見出し画像

スイカ・メロンの近代史 Vol.1「日本におけるスイカの品種の移行」

ウリ類はかなり古くから食べられ、奈良時代の遺跡からもその痕跡が確認されているほどだ。そのくらい私達日本人の生活に欠かせないものである。その中でもスイカとメロンについて

vol.1「スイカの品種の移行」
vol.2 「昔のスイカには縞がなかった/明治でも冬にスイカが食べれた」
vol.3 「~メロン栽培は貴族の嗜み~日本のネットメロンの始まり/〜自粛すべき贅沢品〜戦争と不要作物」

の3回に分けて紹介する。

〜スイカ〜

スイカは平安〜鎌倉時代に書かれた「鳥獣人物戯画」に描かれたものがスイカではないかとする説もあるが定かではない。ウリのように見えるが、なんというか縞模様だけで判断して良いものか……とは思うが

2年くらい前に東博の展示で見たもの。桃らしきものも確認できる。

近代以前のスイカ事情には詳しくないので割愛するが、江戸時代にはスイカがかなり普及してたようで浮世絵にも多く描かれる。去年にスイカが描かれた浮世絵が大田区美術館さまで公開されており、私も見に行った。写真撮影は禁止であったので、大田美術館さまの公式noteを参照していただきたい

この当時は皮が黒い「鉄兜」と呼ばれるものが出回り、食べる際は砂糖をかけてたべたそうである。そうなると味は……まあお察しの所である。また、葛飾北斎の「西瓜と包丁」から見てわかるように可食部もかなり少ない。北斎はスイカを好んで題材にしたようで他にも吊るした縄に剥いたスイカの皮を引っ掛けた「西瓜図」がある。話がズレるが、布の表現が見事である。

小布施 北斎美術館蔵

スイカ品種の移行

神田武 著の「西瓜の栽培技術」では明治から大正4年までを「黒皮時代」、大正4年から昭和4年までを「大和時代」、新大和系の品種が出来た昭和4年以降を「新大和時代」と区分している。

明治を迎えると近代化とともに海外の品種が多く導入され、主に米国などからアイスクリーム、甘露などの品種が導入された。それらは今のスイカ品種の祖先となっている。明治期は在来の選抜品種と前に紹介した舶来の品種が混在していたが、大正に入るとそれらの品種で改良が進みアイスクリーム×権次の交雑から生まれた大和○○号の名前を冠する品種が作られた。大和の名前は当時改良に力を入れていた奈良県に由来するものであろう。現在でもスイカの育種は奈良県が中心である。

明治43年庚戌春季号 新宿農事試験場 営業案内より。著者蔵

昭和に入ると更にその大和系品種(主に大和3号)に米国系の品種「甘露」を掛け合わせた品種「新大和」が作り出された。これは一代交配種(F1)であり、採種に手間がかかったので固定種である新大和○○の名を冠する品種や「旭大和」が生まれた。特に昭和8年に新品種として出された「旭大和」は高品質であり、旭大和の市場取引価格でその右に出るものは無いとされ、市場を席巻した。

同時期に果肉が黄色や白に近い黄色い果肉をもつ「大和クリーム」も登場した。鹿児島の伝統野菜「養母すいか」はこの品種のことを指す。

また中国由来の縞が薄く、楕円形でオレンジ色の果肉を持つ「嘉宝」と呼ばれるスイカも高級フルーツ店に並べられるような特殊品種として栽培があったようである。その後、千葉でも新大和系の「都1号」など今のスイカの産地でも新たな品種が育成された。

昭和14年 タキイ種苗のチラシより。ご時世的に戦時色がかなり強い。もう少しするとスイカの栽培も禁止される。著者蔵

新大和2号、大和クリーム、旭大和などは今でも市販されており買い求めることが出来る。

その後、昭和11年に大和系の品種「富民号」に「旭大和」を掛け合わせた一代交配品種の「富研号」が生まれた。こちらは肉質や食味では「旭大和」よりやや劣るとされたが味も良く。また皮が薄く割れやすい「旭大和」よりも皮が固く、輸送に耐えることから戦争を挟み戦後にわたって滋賀、淡路島、神奈川県など広い範囲で栽培されたようだ。しかし、その後は新たな品種が矢継ぎ早に登場し、「富研号」は緩やかに栽培面積を減らし昭和50年頃までには栽培されなくなっていたようだ。しかし、現代に「あの味を再現しよう」とかつての産地で「富研号」の復刻が相次いで起こった。そのため、果実も買い求めることができる。

重さは8キロほど、普通のスイカよりやや大きいくらい。当時の平均は6.3キロほど。形は楕円に近く、何より特徴的なのは皮の縞模様が薄いことだ。買った所に伺うと綺麗な形に作るのは難しいとのこと

味はかなり甘く、糖度計は無いので私の舌基準になるが確実に糖度15度はあった。味は現代の品種より柔らかいも甘さに思えた。というのも当時「旭大和」の味は白砂糖と例えられるほどであり「富研号」もその特徴を受け継いでいるのか、確かに白砂糖のような優しい甘さで「これは当を得た表現だ!」と少し感心した。食感(俗に言うシャリ感)はやや少なく、柔らかめであった。

正味なところ、現在の品種と見た目以外は謙遜はない。私はこれを切ってポンと出されても現在の品種と勘違いしてしまうだろう。
この種は市販されておりませんでしたが、なんとその話題をツイートした所「富研号」を開発した萩原農場さまがオンラインショップに追加して下さいました!行動する大切さを痛感しました。萩原農場さま、この場でお礼を申し上げます。

〈参考文献〉
やまひこ農園「昔のスイカ品種」
http://www.yamahiko-farm.jp/mukashisuika.html
株式会社萩原農場「スイカの歴史」
https://suika-net.co.jp/user_data/history
神田育種農場「西瓜の栽培技術」
http://www.kandaseed.co.jp/pdf/suika_no_saibaigijutsu_20171204.pdf
奈良県農業開発センター「植物遺伝資源リスト」
http://www.pref.nara.jp/secure/202101/plantlistver6.pdf





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?