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お菓子の空き箱

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小さくなったいい匂いの消しゴム、海で拾った丸くなったガラス、お菓子の包装紙どれも大切で捨てられないもの お菓子の空き箱に入れて取っておいた、あの日の宝物をそっと開けて確認するよう…
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#小説

ヤマカガシ..004

最初にそれを見つけた時は、分かっていたのにすぐには触れなかった。 それが大きかったこともあったが、既視感で動けなかったのだ。 まるで古いフィルムが再生されるように、あの日の出来事が頭の中に蘇ってきた。                ☆ まさ子が熱を出して学校を休んだので、帰りがけにプリントと給食のパンと牛乳を届けに行くことになった。 家を訪ねて行くと、まさ子はまだ熱が下がらず会えなかったが、叔母さんがお礼にと紙ナプキンに包んだお菓子をくれた。 役割を終えた解放感で

始まりの証...003

小学校の通学路に山道があった。 本当は山道は私の通学路じゃなかったのだけど、実はあそこを通って帰るのが大好きだった。 集合住宅の隣のミカン畑に金網のフェンスが張ってあり、真ん中を急で細いコンクリートの下り坂が続く。 付近の住宅は直ぐに無くなって森の中に入る。 殆ど真っすぐの山道の出口の少し手前で右に曲がると、小さな沼がある。 小さな沼の水は澄んでいいて、けれどもいつも静かで波立つことは無かった。 冬には薄い氷が張って、それを取り出して地面に落とすと鉄琴を鳴らすような