入ってきたルートもあってか当時から北海道でしか栽培されていなかったようで1895年(明治28年)に花嫁と名前がつく前までは新種・ウェルシーと呼ばれていた。しかし、このリンゴは同時期に導入された「旭」のように日本全国で栽培されるまでに普及しなかったようで75冊近くある種苗目録を確認しても2冊しか記載がなく、どちらとも北海道にあった同じの農園ものであった。

1925年「富国園 創刊号」時期的には旭や祝と同じ早生種

昭和10年に刊行された内外植物大図鑑では品質と貯蔵力は劣るも耐寒性に優れると記載がある。このことから当時でも北海道で限定的に栽培される地方品種であったと推察される。


1935年「内外植物大図鑑 6巻」より

北海道は青森のように戦争の米などの転作の影響がなかったようで、戦後の2年ほど北海道が生産量が1位になった時期が存在する。しかし、戦後はデリシャス系の転作が進み、完全に淘汰され北海道のみで栽培があった「緋の衣」や「生娘」などと同時期に消えたと推測する。

雪印種苗HPより年代不明。昭和30年代初頭と思われ。

ただ、北海道は本当にノアの箱舟のような場所で樹齢100年を超える古木が沢山の残っており、本当に助かっている。紅魁なども北海道の農家に残されていたモノである。この花嫁は確認した限りでは青森のアルファーム様のみが栽培しており、2010年頃から復刻に取り組んでいる。

アルファーム様の昔のブログ。今ではこちらは使われていらっしゃらないが、当時の記録が残っている。

唐突に話が変わるのだが私は果肉の柔らかいリンゴが大の苦手なのである。正直なところ「柔らかい」の文字を見た瞬間に身震いがした。これも特性を知る上では欠かせないことで、コメディー系テレビ番組の芸人がゲテモノを食わされているような感じで食べてレポートとっている。食べれなくてもジャムやタルトタタンに加工するので無駄はない。

しかし、花嫁は想像していたものと違っていてかなり驚いた。箱から取り出した瞬間にややズッシリとして重いのである。早速、食べてみるとかなり沢山のリンゴを食べてきたが初めての食感であった。確かに果肉は柔らかくなった津軽のようであったが、噛むとものすごい量の果汁が溢れてきた。多分、果汁の含有量で言えばどの品種よりも多いと思う。リンゴで1位2位を争うほど果肉がとても粗く、例えるなら水分を目一杯吸収したスポンジのようである。果肉が荒いので噛んだ時にカスにならず、すっと消えていった。柔らかいリンゴが嫌いな私でもこれは食べることができた、多分私が嫌いなのは水分のないパサパサなリンゴなんだと思う。

肝心の味は酸っぱすぎず、甘すぎずバランスは取れているのだが、甘・酸のどちらもやや控えめでさっぱりとしている。そのまま食べるとやや淡白に思うかもしれない。糖度は13度と平均的な値であった。香りはあまりなく、食べた時の風味も良いとも悪いともいえずサッと消えていく感じで独特。強いていうなら風味が消えていく際にやや薬臭い風味が微かにした。形は扁円で、重さは281g。

このリンゴを栽培しているアルファーム様でもこれからも加工用として栽培すると仰っていた。どのように加工するかはお伺いしなかったが、これは加熱をして食べるリンゴではないのでジュースにかなり向いている。私も世界的人気キャラクターのキティちゃんの体重に相当するリンゴを用いてジュースを作ってみた。搾りかすのロスは少なく、できあがったジュースは程よい酸味と甘さですっきりとしておりのどごしが良い。ちょっと勿体ないような気もするが、これはよかった。来年は硬いうちに食べてみたい。正直、国光とか紅玉とかよりは好きな味なのだけどなぁ……

ちなみに青森の開市で出てくる赤いリンゴの「花祝」は祝×花嫁の掛け合わせです。お盆の飾りリンゴに使われることが殆どで、色がついたら味の乗る前に収穫されるてしまうことも多い。早取りしたものは甘みがなくて渋いものもあるようで生食用としての評判はかなり悪いです。ただ、熟したものは評判に反してそれなりに美味しかったです。


上から祝(完熟)、花祝、祝(はやもぎ)

〈参考文献〉
村越三千男、「内藤植物原色大図鑑 第6巻」植物原色大図鑑刊行會、1935
吉田義雄、「リンゴ品種大観」、⻑野県経済事業農業協同組合連合社、1986 年 

〈購入先〉
アルファームさま
https://ringosamurai.com/vendors/アルファーム/

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